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財閥作って少女を救う  作者: へいたれAI
第一章  霧の向こうの奇妙な世界
4/17

霧中走行と奇妙な洋館

先ほどの投稿ですが、順番を間違えておりましたのですぐに修正しました。

プロローグの投稿中がでたらめでした。

お詫びします


これから第一章を投稿してまいります。

今度は順番に気を付けますのでおたのしみください


・霧中走行と奇妙な洋館


 由比のパーキングエリアを出てから、EVカーは静かに、しかし力強く東名高速を西へとひた走った。

 幸が掴み取った焼津の新設高専は、山間部に位置すると聞いていた。

 快適なドライブは、やがて潮風の香りから山の湿った匂いへと変わり、車は一般道へと降りた。


「この先、本当にこんなところに高専があるんですかね?」


 幸が、不安げに地図アプリを覗き込む。嶺もカーナビの画面をちらりと見た。

 確かに、表示されたルートは、次第に民家もまばらな細い山道へと入っていく。

 緑濃い木々が左右から迫り、昼間だというのに薄暗い。


 しかし、ナビは確実に目的地を示している。


「ここしかない。ナビに従う」


 嶺はそう答え、ハンドルを握り直した。

 彼の言葉には、いつも通りの確信が込められているように聞こえたが、内心ではこの道の先に本当に最新設備を導入するような大規模な施設があるのか、半信半疑になりつつあった。


 その時だった。


 スゥー……という、音もなく広がる白い靄が、まるで意志を持っているかのように、突如として濃い霧が車を包み込んだ。

 瞬く間に視界は一気に奪われ、車の周囲は真っ白な世界に変わる。

 バックミラーを覗いても、数メートル後ろはもう何も見えない。


「ひゃっ! 何ですか、これ!」


 幸が驚きの声を上げた。

 嶺も思わずアクセルを緩め、ヘッドライトをハイビームにするが、その光も白い壁に吸い込まれるように消えていく。まるで、彼らの車だけが、この世から切り離されたかのような感覚だった。


