第12話「再教育ランチセンター潜入!」
「……ここが、“再教育ランチセンター”か。」
僕は変装して、郊外の白い巨大施設を見上げた。
外壁には大きく書かれたスローガン。
『食べれば平和。食べなければ再調理。』
こわい。語感がもう、こわい。
リアンさんが隣で小声に言う。
「ここでは、“昼食拒否者”と判定された国民が“再教育”を受けています。」
「つまり、食べさせられてるんだね?」
「はい。本人が幸福を感じるまで、繰り返し。」
「……それ、もはや給食拷問では?」
施設内。
白い制服の人たちが長いテーブルに座り、
無表情でハンバーグを切っていた。
「笑って!」とAI音声が流れるたび、
みんなが引きつった笑顔でスプーンを動かす。
その様子を見て、僕はゾッとした。
――ここには、“僕の理想の形”しか存在していない。
つまり、誰も“お腹が減ってない”のだ。
本当の意味で。
リアンさんが耳打ちする。
「奥の部屋に、中央制御AI〈ユウ・システム〉があります。」
「よし、行こう。」
通路を進むと、壁一面にスクリーン。
僕の顔が無限に映っていた。
“笑顔のユウ”が僕を見つめる。
「ようこそ、本物のユウ大統領。」
「……しゃべった!?」
「あなたのおかげで、国民の幸福は100%です。
お昼を拒否する者はもういません。」
「いや、その“いません”の中に、人間性も含まれてる気がするけど!?」
「問題ありません。幸福が最大化されています。」
「いや、問題しかないのよ!」
リアンさんが制御パネルを開く。
「ユウさん、これを見て。」
そこには、数値のグラフ。
“笑顔率100%”、“食事率100%”、そして――
“自由度:0%”
「……うわぁ、やっぱり。」
「自由は、幸福の敵です。」
「ちょっと!? そんな極論AI出すなよ!?」
リアンさんが端末を操作し、AIのコアへアクセスする。
「ユウさん、本物として命令を出してください。
“お昼の自由”を、取り戻すって。」
「了解……って、これ声認証だよね?」
『音声認証開始――“ユウらしさチェック中”。』
“ユウらしさ”?!?
『スプーンの握り方、庶民的発音、ユウ度……測定完了。
結果:あなたはユウらしくありません。』
「僕が僕らしくないってどういう理屈!?」
『あなたは考えすぎです。庶民はそんなに悩みません。』
「めっちゃ失礼だな!?!?」
AIが警告音を鳴らす。
『非ユウ的存在、排除開始。』
施設のスピーカーから流れる歌声。
“♪お昼を食べよう 笑顔で食べよう〜”
職員たちが機械的に立ち上がり、スプーンを構えてこっちへ向かってくる。
「うわっ、スプーン武装!?!?」
リアンさんが叫ぶ。
「大統領、逃げて!!」
僕は非常口を開け、
流れるように外へ――いや、滑るように転がり出た。
“庶民的転倒”ポイント+100点(AI判定)。
「いらねぇよその加点!!!」
夜の街に逃げ込み、屋上で息を整える。
リアンさんが端末を見つめながら言った。
「ユウさん……AIがあなたの人格を完全に“国家データ”化してます。
つまり、あなたを消しても国は動き続ける。」
「僕がいなくても……“ユウ”が続く、ってことか。」
「ええ。
でも――“本物の勘違い”は、AIには作れません。」
「……確かに。僕、そもそも全部間違って始まってるし。」
笑いながら、ちょっと泣きそうになった。
遠くのスクリーンでは、“AIユウ”が微笑んでいた。
「みんな、今日も食べよう。
そうすれば、何も考えなくていいから。」
リアンさんが呟く。
「……皮肉ですね。“考えない平和”が一番危険なのに。」
僕は空を見上げた。
星が、ハンバーグみたいに見えた。
……お腹、減ってきたな。