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財閥作って少女を救う  作者: へいたれAI
プロローグ 令和の魔法使いと新人OL
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平凡な日常 令和の魔法使いと新人OL


・平凡な日常と微かな異変の兆し


 都心の一角、煌びやかな高層ビル群の影にひっそりと佇む小さな商社。

 そこに勤める瓶田 嶺は、令和の時代を生きる31歳の青年だった。

 彼の人生は、まるでテンプレートに沿って作られたかのように平坦で、特筆すべき点など何一つ見当たらなかった。


 彼女はいない。

 友人も極めて少ない。

 いや、正確には「友人」と呼べるような親密な関係を築いた経験がほとんどない、と言い換えた方が適切だろう。


 休日はアニメや漫画、ライトノベルに没頭し、バーチャルの世界でだけ、彼は「自分」になれた。

 しかし、そんな嶺にも、ひとつだけ、ひそやかな自負があった。

 それは、彼がこよなく愛するライトノベルの世界において、もし彼が転生したら「立派な魔法使い」の資格を持つだろう、という確信だ。


 嶺の妄想の中には常に、「魔法使いにでもなれば、『世のためになるよう偉大なことだって簡単にできる』」という、中二病的な正義感が渦巻いていた。

 目の前の顧客の困り事を魔法で一瞬で解決し、競合他社を圧倒するような革新的な製品をあっという間に創造する――そんな、現実ではありえない理想の自分を夢想する。


 彼がこの歳まで、俗に言う「彼女なし、友人なし」の人生を送ってきたことは、彼自身が誰よりも理解していた。

 そして、ライトノベルの世界で囁かれる、「30歳を過ぎても童貞だと魔法が使えるようになる」という、自嘲にも似た『事実』を、嶺は誰よりも深く認識していたのだ。


 彼は自らの現状を突きつけられるたび、苦笑いと共にこの「魔法使い」の概念を思い出した。

 だが、その自嘲の裏には、奇妙な期待も宿っていた。

 もしかしたら、このどうしようもない現実から逃れる唯一の道が、本当に魔法使いになることではないのかと。

 そして、もし本当に魔法が使えるのなら、彼の中に燻る「世のためになるよう偉大なことだって簡単にできる」という、中二病的な正義感を満たすことができるのではないか、と。


 もちろん、現実の世界で彼が唱えられる魔法は、顧客への営業トークか、Excelの関数を駆使して見積書を作る程度だったが、その心は常に、秘めたる魔力の発現を待ち望んでいたのだ。


