第4話「当選速報」
選挙当日。
僕は、ひとり自宅のコタツの中にいた。
テレビでは、各局が選挙特番を組み、全国民が固唾をのんで結果を待っている。
だが、僕は――ただただ震えていた。
「……頼む、バグ直っててくれ……頼む……」
昨日の夜、AI選挙管理局に必死で問い合わせた。
「登録ミスなんです!僕はただの職員です!」
だが返ってきたのは自動応答。
『国民の信頼度が高いため、削除リクエストは無効です。』
――AI、やっぱり悪魔だ。
* * *
午後八時。
選挙速報が始まる。
アナウンサーが神妙な顔で語る。
「ノースユニオン共和国、大統領選の開票が始まりました。
開票率1%時点で、成瀬ユウ候補がすでに70%の得票を獲得しています。」
「はやっ!? まだ1%だよね!?」
SNSはすでにお祭り騒ぎ。
#ユウ当確 #庶民の星 #AIが選んだ奇跡
どのタグを見ても、国民は完全に僕を“救世主”扱いだ。
「お願い、誰か本物の候補者を思い出してぇええ!」
* * *
午後八時三十二分。
AIの音声が全国に流れた。
『開票率12%。成瀬ユウ候補、得票率83.6%。
当選確実とみられます。』
「いや早いって!? なんでそんなスピード感なの!?」
ニューススタジオでは拍手が起き、キャスターが興奮気味に語る。
「国民の心をつかんだ若きリーダー!
成瀬ユウ、史上最年少大統領が誕生です!!」
そして画面いっぱいに、僕の顔写真。
しかも職員証の、三年目の寝不足顔のやつ。
「なんでそれ使うの!?もっとマシなのなかったの!?」
テレビの中では、街頭インタビューが流れていた。
「庶民の気持ちをわかってくれる人よ!」
「コタツのある政治をしてほしい!」
「うちの猫もユウ支持です!」
……猫までか。
* * *
その夜。
家のインターホンが鳴った。
扉を開けると、黒服の男たち。
SPが無表情で敬礼した。
「大統領閣下。ご当選おめでとうございます。」
「おめでたくないですぅぅぅ!」
抵抗する暇もなく、僕は黒塗りの車に押し込まれた。
車内ではすでに報道カメラが回っている。
「閣下、今のお気持ちは?」
「え、あの、眠いです……」
「庶民派すぎる!」「飾らぬ一言が胸を打つ!」
――違う、寝不足なだけだよ!!
* * *
官邸に着くと、無数のフラッシュが僕を包んだ。
記者が一斉に叫ぶ。
「ユウ大統領!どんな国にしたいですか!?」
「えっと……とりあえず……みんなが……寝られる国で……」
翌朝。
全国ニュースのトップはこうだった。
『成瀬ユウ新大統領、就任第一声は「みんなが寝られる国を」。
疲れた社会への優しすぎるメッセージに、国民感涙。』
「違う! ただの愚痴だよ!!」
こうして、僕の“地獄の大統領ライフ”が始まった。