最終章 ――ログアウト、そして再会の約束。
春の風が、桜の花びらを乗せて校舎を包みこんでいた。
朝霧あやめは、グラウンドの隅に立って、その景色を静かに見上げていた。
3年前、この場所から始まった物語。
“ゲームが好き”という、ただそれだけの気持ちで立ち上げた小さな部活が――
今では、学校を代表するVRチームになっていた。
「部長〜! ぼーっとしてないで集合だよー!」
ゆいの明るい声が飛ぶ。カメラを片手に、相変わらずの実況テンション。
「今日は卒業記念スペシャル、ちゃんと撮らなきゃ!」
「……卒業かぁ」
みなみが少し寂しそうに笑いながら、運動靴で土を蹴った。
「ほんと、あっという間だったね」
「そうだな」
奏が眼鏡を押し上げる。「部室のサーバー、バックアップは全部取っておいた。みんなの記録、永遠に残るよ」
「さすが技術顧問〜!」
ゆいが笑い、みなみが手を振る。
玲奈は少し離れたところで桜を見上げていた。風に揺れる髪、その横顔は、どこか柔らかくなっていた。
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◆ 1.最後のログイン
「ねぇ、みんな。……最後に、行かない?」
あやめがヘッドギアを掲げる。
「もちろん!」
「行くに決まってるじゃん!」
全員の声が重なり、笑いがこぼれる。
そして彼女たちは――最後のログインをした。
視界が白い光に包まれ、次の瞬間、そこは懐かしいVR世界《StarLink Online》だった。
青い星雲、煌めく惑星の海。
AIのルミナが微笑みながら出迎える。
『おかえりなさい、プレイヤーたち。あなたたちの冒険は、まだ終わっていません。』
「ルミナ……!」
あやめが目を細める。AIとの再会は、まるで旧友に会うようだった。
『あなたたちのデータを解析しました。絆指数、友情リンク、愛情シンクロ率……全て、かつてない数値です。』
ゆいが「それ実況したい!」と笑い、みなみが「また戦うの?」と剣を構える。
玲奈は静かに首を振った。
「いいえ。今日のクエストは、“記憶の旅”よ。」
光が弾け、彼女たちの周りに無数のホログラムが浮かび上がる。
入部の日、初めての勝利、全国大会、夏の花火、冬の合宿――
全ての記憶が、星のように空を流れていく。
「懐かしいね……」
「私たち、ほんとにいろんな世界を駆け抜けたね」
「うん。でも、一番大事だったのは――」
あやめが、微笑みながら言う。
「――みんなと笑えた時間。」
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◆ 2.別れの季節
ログアウトの瞬間、桜が舞う風景が戻ってきた。
空気が少しだけ冷たい。
でもその中で、心だけは温かかった。
「玲奈ちゃん……」
あやめが振り向く。
玲奈はほんの少しだけ目を伏せ、そして微笑んだ。
「泣くなよ、部長。」
「泣いてないもん……ちょっと、目に桜が入っただけ」
「ふふっ、相変わらずね」
玲奈は、そっとあやめの髪に触れた。
その距離、たった数センチ。
でも、言葉よりも確かな“想い”が伝わってくる。
「ねぇ、玲奈ちゃん。」
「なに?」
「……ありがとう。私、玲奈ちゃんに出会えて、本当によかった。」
「……バカ。」
玲奈は笑いながら、少しだけ顔を赤くした。
「でも――私も同じ気持ちだよ。」
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◆ 3.未来へ
卒業式の日。
白い制服のリボンを整えながら、あやめは小さく深呼吸した。
校門の外には、春の風が吹いている。
新しい世界へと続く風。
その背中に、仲間たちの声が響く。
「また遊ぼうね!」
「次は社会人版VR大会だ!」
「新作出たら絶対集まろう!」
「ログインパス、絶対消さないでよ!」
笑い声と涙の中、あやめは振り返り――空を見上げた。
満開の桜が、光を散らしながら舞い落ちる。
「……行ってきます。みんな、また“あっち”で会おうね。」
ヘッドギアを手に、あやめは微笑んだ。
その瞬間、風が彼女の髪を揺らし、桜が舞った。
まるで、世界が祝福しているかのように。
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――LOGOUT COMPLETE
けれど、それは“終わり”ではなかった。
遠くのサーバーの片隅で、AIルミナが小さく呟く。
『次のログインを、楽しみにしています。
――ようこそ、新しい物語《Re:Link Online》へ。』
画面に浮かぶのは、あやめたちがまだ見ぬ新しい世界。
そして、一行の文字。
「すべてのゲームは、青春の続きにある。」




