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財閥作って少女を救う  作者: へいたれAI
第二章:未来技術と財閥の萌芽 
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油の湧き出す窪地から湧き出た油

 

 ・油の湧き出す窪地から湧き出た油


 翌日、嶺は執事の近藤の案内で、相良の**「油の湧き出す窪地」**、すなわち相良油田へと徒歩で向かった。

 ここからだと、車でも……とてもじゃないが車で移動などできないので徒歩になるが、距離があるために幸は桜と共に屋敷に残り、今後の事業展開についての話し合いをすることになっている。

 嶺は、この油が本当に未来を切り開く鍵となるのか、その目で確かめるべく、期待とわずかな不安を胸に歩を進めた。


 舗装されていない山道は、前日の雨でぬかるみ、足元を取られそうになる。

 車で来ようなどと無謀なことを考えなくと良かったと、今まで歩いてきた道を振り返りつくづく生きにくい時代に来たものだと嶺は考えていた。

 しかし同時に、嶺の心は、目の前の困難よりも、新たな発見への好奇心で満たされていた。


 近藤は慣れた足取りで先を進み、時折、振り返って嶺を気遣う。

 彼もまた、この油田が屋敷の、ひいてはこの地域の未来を変えるかもしれないという希望を抱いているようだった。


 ・6時間の道のり


 6時間もの時間をかけ、ようやく目的の場所にたどり着いた。

 鬱蒼と茂る木々を抜け、視界が開けた先に現れたのは、窪んだ土地だった。近づくにつれて、鼻を刺すような独特の匂いが強くなる。


「ここが、例の場所でございますか」


 近藤が、やや顔をしかめながら言った。

 近藤の問いに後藤田は静かにうなづく。


 嶺は匂いに構わず、フィールドワーク用に便利グッズが詰まったバックからシャベルを取り出した。

 窪地の地面は、所々が湿っており、光の加減で水たまりが虹色にも見える。

 それだけでも油がにじみ出ているのが見て取れる。

 嶺は、黒く湿った部分をじわじわと掘り始めた。


 ・油の採取


 シャベルが土を掻き分けるたびに、さらに強い油の匂いが立ち上る。

 やがて、じわりと油がにじむ程度の層に到達した。

 嶺は、しばらく待ってから、持参した蓋つきの瓶に油を採取し始めた。

 一瓶、また一瓶と、薄茶色の液体が瓶に吸い込まれていく。

 原油にしては色が薄すぎると思ったが、匂いは明らかに油だ。

 それも、ベンゼン……いや、ガソリンに近いかもしれない。

 その匂いを嗅いで嶺は未来への可能性が、その液体の中に詰まっているような気がした。


 ・相良での一泊


 さすがに、焼津の屋敷に帰るには距離がある。

 嶺は近藤に、この近くに宿はないかと尋ねた。

 近藤は心得たように頷き、相良に知り合いの家があると答えた。


「相良の芝島様のご自宅に、今夜一晩お宿をお借りすることにしましょう」


 近藤の案内で向かった相良の町は、田舎というには相当寂れていた。

 活気がなく、店もまばらだ。

 話に聞けば、かつて大名だった桜の父親が起こした事業が失敗したこともあり、町全体が不景気の真っただ中にあるという。


 ・芝島ご夫婦との出会い


 嶺と近藤は、芝島ご夫婦の家へとたどり着いた。

 以前は近隣の漁船などを作っていたという芝島夫婦は、奥さんの聡子さんの父親である榊原権蔵さんの娘で、夫婦そろって権蔵さんから技術者としての技量を叩き込まれていたという。

