ものぐさお嬢様? は擬態をやめない
少し前に、どこぞの物語のように浮気をしたクソ野郎に婚約破棄をされたのだが――――
「お嬢様! 学園の卒業パーティーである今日こそは、絶対着飾らせて頂きますよ!」
ふんす! と、やたら張り切った侍女に捕まって、ドレッサーの前に座らせられた。
「まずは、その野暮ったくてダサい黒縁眼鏡を外しましょう! ああ、前髪も短く整えて、そのお美しい目とお顔を会場中の皆様に見えるようにしましょうね!」
「え? ヤなんだけど?」
「なぜですか! お嬢様がこんなにお美しい方だったと、学園の皆様に見せびらかして、今までお嬢様を地味だなんだと囀っていた有象無象共の鼻を明かして度肝を抜いてやりましょう!」
「だから、それがヤなんだってば。別に、前髪も眼鏡もそのままでいいし」
「なぜですかっ!?」
と、侍女達の悲鳴のような声と不満げな顔が向けられた。
「お嬢様が地味でパッとしないからというクソ戯けた理由で! うちの、実は美少女且つ男前でめっちゃ格好いいお嬢様に婚約破棄をかましたあのクズな元婚約者や、お嬢様からその婚約者を寝取った阿婆擦れもパーティーに参加するのですよね!」
「そうですよお嬢様! お嬢様が本当はとてもお美しいということを見せて、クズ野郎や阿婆擦れ共を悔しがらせてやりましょうよ!」
「お嬢様を捨てて阿婆擦れを選んだことを、惜しいことをしたと思わせましょう!」
侍女達が必死にわたしを説得する。どうやら、わたしは彼女達に慕われているようだ。
「……だが断る! いつも通り、ドレスコードは確り押さえつつ、適当にパッとしない見た目でいいからさっさと準備してくれないか?」
「「「なぜですかっ!?」」」
上がる悲鳴に首を傾げる。
「なぜと言われてもな? めんどくさいからに決まっているだろうが? 折角、クソみたいな元婚約者と縁切りできたというのに。なぜ、わざわざまた執着されるようなことをせねばならん? あのクソは見目がいい女が好みと公言しているからな。わたしの見目が良くなれば復縁を求められるかもしれんだろうが? 今現在、わたしに新しい婚約者はいない。そして、あのクソと阿婆擦れの婚約もまだ調っていない。故に、復縁の可能性が僅かながら残っている。そんなときに、あのクソの執着心を煽ってどうする?」
「それ、は……」
「お前達は、そうまでしてわたしをあのクソ野郎とくっ付けたいのか?」
じっと、鏡越しに侍女達を見やれば気まずそうに目が逸らされる。
そもそも、わたしは奴に未練など欠片も無い。縁切りできて清々している。
そして、他の男共にモテようなどとも、微塵も思っていない。
うちは、兄が跡取りで婚約者との仲も良好。兄が結婚して、お嫁さんとの子供が確実に生まれるかはわからんが……それは、実際に結婚してから後の話だろう。
わたしが無理して後継になる必要は無い。むしろ、後継に名乗りを上げればお家騒動に発展するのではないか? あのクズな元婚約者も、自分がうちの跡を継ぐのだと愚かな勘違いをしていたからこそ、父も婚約破棄……実質的には解消だが……をしたのだ。
卒業して顔を合わせる機会が減り、わたしに対する付きまといの心配がなくなった頃に多額の慰謝料を請求するつもりなのだとか。なかなか腹黒い父だ。
ついでに、わたしを娶ると我が家の当主になれるなどと公言した馬鹿に懲りて、わたしの婚約は暫く決めないと言っていたからな。
わたしも、漁夫の利を狙う愚か者共の相手は面倒だ。
一応、それなり以上に見れる顔をしているとは思うが……そういう事情を込みで、地味で目立たない格好の方が都合がいい。
婚約破棄されて傷心の女を慰めてやる? あなたのような条件のいいカモを振るなど信じられない? 自分と婚約してください?
全て、要らん。
見返したいとは思わないのか?
別に、どうでもいい。見返す、などという思いが湧く程の感情すらあのクズには持って無い。
ひたすら、どうでもいい。関わりたくないという感情に尽きる。
なぜ、世の女性は自分を振った相手や自分が振った相手に、以前よりも綺麗になった自分を見せたいと思うのだろうか?
わたしには、理解できん。
好きだった相手に振られ、見返してやりたい。自分が勿体ない女だったと相手へ思わせたい、と。そう思うのはなんとなく理解できるが……
クズで、縁切りできて嬉しいとまで思う相手に、綺麗になった自分を見せると面倒になるとは考えないのだろうか? 要らん執着をされても面倒だろうに?
承認欲求だろうか? それとも、自尊心の問題だろうか?
それとも、綺麗になった自分で、元の男よりもいい男を釣り上げることが目的か? そして、その新しいいい男に自分を守らせたいのか?
などと、考えてしまうわたしは女らしくないのだろう。
まあ、如何せんこれがわたしだ。
新しい男は募集していないし、女性陣のやっかみも面倒だ。
要らん厄介事や避けられると判っている面倒事は避けるに限る。
「さあ、侍女達よ。わたしに無難なドレスアップを施すがいい」
面倒だから、擬態はやめん。
そもそも、わたし……いや、俺は元男だ。
なんの因果か、転生したら裕福な貴族家に生まれたお嬢様だった。
美少女や美女は好きだ。眺めていると眼福だからな? しかし、現在の自分が野暮ったい眼鏡を外して前髪を上げれば美少女だとしても! 自分で着飾って眺めたいとは思わんからな?
まあ、美少女な顔だなーと、ぼんやり鏡を見ることは偶にあるが。
俺、元男だし。野郎と結婚とか、マジ無理。
というワケで野郎と結婚なんぞ阻止するためにも、この野暮ったい擬態は絶対にやめん!
あと、人体の急所やいざというときのための護身術など。誰がなんと言おうと、やめん!
本格的にいざとなれば……野郎の急所を潰すことすら厭わんぞ! 元男として、非常に心苦しく思うが、自身の安全という背に腹はかえられんからな!
俺は……いや、わたしは有能な美女や可愛い女の子達、妖艶なお姉様などを雇って、彼女達を愛でつつ、きゃっきゃうふふ♡な気分で、生涯独身を貫き通すことを目標としている!
野郎なんかより女の子の方が好きだから!
あと、アレだ。着飾りたくない一番の理由……俺は、アレを内臓を口から吐き出させるために作られた拷問器具の一種だと思っている。
そう……貴族の女に生まれし者が身に纏う戦闘服と、その下に必須のアレ。体型補正の拷問器具と書いて、コルセットと読ませるやつ!
あんっな、苦しいもん着けてられっかっ!?
というワケで、今日も俺……いや、わたしは地味娘に擬態する。
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
なんで、面倒や厄介が起きる。クズ野郎などに執心されると判っていて、美しく着飾るのかなぁ? と、疑問に思ってしまったので……
最後にTS設定ぶっ込みました。そして、シリアスに入れるかコメディに入れるか悩んで、コメディ系の話に入れました。ꉂ(ˊᗜˋ*)
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