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悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


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14/47

【幕2】断罪不能

① レイアの立場


王子の宣言の翌日。


城内は静まり返っていた。


悪役令嬢候補——レイアは存在する。


年齢も家格も申し分ない。


だが。


王子が恋愛を拒否した。


婚約は、純然たる政治契約となる。


外交均衡のための署名。


財政安定のための連携。


そこに、感情はない。


嫉妬ゼロ。


独占欲ゼロ。


未来を奪われる恐怖ゼロ。


ヒロインもいない。


選ばれる争いが存在しない。


三角形は、線に変わった。


構図消滅。


デルガは報告書を閉じる。


どこにも火種がない。


恋がなければ、悪役は生まれない。


悪役がいなければ、断罪は成立しない。


断罪は、発生不能。


② デルガの焦燥


彼は探す。


無理やりでも構図を立てようとする。


権力争い?


政策対立?


貴族間陰謀?


書類を読み漁る。


噂を拾う。


だが。


それらは政治劇だ。


利害の調整。


勢力の均衡。


冷たい計算。


断罪ではない。


断罪は演劇だった。


若さの情動を利用する儀式。


嫉妬が爆ぜ、


誤解が膨らみ、


未熟な言葉が刃になる。


それを群衆が見守り、


一人に罪を集中させ、


炎を囲む。


政治では代替できない。


政治は冷える。


冷えたものは燃えない。


デルガは机に手をつく。


(何も、起こらぬ)


制度は存在している。


だが、発動条件が消えた。


③ 王子との核心対話


夕刻。


王子の執務室。


デルガは静かに進み出る。


「殿下」


「何だ、デルガ」


「恋なき王は、民に夢を与えません」


王子は筆を止める。


視線を上げる。


「夢より安定だ」


即答。


迷いがない。


「断罪は均衡装置です」


デルガの声は低い。


「民の不満を一点に集める。社会の安定に寄与してきました」


王子は静かに言う。


「それは若者を生贄にする装置ではないか?」


言葉が、重く落ちる。


デルガは息を止める。


王子は続ける。


「若さの未熟を娯楽にする制度は、いずれ破綻する」


静かな断定。


怒りではない。


冷たい判断。


デルガの喉が乾く。


反論が、出ない。


断罪は若さを利用していた。


未熟さを煽り、


感情を膨らませ、


炎に変えていた。


それを、均衡と呼んでいた。


王子は筆を置く。


「私は王になる。未熟を燃料にはしない」


沈黙。


部屋の空気が重い。


デルガは初めて、


自分が守ってきた制度の姿を、


外側から見た気がした。


断罪は停止している。


再起動の術はない。


彼は言葉を失ったまま、深く一礼する。


火は、消えた。


そして——


再び灯す理由も、


今は見つからない。

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