【幕3】成功と白け
① 表面的勝利
断罪式は、整然と終わった。
秩序だった拍手が、広場を満たす。
割れんばかり、ではない。
義務のように揃った、乾いた音。
王子アルベルトが立ち上がる。
「見事だ」
短い言葉。
それだけで、評価は十分だった。
デルガは一礼する。
背筋は伸びている。
手も震えていない。
理屈は完璧だった。
論理は破綻していない。
群衆は納得した。
反論はなかった。
形式上、勝利。
完璧な設計。
完璧な執行。
完璧な終幕。
——のはずだった。
② 群衆の温度
だが。
広場を去る民衆の足取りは軽くない。
帰路の石畳。
夕暮れ。
小声が、風のように流れる。
「……なんか難しかったな」
「うん」
「悪女って感じじゃなかった」
「前のほうが盛り上がったよな」
笑いも怒号もない。
熱狂も、涙もない。
ただ、分析めいた感想。
断罪は“物語”だったはずだ。
恋。
嫉妬。
裏切り。
感情の爆発。
それが観衆の熱を生む。
だが今回は違う。
理屈だった。
善の過剰。
構造の圧力。
心理の分析。
理解はできる。
だが、燃えない。
デルガは群衆を見送る。
(断罪が、娯楽でなくなっている)
理屈になった瞬間。
劇は冷める。
物語が思考に変わる。
人は拍手をするが、心は揺れない。
彼は初めて、その差を体感する。
③ レイアの最後の視線
護衛に囲まれ、レイアは去っていく。
騒ぎも起きない。
彼女は静かに歩く。
足取りは乱れない。
背も曲がらない。
完璧な姿勢。
そして。
ほんの一瞬。
振り返る。
デルガを見る。
その目は。
恨みではない。
怒りでもない。
悲しみですら、ない。
理解しようとする目。
なぜ、という問い。
どうして、という静かな探求。
まるで彼を裁くのではなく、
彼を“理解しようとしている”。
デルガの胸に、わずかな揺れが走る。
(責めればいい)
(怒ればいい)
(それなら構図は完成する)
だが彼女は責めない。
彼女は、考えている。
その視線が、
ほんのわずかに、
彼の内側をえぐる。
レイアは再び前を向く。
歩き去る。
白い衣が夕日に溶ける。
デルガは立ち尽くす。
成功した。
制度は守られた。
王子は満足している。
民衆も反乱は起こさない。
だが。
何かが、削れている。
熱。
期待。
次回への渇望。
断罪は続けられる。
だが。
盛り上がらなくなっている。
その兆しを、デルガは確かに感じていた。
夕暮れの広場に残るのは、
歓声ではなく、
理屈の余韻だけだった。




