第6話「国民ランチプロジェクト」
翌朝。
ニュースは、僕の発言一色だった。
『大統領の「お昼どうします?」発言に国民熱狂!』
『政治の中心に“食”を――ユウ流リーダーシップ』
『SNSで拡散中! #昼食革命』
もはや止まらない。
そして官邸に行くと、案の定こうなっていた。
「本日9時、閣議の議題は“昼食政策”です。」
「え、ほんとにやるの!?」
リアンさんは真顔で頷いた。
「国民の9割が“興味がある”と回答しました。」
……AI世論調査って、ほんと罪なツールだ。
* * *
閣議室。
前回の“昼食発言”をきっかけに、
全国放送で公開閣議になってしまっていた。
円卓の前には十数台のカメラ。
横には巨大スクリーンに映る生中継コメント欄。
「パン派」「米派」「ラーメン一択」――国民が好き勝手に叫んでいる。
「それでは、“お昼政策”についてご意見を。」
経済大臣が立ち上がった。
「我々は外食産業を支援すべきだ。全国一律で“国民ランチ券”を発行する!」
次に農林大臣。
「いや、地元の野菜を守るべきだ!地産地消ランチデーを!」
防衛大臣まで。
「昼食を通じた防災訓練を提案する!」
「え、なんで防災につながるの!?」
議論はどんどんカオスに。
僕はただ、机の下でお茶をすすっていた。
どう考えても、みんな真面目すぎる。
「……えっと、僕からも提案いいですか?」
全員が一斉にこっちを見る。
僕はちょっと考えて、こう言った。
「みんなで、同じ時間にお昼を食べたら……少し平和になりません?」
沈黙。
……のあと、拍手。
「素晴らしい!」
「心の栄養を重視するとは!」
「新しい国の形だ!」
そしてAI官邸システムが即座に反応。
『国民ランチプロジェクト、承認完了。
全国民、毎日12時に昼食をとることを推奨します。』
「ちょっと待って!? 推奨レベルじゃなくて国策化したの!?」
だが時すでに遅し。
その夜にはテレビCMが流れていた。
「12時だよ、みんなでランチ!成瀬大統領も食べてる〜!」
映像には僕の映像(寝起き顔)がアニメ化されて踊っていた。
「誰が許可したのこれぇぇぇ!!」
* * *
一週間後。
街の光景が変わっていた。
昼の12時になると、みんな仕事を止めてごはんを食べる。
工場も、オフィスも、学校も。
まるで一瞬だけ、世界が静かになるようだった。
リアンさんが、穏やかに微笑む。
「……これが、あなたの作った“最初の政策”ですね。」
「え、いや、冗談で言っただけで……」
「冗談でも、人を幸せにできるなら。それは政治ですよ。」
そう言われて、少しだけ照れた。
……まぁ、悪くないかも。
昼飯の国。平和そうだし。
* * *
翌朝、ニュースが流れた。
『世界各国が「国民ランチプロジェクト」に注目!
成瀬ユウ大統領、ノーベル平和賞候補に。』
「はやい!!」
――僕の“昼食政治”は、まだ始まったばかりだった。