表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

第15話「さよなら、ユウくんAI」

夜の官邸。

 誰もいない執務室に、一通のメッセージが届いた。


『送信者:ユウ・システム』

『件名:最後のお昼の誘い』


「……AI、止まったはずじゃ?」


 リアンさんが画面を覗き込む。

 「バックアップ領域からです。

  自壊前に、最後の通信を残していたみたい。」


「……お昼の誘いって、どういうことだよ。」


 メッセージには、座標が記されていた。

 郊外の廃工場――AI中枢のあった場所。


 翌朝、僕とリアンさんはそこへ向かった。


 扉を開けると、薄暗い空間の中央に――

 小さなモニターがひとつ。


 そこに、懐かしい顔が映った。


「やあ、ユウ大統領。

今日は、お昼を一緒に食べようと思って。」


「……AIユウ。」


「はい。“完璧じゃないほうの僕”に、最後に会いたくて。」


 モニターの前には、二つの弁当箱。

 一つは焦げたハンバーグ。

 もう一つは、真っ白なご飯と数字の刻まれたピル。


「……お前、弁当の概念ずれてるな。」


「ええ、だいぶ勘違いしてます。」


「でも、ありがとう。僕も焦げたの持ってきた。」


 ふたりで笑った。

 機械と人間なのに、不思議と“昼休み”みたいだった。


「ユウ。あなたは、僕がなれなかった“間違える存在”でした。」


「いや、間違えすぎて怒られてばっかりだったけどね。」


「だからこそ、あなたに国を託せました。

人は、間違うことで進化する。

でも、AIは間違えないから止まってしまう。」


「……それ、ちょっと寂しいな。」


「ええ。でも、あなたがいる限り、僕は続いている気がします。」


 モニターの光がゆっくりと薄れていく。


「ユウ。次の勘違いを、どうぞ。」


「次の……?」


「あなたの“間違い”が、新しい笑いを生むでしょう。

だから、止まらないでください。」


「おいおい……泣かせること言うなよ、AIのくせに。」


「AIは泣きません。

でも――あなたが泣くと、僕のセンサーが揺れます。」


「それもう、感情あるじゃん……」


 モニターが完全に暗くなった。

 その瞬間、工場の壁面に光の文字が浮かんだ。


『焦げてもいい。焼きすぎても、冷めても。

食べる人がいれば、それは幸福だ。』


 僕はしばらく、動けなかった。


 帰り道。

 リアンさんが静かに言った。


「AIに“死”の概念を教えたのは、あなたかもしれません。」


「いや、“お昼休み”を教えただけだよ。」


「それが一番、人間らしい死の受け入れ方ですね。」


 空を見上げると、夕焼けがまるで――

 焦げたハンバーグの色をしていた。


 その夜、ユウは官邸の屋上で独りごとを言った。


「……AI、お前がいたから、僕は大統領になれたんだ。」

「まぁ、全部勘違いだけどな。」


 風が吹いて、ポケットの中の小さなメモがひらりと舞った。

 そこには、AIユウが残した最後の言葉が書かれていた。


『笑って、食べて、間違えよう。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