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財閥作って少女を救う  作者: へいたれAI
第二章:未来技術と財閥の萌芽 
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新たな旅立ちと相良への道程


・新たな旅立ちと相良への道程


 数日後、相良への出発の日が訪れた。

 朝靄が立ち込める中、屋敷の門前には数台の人力車が待機していた。

 女性陣は鮮やかな着物に身を包み、桜を先頭に、朝露に濡れた庭石を踏みしめながら人力車に乗り込んだ。


 きらびやかな装飾が施された人力車は、まるで優雅な船のように静かに動き出し、焼津の港を目指して進んでいく。

 道中、時折すれ違う村人たちは、珍しそうに一行を見送っていた。

 彼女たちの顔には、不安よりも、新たな挑戦への期待と決意が満ち溢れていた。


 一方、男性陣は女性たちより一時間早く屋敷を出発していた。

 夜明け前の薄暗い道を、黙々と歩みを進める。彼らの足元からは土埃が舞い上がり、朝日が昇り始めると、その背中を朱色に染め上げた。

 重い機材や荷物を分担して持ち、額には汗が滲む。

 しかし、彼らの表情には一切の疲労の色は見えない。

 皆、真剣な眼差しで前を見据え、一歩一歩、確実に目的地へと近づいていった。


 焼津の港に到着した時、女性陣を乗せた人力車と男性陣はほぼ同時に到着した。

 港には、すでに一行のために用意された船が停泊していた。

 帆はまだ畳まれており、静かに波に揺られている。

 男性陣は慣れた手つきで荷物を船に運び込み、女性陣もまた、人力車を降りて船へと乗り込んだ。


 船はゆっくりと港を離れ、相良の港を目指して駿河湾を進んでいく。

 広がる大海原を前に、誰もが皆、それぞれの思いを胸に抱いていた。

 桜は、遠い昔にこの地で見た油田の夢を、嶺は、未来への可能性を秘めたオイルランプの灯を、そして幸は、未知なる技術への探究心を。

 水平線の彼方に広がる新たな世界に、彼らの心は躍っていた。


 数時間の船旅を経て、一行はついに相良の港に到着した。

 港は焼津とは異なり、どこか寂れた雰囲気が漂っていたが、それがかえって彼らの闘志を燃え上がらせた。


 船を降りた一行は、休む間もなく、目指す相良陣屋へと歩き出した。

 かつてこの地の行政を司っていた陣屋は、明冶政府によって焼津に一括管理されるようになって十年近くが経ち、その威容はだいぶ傷んではいたが、それでもなお、その存在感は失われていなかった。


 長い年月と風雨にさらされた壁は剥がれ落ち、庭は雑草に覆われていたが、それでも十分に使えないことはない。

 彼らはこの陣屋を拠点とし、相良の地で新たな事業を始めることに、確かな手応えを感じていた。


・相良陣屋での再集結と桜の決意


 相良陣屋に足を踏み入れた桜は、その広大な敷地と荒廃した様子を目の当たりにした。

 しかし、その瞳には諦めの色はなく、むしろ強い決意が宿っていた。

 陣屋の中央に位置する広間は、かつての栄華を偲ばせるも、今は埃まみれで静まり返っている。

 しかし、桜はここを、未来への足がかりとすると決めていた。


 まず桜は、屋敷に到着して間もなく、自分に最後まで協力的だった人々を陣屋の広間に集めるよう指示した。

 集まったのは、桜の屋敷で働く者たち、駿府から協力してくれた商人たち、そして、嶺の提案で相良から駆けつけてくれた芝島夫婦とその若き弟子たち。広間には、数十人もの人々がひしめき合い、彼らの視線は一点に集中していた。


 静まり返る広間に、桜の凛とした声が響き渡った。


「皆の者! この相良の地で、私はもう一度、商いを行います!」


 その言葉に、広間は一瞬の静寂に包まれ、やがてどよめきが起こった。

 桜は、集まった人々の顔を一人一人見渡し、力強く続けた。


「私たちは、この地の地下に眠る宝、すなわち油を掘り起こし、それを世に送り出します。そして、この油を用いて、人々の暮らしを豊かにする新たな光を創造するのです。これは決して容易な道ではありません。しかし、私は皆の力を信じています。どうか、私に力を貸してほしい!」


