【幕3】制度の正体
王城の一室。
重厚な扉が閉じられ、外のざわめきは遠い。
デルガは机に向かっていた。
机上には、過去の断罪記録。
若き令嬢の名。
若き貴公子の名。
告発文。
民衆の歓声。
そして――処分の決定。
紙の上に並ぶのは、どれも「若い」名前だった。
デルガは静かに呟く。
「……共通している」
若さ。
未熟さ。
嫉妬。
承認欲求。
未来への不安。
そのどれもが、激しく、燃えやすい。
断罪とは何だったのか。
彼は整理する。
断罪は――
社会に溜まった不満を、一人に集める儀式。
怒り。
羨望。
焦燥。
不公平感。
それらを、物語という形にまとめ、
“悪役”という象徴に押し込め、
炎の中へ投げ込む。
民は叫ぶ。
怒りを吐き出す。
そして翌日から、何事もなかったように働く。
若者の激情を、
国家安定の燃料にしていた。
「……若者依存型制度」
デルガはそう結論づけた。
断罪は自然発生ではない。
善意では燃えない。
若さが燃料になる。
そして第4話。
王が拒否すれば――成立しない。
若さを舞台に上げる王がいなければ、
嫉妬の三角関係は始まらない。
恋が政治に混ざらなければ、
民衆は物語を持てない。
断罪は構造的に、
若者に依存した制度だった。
デルガは椅子にもたれ、目を閉じる。
「……我々は、若さを消費していたのか」
数日後。
王都の広場。
かつて断罪式が行われた場所。
石畳の中央には、
かつて炎が上がった跡がある。
今日は何もない。
舞台もない。
告発もない。
号外も出ない。
人々は最初、戸惑っていた。
「今年は……ないのか?」
「誰も追放されない?」
「つまらないな」
そんな声が、初日は確かにあった。
だが二日目。
三日目。
誰も集まらなくなった。
市場はいつも通り開く。
子どもは走る。
商人は値切る。
兵は巡回する。
炎がない。
叫びがない。
拍手も、石も、罵声もない。
ただ――日常。
デルガは広場の端に立ち、その光景を見ていた。
風が吹く。
旗が揺れる。
平穏だった。
あまりにも静かで、
あまりにも普通で、
あまりにも退屈な光景。
だが。
(これが……本来の姿か)
胸の奥で、何かがほどける。
断罪がなければ、
誰かが象徴として焼かれることもない。
王は恋を拒否した。
その結果、
若さは舞台に引きずり出されなかった。
デルガは空を見上げる。
炎は上がらない。
歓声もない。
だが――国は崩れていない。
むしろ、静かに、安定している。
「……若さを守る国家」
彼は小さく呟いた。
それは理想か。
それとも、物語の終わりか。
炎なき広場に、
新しい時代の静寂だけが残っていた。




