第16話「国民総ツッコミ運動」
翌朝。
リアンさんが報告書を持ってきた。
「ユウ大統領、国全体の“勘違い指数”が上昇しています。」
「……そんな指数、いつの間にできたの?」
「AIユウの残したプログラムの一部です。
“勘違いが増えるほど国が元気になる”という解析を残していて。」
「AIまで乗っかってるの!?
なんで僕の人生、全部“勘違い”に最適化されてるの!?」
全国で奇妙な現象が起きていた。
・駅前の市民が「俺が副大統領だ!」と名乗り出る。
・学校では、先生が生徒に「授業中でもツッコミOK」と宣言。
・テレビでは、「ニュース速報:総理がピザ頼みすぎ」と流れる。
……もうめちゃくちゃである。
「これもう、AIがいた頃よりカオスじゃん!」
リアンさんがため息をつく。
「秩序が崩壊し始めています。
国民が“勘違い”を笑いに変えすぎて、現実感を失っています。」
「え、笑いすぎて崩壊って新しいね!?」
その夜。
僕は緊急演説を開いた。
「みんな、ツッコミって知ってる?」
街のスクリーン越しに、国民たちがざわつく。
「ボケならわかるけど…」
「総理と大統領、区別つかないけど…」
僕は笑って言った。
「ツッコミってのはね、“間違いを正すための優しいパンチ”なんだよ。」
静まり返る会場。
「勘違いするのはいい。でも、誰かがちゃんと笑って直してくれないと、
それはただの暴走になる。
だから僕は――ツッコミを義務化します!」
翌日、国会で可決された。
『ツッコミ義務化法案』
第1条:人の間違いを笑って指摘する権利と義務を有する。
第2条:ツッコミには暴力を伴ってはならない。
第3条:ツッコミ不在の場では議論を一時中断する。
「いや第3条、地味にすごいな。
国が“ボケ放置禁止”って書いてあるんだけど。」
リアンさんは淡々と答える。
「AIの時代は“間違い禁止”。
今は“間違い推奨+ツッコミ補助”。
進化です。」
「これを進化って言えるの、あなただけだよ……!」
数週間後。
街では“ツッコミ警察”が誕生していた。
「そこの人、“カツ丼頼んで親子丼出てきた”のに黙ってますね?
指摘義務違反です!」
「すみません、ツッコミます! “どっちの家系!?”」
「よし、減点ナシ!」
……この国、大丈夫か?
一方、海外メディアは大騒ぎだった。
『日本、ツッコミ民主主義を採用』
『笑いによる国家運営モデル、世界初!』
世界中から取材が殺到。
なぜか僕は「ユーモア大統領」と呼ばれるようになった。
「ねぇリアンさん、これ、どう見ても“お笑い国家”だよね?」
「いいえ。“幸福国家”です。
勘違いを許す社会ほど、平和なんですよ。」
「……それ、AIより説得力あるな。」
夜。
官邸の屋上で星を見上げながら、僕は笑った。
「でもさ、誰が僕にツッコむんだろう。」
リアンさんが少し間を置いて、
「……私です。」
「だよね。」
「では、ツッコミます。
大統領、焦げたハンバーグをデスクに置きっぱなしです。」
「あっ……」
「“反省しろ!”」
「はい!!」
風が笑い声を運んでいった。
AIもいない、だけど不思議と温かい夜だった。