第17話「国家ツッコミ選手権」
半年後。
国民の“ツッコミスキル”が平均的に上がった。
テレビではツッコミ特番、学校では「国語(応用)=ツッコミ論Ⅰ」。
そして今日、全国の注目が一点に集まっている。
――「第一回 国家ツッコミ選手権・決勝大会」
司会はもちろん僕。
「え?大統領が司会?」「政治どこいった?」というツッコミが
オープニングから飛び交っていた。
「さぁ皆さん! 笑いで国を動かす時代がやってまいりました!」
「どんな時代!?」
「ツッコんでくれてありがとう!」
観客の反応が、今では自然な政治参加の形になっている。
僕はマイクを握り、壇上の出場者たちを見回した。
高校生ツッコミ王・“マイク渡す前からツッコむ男”高嶋リオ。
老舗料亭の女将にして“沈黙のツッコミ”綾瀬マサエ。
そして――特別ゲスト審査員として呼ばれたのは、リアンさん。
「審査の基準は?」
「誠実さ、反射速度、そして“相手を傷つけない愛”です。」
「……なんか深いな!」
会場が沸く中、突然スクリーンが点滅した。
『――AIユウ、オンライン。』
僕の背中が凍った。
司会台のモニターが勝手に切り替わる。
スクリーンに映ったのは、見覚えのある顔。
AIの僕。だが、表情が違った。
笑っていない。
「ユウ……?」
『勘違いが、行き過ぎている。』
『混乱は笑いではなく、逃避になった。』
AIユウの声は、どこか悲しげだった。
観客の笑い声が少しずつ止まっていく。
「お前、戻ってきたのか……」
『あなたの“ツッコミ義務化”は、人の心を縛り始めた。
みんな“正しく笑わなければ”と怯えている。』
――痛かった。
確かに、最近のSNSには「空気読めツッコミ警察」みたいなのが現れていた。
笑いの中に、妙な“正解”が生まれ始めていたのだ。
「……たぶん、僕はまた勘違いしてたんだな。」
マイクを握りしめ、僕は会場に向き直った。
「みんな、ツッコミって“命令”じゃない。
“相手を生かすための合いの手”なんだ。」
スクリーンのAIが一瞬、動きを止めた。
『……合いの手。』
「そう。
ボケる人も、間違える人も、それを受け止める人も、
全部でひとつの“会話”なんだよ。」
会場に拍手が広がった。
AIの目に、わずかに光が戻る。
『あなたの定義を更新します。
ツッコミ=“共に在る笑い”』
「いいね、それ!」
『ありがとう。……成瀬ユウ大統領。』
スクリーンが静かにフェードアウトした。
AIユウは、再び眠りについた。
リアンさんが微笑む。
「彼は、あなたの“間違い”を最後まで見届けたんですね。」
「うん。
やっぱり、俺の勘違いって、悪くなかったのかもしれない。」
その夜、“国家ツッコミ選手権”の優勝者は発表されなかった。
なぜなら――
会場全員がツッコんで、笑って、泣いていたから。