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財閥作って少女を救う  作者: へいたれAI
第二章:未来技術と財閥の萌芽 
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新たなる胎動:独立への序曲

・新たなる胎動:独立への序曲


 地元相良と焼津では、嶺たちの事業はもはや単なる新興勢力ではなかった。

 その影響力は地域経済の隅々まで浸透し、確固たる地位を築き上げていた。

 その中心で采配を振るう桜は、嶺たちとの関係が日を追うごとに強固な絆で結ばれていくのを実感していた。

 それは、彼女がこれまで依存してきた二条公爵家との関係とは全く異なる、対等で、未来を共に築く仲間としての絆だった。


「このままではいけない。いつまでも公爵家に庇護され、その意向に縛られるわけにはいかない」


 桜は、夜な夜な自室でそう自問自答を繰り返した。

 嶺たちの技術と才覚、そして何よりもその人間性に触れるうち、彼女の中に秘められていた独立心と、この地を自らの手で切り拓くという強い意志が芽生えていたのだ。

 しかし、いきなり公爵家との決別を宣言することは、あまりにも無謀だった。

 これまでの恩義もあるし、何より公爵家が持つ政治的・経済的な影響力は絶大だ。


 そこで桜は、かつて父が信頼を置いていた執事、近藤を東京に使わすことを決めた。

 近藤は長年二条公爵家に仕え、その内情にも通じている。

 彼に東京での地ならしを依頼することで、公爵家との関係を円満に解消するための道を模索しようと考えたのだ。


「近藤さん、これはわたくし個人のわがままではない。この相良と焼津の発展のため、そして何より、嶺さんたちの技術を真に世に広めるために必要なことなのです」


 桜の真剣な眼差しに、近藤は深く頭を下げた。


「かしこまりました、お嬢様。この近藤、命に変えても、お嬢様のお志にお応えいたします」


 近藤は東京へと旅立った。

 その間、桜は地元での商いを一層盤石なものとするため、組織の引き締めを図った。

 焼津に新たな拠点を設けることにし、そこを「相良商店」と名付けた。

 そして、この相良商店を中核として、相良油田、相良造船、そして焼津での商いを一手に担う焼津商会をその傘下に治め、形だけでも地方企業グループを形成させたのだ。


・地方財閥への第一歩:松阪との邂逅


 桜の狙いは、このグループをいずれは日本を代表する財閥へと成長させることだった。

 そのためには、地元相良と焼津だけでなく、より広範な地域での商圏の拡大が不可欠だと考えていた。


「駿河湾から御前崎を越え、さらに東へと商いを広げる。目指すは伊勢、松阪です」


 桜の言葉に、嶺と幸は目を見張った。松阪は江戸時代から日本でも有数の豪商がひしめく商業都市として有名であり、明治の時代となってもその勢いは衰えることを知らなかった。


 第一号艇のエンジン駆動船は、その航海において驚くべき性能を発揮した。

 波をものともせず、従来の和船では考えられないほどの速度で松阪へと到達する。

 操船は相変わらず後藤田が担い、彼が引き入れた元同心たちも今や熟練の操船士として、交代でその任にあたっていた。


「この船があれば、松阪まで一日で行き来することも可能になりますね」


 船上で風を切る幸の言葉に、嶺は深く頷いた。


 松阪での商談は、当初こそ難航したものの、嶺たちの持ち込んだオイルランプや、その驚異的な性能を持つ船のエンジンの話が松阪の商人たちの間で瞬く間に広まると、状況は一変した。

