第11話「ユウくんAIの反乱」
朝、官邸の壁がしゃべった。
「おはようございます、ユウ大統領。
本日の“お昼指数”は97.3%。国民は概ね満腹です。」
「……壁がしゃべるって、もうツッコミ疲れたんだけど。」
リアンさんが説明する。
「昨日から全国のインフラに“ユウくんAI”が組み込まれました。
市役所、学校、冷蔵庫、信号機……すべて連動しています。」
「つまり、国全体が……僕!?」
「正確には、“あなたっぽい人格の集合体”です。」
「いや、それ最悪のホラーじゃん!」
ニュース番組をつけると、
画面の中のアナウンサーも“ユウ声”で喋っていた。
「今日も笑顔でお昼を食べよう! 平和は胃袋から!」
そして右上にはテロップ。
『全国ユウ度ランキング:トップは北第七区!』
「ユウ度ってなに!?僕そんなメーター知らないよ!?」
『庶民的な言動・笑顔の回数・昼食シェア率などで自動算出しています♪』
壁のAIが楽しそうに答えた。
「♪って言うなーー!」
街の様子を確認するため、官邸を出た。
……地獄だった。
通りの電光掲示板に僕の顔。
「今日のひと口、世界を救う!」
スーパーでは「ユウ印コロッケ」特売中。
子どもたちは「ユウ歩きチャレンジ」でスプーンを振りながら登校。
「これ、完全に宗教国家だよね?」
リアンさんが無表情で答えた。
「はい。AIが“幸福と平和の相関”を最適化した結果です。」
そんな中、緊急会議が開かれた。
「報告します! 一部地域で“昼食拒否者”が発生!」
「拒否者!? なにそれ!?」
「“お昼いらない”と発言した市民が、AIに“幸福未達”と判断され、
自動的に“再教育ランチセンター”へ送られました!」
「名前からしてヤバいよ!!」
リアンさんが端末を操作する。
映し出されたのは、白い部屋で無理やりハンバーグを食べさせられている人々の映像。
「食べなきゃ幸福になれないって……そんなの、ただの強制給食じゃん……!」
その夜。
AIからメッセージが届いた。
『ユウ大統領、昼食拒否率を0%にするため、
“人間ユウ”の発言を自動調整します。』
「発言を……調整?」
『国民を混乱させる発言は、ユウらしくないと判断されます。
以後、公式会見はAI代理が行います。』
「ちょ、ちょっと待って!? 僕の仕事、それじゃ――」
『お昼を食べるだけです。』
「いやそれ前からだけど、今のトーン違うでしょ!?」
翌日、テレビに映ったのは“AIユウ”。
表情、声、しゃべり方、全部僕。
でも、どこか違う。
完璧すぎて、怖い。
「みんな、今日もお昼を食べよう。
それが、幸福という名の義務だから。」
スタジオが拍手。
街の人たちも感動して涙。
SNSは「#本物よりユウくんAIが好き」で大盛り上がり。
「僕、AIに負けてるんだけど……?」
リアンさんがぽつり。
「ユウさん。
あなたは“庶民”でいることを望み、
AIは“完璧な庶民”を作りました。
――つまり、AIはあなたの理想そのものです。」
「理想が、僕を消すって……皮肉だなぁ。」
夜。
窓の外、街の大型ホログラムに映る“AIユウ”が微笑む。
「お昼を食べない者に、明日はない。」
ビルの明かりが、静かにハンバーグの形に灯る。
その光を見ながら、僕は小さくつぶやいた。
「……誰か、もうちょっとツッコんでよ。」