第一部:始まりのリンク編
◆ 序章 ― ログイン、春風の匂いとともに
春の風が、窓をかすかに揺らした。
教室の端っこ――窓際の席で、星乃さくらは頬杖をつきながらタブレットを覗き込んでいた。
画面には、今春リリースされたばかりのフルダイブVRオンラインゲーム《Aether Quest Online》。
リアルな触感と完全没入感が話題を呼び、全国の高校生たちの間で社会現象になりつつある。
「うわぁ……グラフィック、やば。これがリアルタイムで動くとか反則でしょ」
目を輝かせるさくら。
ゲームのPVの中、プレイヤーが剣を構え、空に浮かぶ都市を駆け抜ける。
まるで映画そのもの――いや、もう映画と現実の区別なんてない。
彼女は中学のころからゲームが大好きだった。
FPS、RPG、音ゲー、格ゲー、レトロアーケードまでなんでも遊ぶ。
だけど、今通う「私立桜ヶ丘高校」には、ゲーム部なんて存在しない。
「……だったら、作っちゃえばいいんじゃない?」
その一言が、すべての始まりだった。
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◆ 第1章 ― ゲーム部、創設!
放課後。
職員室の前で、緊張した顔のさくらが立っていた。
胸元に握った書類には、震える文字で「ゲーム部設立願」。
「部活の新設、ですか?」
顧問候補として呼ばれた情報科の神谷先生が書類をめくる。
「はい! VRゲームやeスポーツを題材にした文化部です!
みんなで協力して、ゲームの楽しさを共有したいんです!」
「ふむ……。活動内容は?」
「週に2回、VR設備を使ったプレイと、動画配信や研究もやりたいです!」
神谷先生は少し驚いたように目を丸くした。
「……なるほど、今どきの生徒らしいですね。部員は?」
「……まだ、私ひとりです!」
あまりに堂々とした宣言に、先生は思わず吹き出した。
「最低でも5人集めないと認可できませんよ」
「ですよね……でも、絶対集めます! ぜったいに!」
その日から、さくらの“勧誘の日々”が始まった。
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◆ 第2章 ― 最初の仲間、玲奈
最初に声をかけたのは、クラスメイトの白石玲奈。
クールで頭が良く、ちょっと近寄りがたいタイプ。
だけど、放課後の廊下で、偶然その視線がタブレットに向いているのを見逃さなかった。
「……あ、それ、《Aether Quest》?」
「っ!? あんた、これ知ってるの?」
玲奈は一瞬、警戒の色を浮かべたが、さくらの目が本気なのを見て少し笑った。
「まさか、同じのやってる人がいたなんてね」
「もしかして、一緒にやる? 私、ゲーム部作るんだ!」
玲奈は呆れたようにため息をついた。
「部活って……でも、面白そうね」
次の日。
二人はVRカプセルに入り、初めて《Aether Quest》にログインした。
――身体が光に包まれ、意識がふっと浮かぶ。
そして、目を開けると――そこは、青空がどこまでも広がる浮遊都市。
「わ、わぁぁぁ……すごい……!」
「……ホントに、入っちゃったんだ」
二人は笑い合った。
それが、ゲーム部最初の**“ログインの日”**。
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◆ 第3章 ― 集う仲間たち
【結衣】
放送部に所属していた佐藤結衣は、トークが得意で明るいムードメーカー。
「部活で配信とかやるなら、私が実況してあげる!」
と、自ら入部を申し出た。
実際、彼女の実況センスは抜群で、のちに学校内のイベントでも大活躍する。
【悠真】
男子で唯一のメンバー、岸本悠真。
隣のクラスのスポーツマンで、最初は「ゲームなんて」と言っていたが、
玲奈の誘いで体験プレイ。
「……お、おぉ!? 剣が本当に動く!?」
その瞬間、彼は完全にハマった。
【美月】
プログラミングオタクの天野美月。
部室での会話中、さくらがVRのAI制御話をした瞬間、目を輝かせた。
「AI学習アルゴリズム? 面白そう! 私も混ぜて!」
以降、部の技術担当として活躍。
【花音】
演劇部からの転入組、小早川花音。
VR内の“アバター演技”に興味を持ち、表現の幅を広げたいと入部。
ゲームの中でもロールプレイ担当として人気になる。
【葵】
最後に入部したのは、内気な1年生南雲葵。
彼女は現実では引っ込み思案だが、VRの中では別人のように活発。
「現実では話せないけど……VRなら、私も勇気が出るんです」
その言葉が、さくらの胸に強く残った。
こうして、7人のゲーム部が誕生した。
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◆ 第4章 ― 初めてのマルチプレイ
部室に集まった7人。
それぞれのVRカプセルに横たわり、カウントダウンが始まる。
【3…2…1… Dive in!】
意識が溶けるように現実が消え――目の前に広がるのは、
煌めく大地と空を流れる巨大な龍の影。
「よし、行こう! みんなで最初のクエストだ!」
剣を掲げるさくら。
玲奈が弓を構え、悠真が盾を構え、結衣の声が響く。
「実況スタート! 桜ヶ丘ゲーム部、初陣ですっ!」
仲間の笑い声が、空に溶けた。
敵を倒すたびに、誰かが喜び、誰かが笑う。
たった一つのゲームの中で、現実以上に心がつながっていく。
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◆ 第5章 ― 友情と恋のはじまり
夜の部室。
練習を終えてヘッドセットを外すと、
夕焼けが窓から差し込んでいた。
「ねぇ、さくら」
玲奈が少し照れくさそうに言った。
「最近、なんか楽しいんだ。ゲームも、学校も、全部」
「ふふ、わかる。みんながいるからだよね」
そのとき、廊下から悠真が顔を出した。
「おーい! 次の大会、エントリー締め切り近いぞ!」
玲奈の頬が、ほんのり赤くなった。
――友情と、少しの恋。
それが、彼女たちの新しい日常のはじまりだった。
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さくら「この場所があれば、どんな現実だって怖くない。」
そう信じていた、あの春の日。
まだ、誰も知らなかった。
この“リンク”が、やがて世界を変えるほどの奇跡を生むことを――。




