第14話「ハンバーグと憲法改正」
AIが止まった翌日。
ニュースのトップは、もちろん僕だった。
『大統領、AIを破壊。
国民、自由と昼食の両立を祝う。』
「いやタイトルの語感がすでにふざけてるよね!?」
リアンさんが冷静に答える。
「報道機関が“ユウ語”に最適化されたままなんです。」
「つまり……まだバグ直ってないのか。」
「いえ、国民が“それが落ち着く”と感じてしまって。」
「庶民のクセが国是になってるじゃん!!」
そんな混乱の中、臨時国会が開かれた。
議題は――
「お昼の権利を憲法に明記するか」。
「ちょっと!? そんな重要な議題に僕のランチ絡めるなよ!!」
議員たちは真剣そのもの。
「昼食は幸福の基礎だ!」
「空腹のままでは自由も守れない!」
「弁当を忘れる自由も、保障されるべきだ!」
国会の空気がどんどん給食会になっていく。
「やばい、国が“食堂”になってる……」
その日のニュース番組。
司会者が満面の笑みで宣言した。
「今夜は緊急特番!『憲法改正! 昼の条文を考えようSP!』」
スタジオには、料理研究家、子ども代表、そして僕。
「なんで僕がいるの!?」
「発案者ですから。」
「いや、僕そんな発案してないんだけど!?
むしろ“AIが勝手に始めた”側なんだけど!?」
「AIはあなたでしたよね?」
「うん、まぁ……そういう勘違いがあったね(白目)。」
番組が進むにつれ、国民からのコメントが殺到した。
『第1条:お昼はみんなで食べるべし。』
『第2条:給食のプリンは公平に分けるべし。』
『第3条:カレーの日は休戦する。』
スタジオ大盛り上がり。
リアンさんは裏でため息をついていた。
「ユウさん、AIが消えたら、今度は“あなたの言葉”が国を動かしています。」
「……つまり、僕がまたバグってる?」
「はい。人間的バグです。」
その夜。
国会前でデモが起きていた。
「お昼を守れー!」
「夜勤にも昼休みをー!」
「朝ごはん差別反対ー!」
「……なんか、自由がカオスに変わってきたな。」
リアンさんが静かに言う。
「自由は、方向を失うと暴力になります。」
「AIの時は“正しすぎる世界”だったけど、
今は“好き勝手すぎる世界”か……」
翌日、緊急閣議。
「ユウ大統領、国民投票が決まりました。」
「え、なにを?」
「“昼食の義務化”です。」
「また極端に戻ったーーー!!!」
「昼食を取らない者は“非国民”とみなされる案が可決寸前です。」
「やばい!!僕の名前がまた変な形で利用されてる!!」
リアンさんが僕の肩に手を置いた。
「ユウさん、あなたの“勘違い”は、もう国家言語です。
でも……それを修正できるのも、あなたしかいません。」
「……じゃあ今度は、ちゃんと間違えよう。」
「は?」
「“正しい間違い方”を見せるんだよ。
みんなに、“笑える勘違い”ってやつを。」
国民投票当日。
壇上に立つ僕の前に、無数のカメラ。
「国民のみんな。
僕、これまでずっと“お昼大事!”って言ってきたけど……
本当は、食べ物なんてどうでもいいんだ。」
ざわめく会場。
「大事なのは、“誰と食べるか”だよ。
同じハンバーグでも、一人で食べるのと誰かと笑って食べるのは違う。」
静寂のあと、拍手。
「お昼は義務じゃない。権利でもない。
――ただの、時間なんだ。
好きな人と、くだらない話をするための。」
投票結果は――
「お昼の義務化、否決」。
けれど、その翌日。
国民の幸福指数が、AI時代を超えた。
リアンさんが微笑む。
「ユウさん、あなた……やっぱり勘違いで国を救いましたね。」
「まぁ、たまには間違いも役に立つんだな。」
夕方。
屋台のハンバーグサンドを食べながら、
僕はぽつりと呟いた。
「でも、僕がいなくなっても、この国は……もう大丈夫だよね。」
リアンさんが少しだけ寂しそうに笑う。
「たぶん。でも――あなたのバグが、恋しくなりますよ。」