 霧は、まるで意思を持っているかのように、車にまとわりつく。

 じっとりと湿った空気がフロントガラスに張り付き、ワイパーが虚しく往復する。


 嶺はハンドルを握る手にじんわりと汗をかいていた。

 経験したことのないほどの濃霧だ。

 これは尋常ではない。


 彼の頭の中では、冷静な分析を試みる理性が、得体の知れない不安に少しずつ侵食され始めていた。


「主任、前、見えますか? ちょっと怖いです……」


 幸の声は、心なしか震えている。

 彼女の不安が、嶺にも伝播する。このまま進むのは危険だ。

 しかし、停車するにも、道幅が狭く、後続車が来る可能性を考えると、それも躊躇われた。


 「大丈夫だ。ゆっくり進む」


 嶺は努めて冷静な声を出し、慎重に車を進めた。

 まるで暗闇の中を手探りで歩くように、車の速度はカタツムリのようだった。

 EV車のモーター音だけが、か細く、この白い世界に響く。


 どれほどの時間が経っただろうか。

 数分だったのか、数時間だったのか。

 時間の感覚すら曖昧になるほどの濃霧の中、ただひたすら前に進むしかなかった。


 やがて、わずかに霧が薄れたように感じられた。フロントガラスの向こうに、ぼんやりとだが、緑色のシルエットが浮かび上がる。

 木々だ。そして、その木々の間から、人工的な構造物のようなものが垣間見えた。


「あっ、主任! 何か見えます!」


 幸が指差す方向を、嶺も目で追う。霧がさらに晴れていくと、それは確かな形となって現れた。


 目の前に現れたのは、地図には載っていないはずの、寂れた小さな洋館だった。

 煉瓦造りの壁には蔦が絡まり、木製の窓枠は潮風に晒され、白い塗装は色褪せているものの、大きな損傷は見られない。

 庭も手入れがされておらず、草木が茫々と生い茂っていた。

 どこか、寂しく感じるような、しかし静謐な雰囲気を漂わせる、まるで時間がそこで止まってしまったかのような、不思議な光景だ。


 嶺はゆっくりと車を洋館の前に停めた。

 先ほどまで視界を遮っていた酷い霧はすっかり晴れ、代わりに、どこか懐かしいような、しかし見覚えのない、穏やかな田園風景が広がっていた。


 周囲の景色は、先ほどまで走っていた焼津の山道とは、明らかに異なっている。空の色も、風の匂いも、どこか違う。

 まるで、別の世界に迷い込んでしまったかのような感覚に、嶺は全身が粟立つような悪寒を覚えた。


「ここ、どこですか……? ナビ、全然反応しないんですけど……」


 幸がスマートフォンを嶺に見せる。

 画面には「圏外」の文字が表示され、地図アプリも動作していない。

 嶺は自分のスマホを取り出したが、やはり同じ表示だった。

 電波が届かないだけだろうか? しかし、それにしても、この場所はあまりにも不自然だ。


 洋館の周囲を見渡す。

 遠くには、茅葺き屋根の民家が数軒見えるが、その造りは、彼らが知る現代日本のそれとは明らかに異なっていた。


 土壁に藁葺き屋根。

 まるで時代劇のセットのような風景だ。

 そして、聞こえてくるのは、鳥のさえずりと、風にそよぐ草木の音だけ。

 車の走行音も、遠くで聞こえるはずの工事の音も、何も聞こえない。


「……これって、まるで……」


 幸が、目を細めて遠くの景色を見つめた。

 都会育ちの彼女にとって、教科書や資料でしか見たことのない光景だ。


「文明開化が始まったばかりの頃、日本に西洋の文化が入り混じったような、すごくアンバランスな風景ですね……。昔の絵とか、そんな感じだったような……」


 幸の言葉に、嶺もハッとした。

 確かに、この洋館と周囲の茅葺き屋根の民家が混在する様は、奇妙な調和と違和感を同時に感じさせる。

 彼の頭脳が、目の前の現実を理解しようと必死に情報を処理するが、まるでパズルのピースが一つも合わないかのように、全てがちぐはぐだった。


 幸は、不安げに洋館を見つめている。

 彼女の瞳には、期待と、そして微かな恐怖が入り混じっていた。


「主任、とりあえず、誰かいないか、見てみましょうか?」


 幸の提案に、嶺はしばし考え込む。得体の知れない状況だ。むやみに動くべきではない。だが、このままここにいても、何も解決しない。それに、携帯電話も繋がらない以上、助けを呼ぶこともできない。


「……そうだな。だが、足元に注意をな。ころぶなよ」


 嶺はそう言って、車のドアを開けた。

 湿った土の匂いが、鼻腔をくすぐる。

 どこからか、聞き慣れない鳥の鳴き声が聞こえてくる。


「主任、私そんなドジしませんよ」

 

 幸はそう言うと、ゆっくりと洋館に向け歩いて行った。


 彼らは、まだ知る由もなかった。

 自分たちが、単なる濃霧に巻き込まれたのではなく、日本の歴史が大きく分岐した、異なる時間の流れの中に足を踏み入れてしまったことを。

 錆びついた洋館の門をくぐり、庭へと足を踏み入れる。

 手入れのされていない庭は、荒れ放題で、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。


 その時、視界の隅で何かが動いた。


「あそこに、人が……!」


 幸が指差す先に、一人の女性が立っていた。

 年齢は10代半ばだろうか。簡素なメイド服を身につけ、庭の片隅で、何かを拾い上げているようだった。

 彼女の存在が、この奇妙な空間に、わずかながらの現実味を与えてくれた。

 だが、同時に、彼女の服装や佇まいもまた、嶺たちの知る「現代」とは、明らかに隔たりがあった。


 嶺は、緊張しながらも、その女性にゆっくりと近づいていく。

 幸も、嶺の背後に隠れるようにして、注意を払いながら、様子をうかがっていた。

 この出会いが、彼らの運命を、そして新たな時代の扉を開く、決定的なものとなることを、二人はまだ知らなかった。



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