第6話 盛り上がる断罪【幕1】炎の拡大
夜の大広場は、まるで戦場の前線のようだった。
だが剣も槍もない。
あるのは舞台だ。
巨大な足場が組まれ、旗が夜風に翻る。
赤と金の布が照明に照らされ、揺れるたびに炎のように見える。
火柱が上がる。
楽団が低く重い旋律を奏でる。
光の魔術が空中に紋章を描き、観衆のざわめきが一斉に高まる。
デルガは広場の外縁に立っていた。
以前より、明らかに規模が違う。
演出が増えている。
費用も労力も、惜しまれていない。
壇上に立つのは、若手宰相候補――カイ。
整った笑み。
群衆の呼吸を読む目。
断罪対象は、若き貴族令嬢。
二十歳前後。
蒼白な顔で立っている。
罪は軽い。
社交場での失言。
政策への軽率な発言。
婚約者とのすれ違い。
どれも本来なら、貴族の内輪で収まる話だ。
だがカイは、台本を変えた。
それを――
“裏切りの物語”に再構築した。
「信頼を踏みにじったのは誰か!」
証言者が涙ながらに訴える。
音楽が高まり、光が揺れる。
被害者役の再現劇が始まる。
照明の中で誇張された動き。
観衆は息を飲み、
そして。
「断罪!断罪!」
誰かが叫ぶ。
それが波になる。
「断罪!断罪!」
火柱がさらに高く上がる。
群衆は叫び、拳を振り上げる。
これはもはや裁きではない。
参加型正義。
叫ぶことで、自分も正義側に立てる。
その快感。
カイは間を取り、ゆっくりと告げる。
「正義は、裏切りを許さない」
歓声。
令嬢は震えている。
だが彼女の声は、音楽に埋もれる。
断罪は決まる。
整然と、華やかに。
炎は夜空を焦がす。
――翌日。
王都は活気に満ちていた。
王都新聞は一面で断罪を報じる。
「歴史的裁き!」「正義の勝利!」
酒場では名場面が語られる。
商人は断罪記念酒を売り出し、
徽章や旗が飛ぶように売れる。
若者たちは目を輝かせる。
「次は出たい」
「舞台に立ちたい」
断罪は転落ではない。
機会になりつつある。
デルガは報告書を閉じる。
支持率は急上昇。
治安は安定。
経済も回る。
数字は、成功を示している。
だが彼の胸は重い。
(炎が、制度を超えた)
かつて断罪は、均衡装置だった。
激情を一点に集中させ、社会を安定させる儀式。
だが今。
断罪は“国家イベント”。
期待され、
待ち望まれ、
消費される。
炎は、制御されているように見える。
だが。
火は燃え広がる性質を持つ。
デルガは広場を遠くから見つめる。
笑顔。
歓声。
光。
そして、その中心で輝くカイ。
炎は拡大している。
それが進化か、破滅の兆しか。
まだ誰も知らない。
幕1、終了。




