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悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


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18/39

【幕2】思想の衝突

夜の王城は静かだった。


昼の熱狂が嘘のように、廊下は冷えている。

石床に灯る燭台の火だけが、細く揺れていた。


その奥に、軽やかな足音。


若手宰相候補――カイ。


彼は上機嫌のまま歩いている。

舞台を降りた直後の俳優のように。


曲がり角で、足が止まった。


そこに立っていたのはデルガだった。


影のように、壁際に。


「……お疲れ様でした」


カイが先に口を開く。


柔らかい笑み。


デルガは動かない。


「あなたは、何をしている」


低い声。


空気がわずかに張る。


カイは瞬きを一つ。


「興行です」


あまりにも軽い。


デルガの視線が鋭くなる。


「若者を消費している」


静かな断定。


カイは小さく笑った。


「違いますよ」


燭台の火が揺れる。


「彼らは“出演”しているんです」


その言葉に、デルガの眉がわずかに動く。


消費ではなく、出演。


被害者ではなく、演者。


言葉の置き換え。


だが本質は同じではないのか。


カイは壁にもたれ、続ける。


「民衆は物語を求めます」


指先で空をなぞる。


「断罪は、感情の発散装置です」


「……」


「怒り、嫉妬、不安。溜め込めば爆発する」


カイは軽く肩をすくめる。


「若者は舞台を欲している。

自分を証明する場を」


デルガは低く言う。


「どうせ炎は生まれる、と?」


「ええ」


即答。


「ならば制御された炎にするべきでしょう」


火は消せない。


ならば囲う。


「エンタメにすればいいんです」


その一言が、静かな廊下に落ちる。


デルガの目が冷える。


「それは煽動だ」


カイは首を横に振る。


「違います」


一歩、距離を詰める。


「デザインです」


炎の配置。

音の高低。

間の取り方。

涙のタイミング。


すべて設計。


「あなたは偶発的な炎を信じていた」


カイは微笑む。


「私は、演出された炎を選ぶ」


沈黙。


二人の思想が、見えない場所でぶつかる。


デルガはゆっくりと言う。


「断罪は、若者依存の制度だ」


声は低いが揺れない。


「未熟さを利用し、激情を一人に集中させる構造。

排すべきものだ」


カイは瞬きをする。


そして穏やかに答える。


「断罪は消えません」


確信。


「人は物語を欲する。

正義と悪の衝突を求める」


「……」


「ならば、管理するべきです」


カイの目は真っ直ぐだ。


「娯楽化こそ安全です」


デルガの胸に重いものが落ちる。


消すか。


制御するか。


根絶か。


運用か。


カイは静かに告げる。


「あなたは“燃える若さ”を否定する」


一歩、距離が縮まる。


「私は“燃やし方”を変える」


燭台の火が揺れる。


デルガは言葉を探す。


だが出ない。


若さを利用するな、と彼は思う。


だが若さは、燃える。


燃えるものをどうするのか。


消すのか。


囲うのか。


廊下の静寂が重くなる。


カイは最後に一礼した。


「またご一緒できれば光栄です」


軽やかな足音が遠ざかる。


デルガはその場に残る。


炎は否定すべきか。


それとも設計すべきか。


答えはまだない。


ただ、時代が動き始めている。

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