 しかし、昨今の不景気で、ほとんど仕事がないと嘆いていた。


 芝島ご夫婦は、突然の訪問者にもかかわらず、快く嶺たちを受け入れてくれた。

 嶺は、この寂れた町を目の当たりにし、そして芝島ご夫婦のような高い技術を持つ人々が仕事にあぶれている現状を知り、強い衝動に駆られた。


 ・嶺の決意


「この地で事業を起こして、このあたりに住む人たちの暮らしを改善したい」


 嶺の中に、これまでの調査や実験とは異なる、より人間的な感情が芽生えた。

 彼は単なる技術者や商社マンとしてではなく、この新世界で、自分にできることをしたいと強く願った。


 一汁一菜の夕食をごちそうになりながらの会話で、嶺は事業化への具体的なヒントを得た。

 芝島夫婦は、かつて造船に携わっていた経験を熱く語ってくれた。


「いずれは造船業を起こして、船を作りたいんです」


 嶺は、彼らの情熱に触発され、自身の持つ知識を彼らに伝えた。


「鉄道が日本でも走り始めたようですが、まだまだ物流の要は船だと聞いています。特に、このあたりの河川物流は盛んだそうですね」


 芝島夫婦は、嶺の言葉に目を輝かせた。


「ええ、まさにその通りでございます。しかし、今の船は帆と櫓が中心でして、遠出はなかなか……」


 嶺の商社マンとしての勘が冴えた。


「すぐにとはいかないかもしれませんが、エンジンさえ作れれば、ここで作れる船でもエンジンを載せるだけで十分に商売になりそうです」


 芝島夫婦の顔に、希望の光が宿る。

 嶺は、彼らの技術と、自分の知識、そして相良で発見した油を組み合わせれば、この町を、そしてこの国の物流を大きく変えることができると確信した。


 ・焼津への帰還と油の検証


 翌日、焼津の屋敷に戻ると、すっかり桜と幸は打ち解けていた。

 二人の間には、穏やかな友情が芽生えているようだった。

 俺たちが帰ってくると幸は桜さんと一緒に外まで俺たちを出迎えてくれた。

 本当に仲良さそうにしながら、俺に駆け寄って「おかえりなさい、主任」と幸が挨拶をしてきた。


 嶺は二人に「ただいま」と返しながら、鞄から分を取り出して見せた。


「これが、相良の油ですか」


 興味不可争にサクラが聞いてきたので際は丁寧に答える。


「はい、昨日私が採取したばかりの者です。

 匂いを嗅いだだけですが、十分に使えそうですね」


 俺の答えに幸が反応する。


「使えるって、どうしてわかるのですか、主任」


「幸か。 匂いだよ、匂い。 嗅いでみるか」


 俺はそう言って、瓶のふたを開けて幸の鼻先に持っていく。


「わ~、臭い」


「そうだよな。ガソリンのようなにおいとも取れるが、とりあえず火でも着けてみるか」


 嶺は、庭先で採取してきた油を小分けにして、チャッカマンの火を近づける。


「ボ!」


 一瞬だが、爆発したような感じで火が付いた。

 やはりガソリン成分の匂いがしていたため、ガソリンを多く含んではいるようだ。

 嶺は火をつける前に用心して少量の油で試したが、それでも周りにいた全員が驚きの声を上げた。


「これは……まさか、本当に燃料に!?」


 桜が、興奮と期待が入り混じった声で叫んだ。近藤も、その様子に目を見張っている。


 ・事業化への第一歩


 皆で今後の方向性について話し合った。

 この油を、自分たちの燃料として使うだけではもったいない。

 油を使って事業化を考えるべきだと、皆の意見は一致した。


「嶺さん、この油でオイルランプを作れませんか?」


 幸が、屋敷で夜に使ったオイルランプを指差しながら、手っ取り早くオイルランプ用の油として製油事業化を提案してきた。

 その発想に、皆が納得する。


 しかし、近藤が事業化について懸念事項を口にした。


「市場が小さすぎるとは思いませんか、嶺様?」


 近藤は、慎重な表情で続けた。


「東京や大阪ならばどんどん洋風文化が広がってきているので需要はあるでしょうが、せめて名古屋か最低でも駿府(静岡市)くらいの需要がないと商売にならないのでは……」


 近藤の懸念はもっともだ。だが、嶺にはすでに次の一手があった。


「需要がなければ作ればいい」


 嶺は、このあたりでオイルランプを作れないかと皆に問いかけた。


 ・オイルランプの設計と相良への再訪


 まずは相良で採取した油の成分分析が必要だ。

 これはEV車に積んである機材だけで出来そうなので、幸に頼むことにした。

 その間、嶺はCADを使って簡単なオイルランプの図面を作り始めた。

 CADのデモ用に簡単な図面はすでにいくつも用意されているので、それを使って少しいじるだけで図面ができた。それを印刷してみんなに見せる。


 誰も専門家ではないので判断に迷う中、嶺は昨日世話になった芝島ご夫婦のことを思い出した。

 彼らなら、材料や設備があればできるのではないか。


「この図面があれば、昨日お世話になった芝島ご夫婦なら、もしかしたら作れるかもしれません」


 嶺の言葉に、皆の顔に再び希望が宿った。


 様々な準備をした後、今度は桜をはじめ、全員で相良に出向くことになった。

 希望に満ちた新たな一歩を踏み出すために。

 相良の寂れた町が、彼らの手によって、再び輝きを取り戻す日が来ることを願いながら、一行は旅立った。

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