 桜の熱い訴えに、広間に集まった人々は皆、感銘を受けた。

 彼らの顔には、新たな挑戦への期待と、桜への信頼が満ち溢れていた。

 彼らは口々に協力の意を表明し、広間は熱気と活気に包まれた。


 集まった聴衆の中には、以前に駿府で世話になった芝島夫婦の姿もあった。

 彼らは桜の言葉に深く頷き、その瞳には強い決意が宿っていた。

 そして、桜の師匠にあたる榊原権蔵もまた、その場にいた。

 権蔵は静かに桜の言葉を聞き終え、満足そうに頷いた。


 皆を解散させた後、桜は権蔵と芝島夫婦を広間の奥にある小部屋に招き入れた。

 そこには、簡素な机と椅子が用意されており、三人は向かい合って座った。


「権蔵先生、芝島殿、これからのことについて、ご相談させていただきたいことがあります」


 桜は、真剣な眼差しで二人を見つめ、これからの事業の具体的な計画を話し始めた。


・新たな事業の幕開けと未来への創造


 桜が最初に口にしたのは、相良油田から油を採掘し、それを駿府まで船で運び、そこで販売するという、事業の根幹となる計画だった。

 権蔵と芝島夫婦は、その壮大な構想に耳を傾け、時折質問を挟みながら、真剣な表情で話を聞いていた。


「油田事業と並行して、手に職を持つ権蔵先生には、オイルランプの製造をお願いしたいのです」


 桜はそう言って、嶺がCADで作成した簡単なオイルランプの図面を二人に手渡した。

 図面は、従来の行燈とは異なり、より効率的で安全に油を燃焼させるための工夫が凝らされていた。


 権蔵は図面を手に取り、熟練の職人の眼差しで隅々まで確認した。

 彼は長年、金属加工に携わってきた経験から、その構造や製造工程を瞬時に理解した。


「なるほど、これは面白い。しかし、この構造では、それなりの鉄が必要となりますな」


 権蔵の指摘に、桜は頷いた。


「ええ、その点についても考えております。当面の間は、嶺たちが砂鉄から電気炉を使い鉄を作り、権蔵先生に提供する形を考えております」


 これには権蔵も驚きを隠せない様子だった。

 砂鉄から鉄を作り出すという、途方もない計画に、彼は静かに感嘆の息を漏らした。


 芝島夫婦は、オイルランプの製造について、図面を見ながら議論を始めた。

 彼らは、必要な材料や工具、そして製造工程について、具体的な意見を交わしていく。

 桜は、彼らの専門知識と経験に耳を傾け、積極的に意見を取り入れた。


「その他、一度屋敷まで権蔵さんたちをお呼びして、必要な工具類を選んでいただきたいのです」


 桜の提案に、権蔵は快諾した。彼らは後日、桜の屋敷を訪れ、これまで蓄えられていた工具の中から、オイルランプ製造に必要なものを選び出した。


 そして、いよいよオイルランプの一号機が屋敷の庭で作られることになった。

 権蔵と芝島夫婦、そしてその弟子たちが協力し、試行錯誤を繰り返しながら、丹精込めて作り上げた。 

 完成したオイルランプは、相良で採油されたばかりの油を使って火がともされた。

 しかし、火がともされた瞬間、ランプから妙な臭いが立ち込め、炎も不安定で時折大きく揺らめいた。


「これは、少し危険かもしれませんな」


 権蔵が眉をひそめて言ったその時、嶺が口を開いた。


「桜様、この油は精製が必要です。ガソリンのように低い沸点で揮発しやすい成分が含まれているようです。以前調べた知識によれば、ガソリンの沸点を利用した原始的な方法ですが、加熱することで不純物を取り除くことができるはずです。」


