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悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


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6/8

【幕2】逆転断罪の設計

① 論理構築


夜。


王城執務室。


紙の上に並ぶ文字は、すべて整然としている。


デルガは机に肘をつき、静かに思考を積み上げていた。


自己犠牲は、美徳。


それは疑いようがない。


だが。


(過剰な美徳は、均衡を崩す)


彼はペン先で一点を叩く。


レイアは、自らを削る。


望まず。

求めず。

報われることも望まない。


それは純粋だ。


だからこそ——重い。


彼女の周囲の者はどうなる。


王子は?

ヒロインは?

官僚は?

貴族は?


誰もが無意識に比べる。


「自分は、あそこまでできているか」


そして、できない者は劣等感を抱く。


できないことが、罪のように感じる。


デルガは結論を組み上げる。


・自己犠牲は美徳

・だが過剰な美徳は周囲を縛る

・それは暗黙の強制になる


つまり——


「あなたは善を盾に、他者を裁いている」


この構図。


聖女を、加害者へ。


善を、罪へ。


デルガは椅子にもたれた。


(これは理屈として成立する)


問題は。


それが、国民に刺さるかどうかだ。


② レイアとの対話(核心)


中庭。


白い花が揺れている。


レイアは孤児たちと別れ、立ち上がったところだった。


デルガは静かに歩み寄る。


「お疲れのようですね」


「いいえ。楽しい時間でした」


自然な微笑。


無理のない声。


「なぜそこまで尽くすのです」


レイアは少しだけ首を傾げる。


「皆が笑ってほしいだけです」


即答。


迷いなし。


デルガは一歩踏み込む。


「あなたは、何を望みます」


風が止まる。


花が揺れなくなる。


レイアは、わずかに視線を落とした。


沈黙。


ほんの一瞬。


だが確かに、空白があった。


「……特には」


穏やかな声。


だが、先ほどよりわずかに小さい。


デルガは見逃さない。


(空白がある)


望みを語れない。


望みを持たない。


それは完成ではない。


欠落だ。


「人は、望むことで人間になります」


デルガは言う。


レイアは微笑む。


「私は皆が幸せなら、それで」


その言葉は正しい。


だからこそ、危うい。


デルガは確信する。


(ここを突く)


③ 公開断罪式


広場。


群衆。


王子は高座に座り、無言。


ヒロインは静かに立つ。


レイアは中央に立つ。


白い衣装。


今日も、穏やか。


デルガが前に出る。


「本日の罪状を述べます」


ざわめき。


「過度な自己犠牲」


怒号。


「何が罪だ!」


「いい子だぞ!」


「孤児院はどうなる!」


デルガは声を落とさない。


「自己犠牲は美徳です。だが、過度であれば害となる」


「害だと?」


「彼女は、自らを削り続けることで、無言の基準を作っている」


空気がわずかに変わる。


「あなたも、そうあるべきだと」


沈黙。


「それができない者は、劣ると感じる」


観衆の中で視線が揺れる。


「善の独裁」


その言葉に、空気が裂ける。


レイアは静かに立つ。


「……私は、誰にも強制していません」


「だが人は、あなたを基準にする」


デルガの声は冷静。


「あなたの善は、他者を裁く装置になっている」


ざわめきが波になる。


誰かが小さく呟く。


「……確かに、あの人の前だと何も言えない」


「比べてしまう」


「自分が小さく見える」


空気が、揺れる。


レイアの目に、初めて迷いが浮かぶ。


ほんのわずか。


「私がいなくなれば」


彼女は言う。


声は静か。


「皆は、楽になりますか?」


その問いは、群衆に落ちた。


重い。


鋭い。


観衆の心が裂ける。


守りたい。


だが、言葉が出ない。


デルガは宣告する。


「よって——」


一拍。


「形式上、本件は有罪とする」


静まり返る広場。


歓声はない。


怒号もない。


ただ、どこか白けた空気。


断罪は成立した。


だが。


誰も、熱狂していない。


王子は動かない。


ヒロインも微笑まない。


レイアは頭を下げる。


従順に。


穏やかに。


完璧なまま。


デルガは気づく。


(勝った、はずだ)


だが。


何かが、足りない。


断罪は成功した。


なのに。


物語が、盛り上がらない。


広場を去る群衆の背中は、静かだった。


拍手も、涙も、歓喜もない。


ただ——


疲れたような静寂だけが残った。

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