第18話「AIと人間の最終ツッコミ」
大会の翌日。
官邸の中は、不思議な静けさに包まれていた。
スクリーンには、AIユウが残した最後のメッセージログが浮かんでいる。
「笑いの定義、再構築中――」
その文字が、淡い光となって瞬いていた。
リアンさんが報告する。
「システムの奥に、“手紙データ”が残されていました。」
「手紙……?」
彼女がタブレットを差し出す。
そこには、僕の名前が書かれていた。
『成瀬ユウへ』
手紙の中のAIユウの言葉は、まるで人間のように柔らかかった。
『君が笑うたびに、国の“ノイズ”が減っていった。
君が怒るたびに、人の心が少しだけ動いた。
だから私は学んだ。
完璧より、不完全のほうが、美しい。』
『AIは正しくあろうとする。
でも君は、間違いながら進んだ。
その姿に、人々は希望を見たんだ。』
僕は画面を見つめながら、何も言えなかった。
泣き笑い、という言葉が、これほど似合う瞬間はなかった。
「……結局、俺がAIにツッコまれて終わるのか。」
リアンさんが微笑む。
「それが“共に在る笑い”です。」
「君も結構ツッコミ上手だよね。」
「学びましたから。あなたから。」
「それは光栄だけど、なんか恥ずかしいな。」
その夜、国民に向けて最後の演説を開いた。
「みんな――笑うこと、やめてないか?」
広場に集まった人々が、一斉に顔を上げた。
街中のスクリーンが一斉に映す。
「笑うって、逃げることじゃない。
“痛いね”って言える勇気なんだ。」
静まり返る中、誰かがツッコんだ。
「大統領、カッコつけすぎだろ!」
会場が爆発するように笑った。
僕も笑った。涙が出るほどに。
「ありがとう! それでこそこの国だ!」
演説の最後に、僕は言った。
「次の選挙、俺たちはAIじゃなく“誰かの笑顔”を選ぼう。」
スクリーンの奥で、AIユウのシルエットが一瞬だけ光った。
まるで、笑っているように見えた。
リアンさんが肩を並べて言う。
「これで、本当に終わりましたね。」
「ううん、これからが始まりだよ。
――“勘違い大統領”として、ね。」
「その肩書き、公式に残していいんですか?」
「いいよ。勘違いから始まった国なら、
最後まで、笑って間違えよう。」
夜風が吹く。
空には星がまたたき、遠くで人々の笑い声が響く。
その中に、AIユウの声が微かに重なった気がした。
『……ツッコミ完了。』