【結末】
夜。
王城の高窓から、王都の灯りが静かに見えている。
かつてなら、あの広場の中央に炎が上がっていた。
若き令嬢が泣き、若き貴公子が拳を握り、
民衆が正義の名を叫んでいた。
今は違う。
ただ、灯りが点々と揺れているだけだ。
デルガは執務机の前に立ち、窓に背を向けたまま呟く。
「……私は、若さを燃やしていた」
誰に聞かせるでもない独白。
制度を守っていると思っていた。
国を安定させていると信じていた。
断罪は均衡装置だ、と。
だが違った。
均衡を保つために、
若さの未熟を舞台に上げ、
嫉妬を煽り、
承認欲求を刺激し、
未来への不安を物語へ変え、
その炎を“必要な熱”と呼んでいただけだった。
守護者のつもりで。
実際は――煽動者だった。
王子アルベルトは恋を拒否した。
「私は王になる。恋は不要だ」
あの言葉が、すべてを止めた。
恋がなければ、三角関係は生まれない。
嫉妬が膨らまなければ、悪役は生まれない。
若さが舞台に上がらなければ、断罪は成立しない。
未熟を利用しない選択。
それを、王はした。
デルガは椅子に腰を下ろす。
重い息を吐く。
「断罪は……若さと未熟さを利用する儀式だった」
自然ではなかった。
善でもなかった。
必然ですらなかった。
構造だった。
そして、依存だった。
若者依存型の安定装置。
王が拒否すれば、発生不能。
その事実は、あまりにも静かに、あまりにも残酷に、制度の正体を暴いた。
デルガは初めて、自分の立場を変える。
制度を支える側ではなく。
制度そのものを疑う側へ。
それは裏切りか。
それとも進化か。
まだわからない。
窓の外。
夜は深い。
広場に炎はない。
叫びもない。
ただ、穏やかな風が旗を揺らしている。
若さは、今夜、燃やされていない。
デルガは目を閉じる。
「……これが、始まりか」




