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悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


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第2話 『聖女すぎる悪役令嬢』【幕1】完璧すぎる悪役

① 噂から始める


「聞いたか? レイア様がまた孤児院を増やしたらしいぞ」


市場の青果店の前で、籠を抱えた女が声を潜めた。


「増設どころじゃない。運営費も自腹だってさ」

「しかも減税案まで提出したとか。あれ、本当に悪役令嬢か?」

「王子より人気あるぞ、正直」


笑い声が起きる。


だがそこに嘲りはない。

敬意と、どこか誇らしげな響き。


広場では子どもが言う。


「レイア様みたいになりたい」


酒場では男が言う。


「王都の救済策、あれ全部レイア様発案だろ?」


断罪対象。


それが、いまの彼女の公式な立場である。


だが、支持率は王族を上回る勢いだった。


王城。


執務室。


デルガは報告書を受け取る。


静かな声で問う。


「裏は」


側近は困惑した顔で首を振る。


「ございません」


机に並べられた資料。


・孤児院運営拡張

・貧民救済制度改革

・私財の寄付記録

・婚約相手への礼節

・ヒロインへの公的支援


どれも記録付き。

どれも透明性がある。


不正なし。

誇張なし。

陰謀なし。


デルガは目を細める。


「……綺麗すぎる」


紙の端を指で揃えながら、彼は呟いた。


② 王子との会話


王子は窓辺に立っていた。


夕陽が背を照らす。


「今回は難題だな」


穏やかな声音。


デルガは一礼する。


「人格者は扱いづらい」


王子は小さく笑う。


「悪役なのだろう?」


「そのはずです」


「“そのはず”か」


短い沈黙。


王子は続ける。


「民は彼女を聖女と呼び始めている」


「存じています」


「断罪できるのか?」


デルガは即答しない。


王子は横顔のまま、静かに言う。


「私は断罪を望んでいるわけではない。ただ——秩序は保たねばならない」


デルガは目を伏せる。


「秩序は、設計できます」


王子は振り返る。


「今回もか?」


「ええ」


だが。


内心、彼はわずかに迷っていた。


③ デルガの着眼


舞踏会。


レイアは中央にいた。


誰かに囲まれているわけではない。


それでも、空間の中心だった。


彼女は笑う。

柔らかく。

自然に。


ヒロインに花を譲る。


王子に敬意を払う。


侍女の失敗を庇う。


孤児に膝をついて話しかける。


その所作に無理はない。


計算も感じない。


完璧。


だが——


デルガは観察する。


彼女は常に他者を優先する。


自分の望みを語らない。


称賛を受けても、話題を逸らす。


喜びも、怒りも、嫉妬も見せない。


「……不自然だ」


夜。


執務室。


蝋燭の火が揺れる。


デルガは独白する。


(欠点がない人間など存在しない)


紙に走らせた文字。


“自己犠牲”


彼は止まる。


レイアは、自分を削っている。


望みを消している。


欲を捨てている。


それは美徳か?


それとも——


秩序への圧力か?


「過剰だ」


彼は立ち上がる。


聖女は、人を追い詰める。


完璧は、周囲に罪悪感を生む。


自己犠牲は、他者に強制力を持つ。


「ここだ」


デルガは静かに結論づける。


自己犠牲を罪にする。


“あなたの善は、他者を縛っている”


それを断罪理由にする。


逆転構造。


聖女を、加害者へ。


デルガは筆を置く。


窓の外、王都の灯が揺れている。


(断罪は、自然現象ではない)


(設計するものだ)


だが。


ほんの一瞬。


胸の奥に違和感が生まれる。


なぜ民は、以前ほど断罪に熱狂しない?


噂はある。

期待はある。


だが——


熱がない。


「……盛り上がらない?」


その疑問は、まだ形を持たない。


蝋燭が、静かに揺れた。

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