【幕3】群衆の正体
翌日。
王都は、妙に明るかった。
昨夜の断罪の余韻が、まだ空気に残っている。
酒場では。
「見たか、あの証言の間!」
「カイ様の一言、しびれたな」
杯がぶつかり、笑い声が上がる。
路地では。
子どもが台の上に立ち、胸を張る。
「本日の断罪を始める!」
周囲が爆笑する。
商人たちは抜け目ない。
広場の一角には早くも屋台が並び、
“断罪記念徽章”
“正義の羽ペン”
“悪役令嬢マスク”
色とりどりの商品が売られている。
金が動いている。
熱が、循環している。
デルガはその光景を遠巻きに見ていた。
(これが現実か)
かつて彼が恐れた炎。
それは今、祭りになっている。
暴動ではなく、興行。
怒号ではなく、歓声。
血ではなく、拍手。
王城へ戻ると、王子アルベルトが窓辺に立っていた。
広場を見下ろしている。
「民は笑っている」
静かな声。
事実だけを述べる響き。
デルガは答える。
「代償は若者です」
王子はわずかに目を細める。
「若者は自ら舞台に上がった」
その言葉が重い。
強制ではない。
希望者。
志願。
“出演”。
デルガは理解する。
時代が変わった。
かつては未熟さが利用されていた。
だが今。
若さは、目立ちたがる。
承認を求める。
舞台を欲する。
消費される被害者ではなく、
自ら炎に飛び込む出演者。
王子は続ける。
「抑圧よりは健全だ」
デルガは何も言えない。
抑え込めば地下に潜る。
可視化すれば管理できる。
理屈はわかる。
だが。
夜。
再び大広場。
灯りがともり、舞台が組まれている。
群衆は自然と集まる。
その中央に、カイ。
若い演出家は、堂々と立つ。
「皆様」
声がよく通る。
「断罪は悲劇ではない」
一拍。
「それは舞台だ」
歓声。
「正義はショーになる」
楽団が鳴る。
「そしてショーは国を安定させる」
拍手。
光が瞬き、旗が揺れ、炎が高く上がる。
人々の目が輝く。
怒りではない。
興奮。
参加。
共有。
デルガは群衆の中に立つ。
熱が体に触れる。
だが。
心だけが冷えている。
(これは進化か……)
制度の洗練。
暴力の可視化。
炎の管理。
(それとも堕落か)
若さの消費の高度化。
未熟さの商業化。
拍手が広場を震わせる。
カイは笑っている。
群衆は熱狂している。
炎は美しい。
デルガの影だけが、長く伸びる。
群衆の正体。
それは――
燃えることを望む者たち。
そして、燃える姿を見たい者たち。
彼は静かに目を閉じる。
時代は、次の段階へ進んだ。
だがその先が光か闇か。
まだ誰も知らない。