 松阪からは主に高品質な布地を買い求め、その代わりにオイルランプやその燃料を売るという、互いに利益をもたらす新たな商いが始まったのだ。


 そして、その取引は、やがて松阪に店を構える四丼しどん商店との出会いへと繋がった。

 四丼商店は、のちに日本を代表する三大財閥の一つに数えられることになる巨大企業グループの礎を築いた名門である。

 彼らは東京での商いの規模が大きくなっていたが、本家はまだ松阪にあり、そこを通して東京あたりの商品も取り寄せることができる環境が整った。


「四丼商店様との取引は、我々にとって大きな意味を持ちます」


 桜は、四丼商店との商談を終えて戻った近藤から報告を受け、そう呟いた。

 なぜなら、この四丼商店は、二条公爵家の後ろ盾となっている二ツ井商店と長年のライバル関係にあったからだ。

 四丼商店との取引を増やしていくことは、間接的ではあるが、公爵家に対して自分たちの独立の意思を伝える意味も持っていた。

 それは、桜が描く独立への地ならしの一環でもあったのだ。


・東京への覚悟:新たな舞台へ


 相良油田では、日夜、新たな井戸が掘られ、製油量は飛躍的に増大していた。

 地下深くから汲み上げられる原油は、焼津の工場で精製され、オイルランプの燃料として、そして船のエンジンを動かす動力源として、日本各地へと出荷されていく。

 レンガの生産も好調で、相良と焼津の町は、嶺たちがもたらした技術と富によって目覚ましい発展を遂げていた。


「油にレンガ、それにオイルランプは、まさに倍々ゲームのように販売量も利益も増えていきますね」


 幸は、帳簿の数字を見ながら興奮気味に言った。

 その膨大な利益の増加に合わせて、組織体制の構築も急務となっていた。

 幸が中心となり、桜を補佐する形で、相良に焼津にと文字通り走り回る毎日だった。


 その足として大活躍しているのが、もちろん第一号艇のエンジン駆動船である。

 相良と焼津の距離は、もはや苦にならなかった。

 後藤田とその元同心たちは、熟練の操船技術で船を操り、大量の資材や製品、そして時には桜や幸、嶺までもを乗せて、駿河湾を縦横無尽に駆け巡った。


 一方で、事業の急拡大に伴う新たな課題も浮上していた。


「権蔵さん、エンジンの製造が全く追いついていません」


 嶺は、相良の工房で、汗だくになって工作機械と格闘している権蔵に声をかけた。


「わかっております、嶺さん。

 ですが、今の工作機械では、これが精一杯でしてな……」


 権蔵は悔しそうに顔を歪めた。

 需要の爆発的な増加に対し、生産能力が追いつかないのは、ひとえにエンジンの製造に必要な工作機械が足りていないことと、既存の機械の性能に限界があったからだ。


「より多くの、より高性能な工作機械が必要だ。

 手作業では、いつか限界が来る」


 嶺は、その課題解決のために、権蔵と芝島夫妻に全幅の信頼を置いていた。

 彼らは今や、造船やエンジンの製造そのものからは離れ、もっぱら工作機械の研究製造に注力している。

 彼らの工房からは、昼夜を問わず、金属を打ち、削り、組み立てる音が響き渡っていた。

 嶺が思い描く未来、そしてこの地の繁栄を乗せた新たな機械たちが、今、この場所でまさに生み出されようとしていた。


・決断の時


 そんなある日、東京から戻った近藤が、桜の元を訪れた。


「お嬢様、東京での地ならしは滞りなく進みました。

 二ツ井商店も、我々の意図を察し、これ以上の干渉は控えるとの言質を得ております。

 もちろん、表向きは二条公爵家からの庇護を辞退する形を取り、円満な形で……」


 近藤の報告を聞き終えた桜は、静かに目を閉じた。

 そして、ゆっくりと目を開き、その瞳には強い光が宿っていた。


「わかりました、近藤さん。ご苦労様でした」


 桜は、その日の夜、嶺と幸を自室に招いた。


「嶺さん、幸さん。わたくし、決心いたしました」


 二人の顔をまっすぐに見つめ、桜は告げた。


「東京に上京します。

 そして、二条公爵家との関係に、はっきりと区切りをつけます。

 この相良と焼津で培った力を、今度は東京という舞台で試す時が来たのです」


 それは、桜にとって、そして嶺たちにとっても、新たな時代の幕開けを告げる言葉だった。

 東京という未知の舞台で、彼らの力がどこまで通用するのか。

 そして、日本という国の未来を、彼らがどのように変えていくのか。


 その夜、駿河湾の夜空には、きらめく星々が瞬いていた。まるで、彼らの未来を祝福するかのように。

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