 嶺の進言に、桜は深く頷いた。


「では、嶺。その精製方法について詳しく教えてくれ。安全に油を販売するためには、それが不可欠だ。」


 嶺が説明したのは、60度から80度のお湯の中に油を入れて、かき混ぜてしばらく待つという、極めて原始的で乱暴な方法だった。

 しかし、この乱暴な方法であっても、お湯を使うことでガソリン成分の他にも、細かなごみはもちろん、水溶性の不純物まで取り除くことができる。

 この時代においては、割と理にかなった精製方法だと言えた。


 彼らは早速、その方法で油を精製し始めた。

 大きな釜に湯を沸かし、その中に油を投入し、ひたすら棒でかき混ぜる。湯気と共に揮発性の高いガソリン成分が蒸発していく。


 数時間後、精製された油は、以前よりも澄んだ色になり、独特の刺激臭も軽減されていた。

 彼らは、もう一度その油を使ってオイルランプを試した。

 今度は、炎は安定し、臭いもほとんど気にならない。


「これなら、問題なく使える!」


 皆の顔に、安堵と喜びの表情が浮かんだ。

 この原始的な精製方法によって、安全な油の販売に道が開かれたのだ。


・駿府への出航と陣屋の改修


 油の販売が決まると、早速、後藤田さんと権蔵さん、そして近藤さんの三人が、完成したオイルランプと精製された油を積んで、船で駿府へと赴くことになった。

 彼らは、駿府で知り合いの商人に販売を依頼し、新たな販路を開拓する使命を帯びていた。


 三人が駿府へと旅立った後、俺たちは相良の陣屋を生活できるまでに綺麗に改造していく作業に取り掛かった。

 芝島夫婦が連れてきた若者たち数名も加わり、陣屋は活気に満ち溢れていた。


 長年放置されていた陣屋は、想像以上に傷みが激しかった。

 しかし、俺たちは皆で協力し、大工仕事に精を出した。

 傾いた柱を直し、傷んだ床板を張り替え、剥がれ落ちた壁を修繕する。

 若者たちは、芝島夫婦の指導のもと、みるみるうちに腕を上げていった。

 汗と埃にまみれながらも、彼らの顔には充実感が満ち溢れていた。


「ここが、俺たちの新たな拠点になるんだ」


 誰もがそう思いながら、一心不乱に作業に打ち込んだ。


 陣屋の整備が進むにつれて、少しずつだが、かつての威容を取り戻していくのが分かった。

 広間は清掃され、新たな畳が敷き詰められた。

 荒れていた庭も整えられ、やがて菜園へと生まれ変わる予定だ。


 陣屋の整備がある程度終わり次第、桜は芝島夫婦に新たな依頼をした。

 それは、手押しポンプの製造だった。

 採油作業を効率化するためには、手押しポンプが不可欠だったのだ。

 芝島夫婦は、オイルランプの製造で培った技術と経験を活かし、早速手押しポンプの設計に取り掛かった。


 彼らが手押しポンプの製造を進める傍ら、俺たちは駿府の商人を通して適当な鉄パイプも入手することができた。これで、いよいよ採掘の準備が整った。


・油田採掘の開始と相良の未来


 いよいよ、油田採掘の日が来た。

 相良の地から、新たなエネルギーが生まれる瞬間だ。

 以前に油を採取した場所へと向かい、俺たちは少しずつパイプを打ち込み始めた。


 地面にパイプが深く打ち込まれるたびに、皆の期待感は高まっていった。

 慎重に、しかし確実に、パイプは地中深くへと伸びていく。

 そして、ある程度の深さに達した時、パイプの先から、薄茶色の液体がゆっくりと湧き出してきた。


「出たぞ! 油だ!」


 誰かが叫んだ。その声に、皆が一斉に歓声を上げた。

 桜が重い抱いた野心と嶺の夢が、今、現実のものとなったのだ。


 採油された油は、川船を使い相良の陣屋まで運ばれた。

 陣屋では、屋敷で実験した方法で精製作業が始まった。

 湯気と共に揮発成分が蒸発し、澄んだ軽油もどきが作られていく。

 精製された油は、再びオイルランプで試され、その品質が確かめられた。


 問題がないことを確認した後、油は船で駿府へと運ばれ、いよいよ本格的な販売が始まった。

 駿府の商人たちは、新たな燃料の登場に驚きを隠せない様子だったが、オイルランプの明るさと安定性、そして精製された油の安全性に、すぐにその可能性を見出した。


 相良の油は、駿府で瞬く間に評判となった。

 夜の町に、これまでになかった明るい光が灯り始め、人々の生活は劇的に変化していった。


 相良の陣屋は、まさに油田事業の中心地となった。

 芝島夫婦は手押しポンプの製造を本格化させ、若者たちは採油作業に精を出す。

 権蔵は、新しいオイルランプの設計に取り組み、より明るく、より安全なランプの開発を進めていた。


 そして、桜は、この地の未来を見据えていた。

 油田事業の成功は、相良の町に新たな活気をもたらし、多くの人々がこの地に移り住んでくるだろう。 

 桜は、相良を単なる油田の町としてだけでなく、新しい技術と文化が花開く、豊かな町へと発展させていくことを夢見ていた。


 相良の地は、今、まさに夜明けを迎えようとしていた。

 暗闇を照らすオイルランプの光は、単なる燃料ではなく、人々の希望と未来を照らす光となっていた。

 桜たちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

 しかし、彼らは確信していた。この光が、いつか日本中を照らし出す日が来ることを。


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