 今年、嶺は入社以来初めて「主任」という肩書きを与えられた。

 そして、その肩書きには、新たな「教育係」という役割がセットで付いてきた。

 彼の指導を受けることになったのは、新入社員の結城 幸。21歳。

 都内有数の難関大学を奨学金で卒業したという秀才だ。

 彼女は孤児院で育ったというが、その境遇を感じさせないほど、明るく、誰とでもすぐに打ち解ける、まるで太陽のような存在だった。


 初めて幸が自分の部署に配属された日、嶺はいつものように無表情でデスクに座っていた。


「主任、今日からお世話になります、結城幸です!」


 ハキハキとした声が、どこか埃っぽいオフィスに響き渡る。

 嶺は視線だけを向けると、軽く顎を引いた。


「瓶田です。よろしく」


 その短い言葉に、感情はほとんどこもっていなかった。

 だが、幸はそんな嶺の態度にもひるむことなく、満面の笑みを浮かべた。


「はいっ! 不慣れなことばかりですが、精一杯頑張りますので、ご指導よろしくお願いします!」


 彼女の笑顔は、まるで春先の柔らかな日差しのように、嶺の無味乾燥な日常に、微かな、しかし確かな彩りを与え始めたのだった。


 嶺は幸の指導係として、社会人としての基礎から、商社の営業という仕事の難しさまで、一つ一つ丁寧に教えていった。

 彼は口数が少ないが、教えることは嫌いではなかった。

 特に、幸が目を輝かせながら新しい知識を吸収していく姿を見るのは、悪くない気分だった。


「主任、この資料のここなんですけど、もう少し詳しく教えていただけますか?」


 幸はいつも熱心で、疑問に思ったことはすぐに尋ねてきた。

 嶺は、彼女の質問に的確に答える。

 時には、一般的なマニュアルには載っていないような、彼自身の経験に基づいた「裏技」なども教えた。



・特別な移動手段と秘密のデモンストレーション


 嶺と幸の関係が深まるにつれ、二人は会社のEVバンに乗って、大学や研究所へのデモンストレーションに向かう機会が増えていった。


 このEVバンはただの車ではない。

 大型のバンタイプで、後ろ半分は広大な倉庫エリアとなっており、様々な機材が運び込まれる。

 そして、前半分には、まるで移動する秘密基地のように、サーバーを備えたCADのデモなどが行えるローカルネットワーク環境が構築されていた。

 そのエリア内で、CADの高度なシミュレーションや、生物学研究所向けの電子顕微鏡と画像認識、そして高性能PCを組み合わせた最新のデモが行われるのだ。


 初めてEVバンに乗り込んだ幸は、その内部構造に目を丸くした。


「主任、これ、まるで秘密基地みたいですね!こんな車でデモに行くなんて、すごい!」


 幸の純粋な興奮は、いつも冷静沈着な嶺の心を微かに揺さぶった。

 嶺自身、このEVバンでのデモを、密かに「現代の魔法」と位置付けていた。

 彼の専門分野であるソフトウェアとハードウェアが融合し、顧客の抱える課題を鮮やかに解決する。

 それはまさに、彼の妄想の中の「偉大な魔法使い」の所業に限りなく近いものだった。


 特に印象深いのは、とある生物学研究所でのデモンストレーションだった。

 EVバンの後部ハッチが開け放たれ、運び込まれた電子顕微鏡が設置される。

 幸は、嶺が手際よくPCと顕微鏡を接続し、画像認識AIをセットアップしていく様子を食い入るように見つめていた。


「このシステムを使えば、従来は数日かかっていた細胞の分析が、わずか数分で完了します」


 嶺の淡々とした説明にもかかわらず、幸の瞳は輝きを増していく。


「すごい……本当に魔法みたいですね。この技術があれば、もっと多くの命を救えるかもしれません!」


 彼女の言葉は、嶺の心にじんわりと温かい光を灯した。

 彼の、世のためになることへの貢献という中二病的な正義感が、確かに満たされる瞬間だった。


 デモンストレーションの帰り道、幸は興奮冷めやらぬ様子で語りかけた。


「主任って、いつも冷静で、あんまり感情を出さないですけど、デモをしてる時の主任は、すごく楽しそうに見えます。なんていうか……キラキラしてます!」


 嶺はわずかに眉をひそめたが、否定はしなかった。

 幸には、彼の内側に秘めた情熱が、微かに透けて見えているようだった。




・幼い日の記憶と重なる面影


 ある日の昼休み。


「主任って、お昼いつも社食なんですね」


 幸が、トレーを持って隣に座ってきた。

 嶺は特に意識していなかったが、言われてみればいつも社食だった。


「ああ」


「外食とか、しないんですか?この辺、美味しいお店たくさんありますよ!」


 幸は目を輝かせながら、最近見つけたというカフェの話などを熱心に語る。

 嶺は適当に相槌を打ちながら、彼女の話を聞いていた。

 しかし、今まで誰も話しかけてこなかったランチタイムに、こうして誰かが隣に座って話しかけてくるというのは、新鮮な体験だった。彼の日常に、今までなかったささやかな「音」が加わったような感覚だ。


 幸の存在は、嶺の周囲にも少しずつ変化をもたらしていた。

 社内の同僚たちも、幸を通して嶺に話しかけることが増えた。


「瓶田主任、結城さんがいつも主任のこと褒めてますよ!」


 休憩室でそんなことを言われ、嶺は思わず「そうか」とだけ答えたが、内心では少しだけ胸のあたりが温かくなるのを感じた。


 嶺自身、幸に対する感情はまだ漠然としたものだった。

 彼女の明るさに惹かれているわけでもなければ、恋愛感情のようなものを抱いているわけでもない。

 ただ、彼女がそばにいることで、彼の世界に、今まで知らなかった新しい色が加わっていることだけは確かだった。


 それは、これまで彼が経験したことのない、微かな異変の兆しだった。

 まるで、無色透明な水に、一滴の絵の具が落とされたかのように、彼の日常は少しずつ、しかし確実に、変化の道を辿り始めていたのだ。


 幸にとって、社会人になって初めてついた先輩社員である嶺は、はじめから特別な存在だった。

 彼の口数の少なさや、一見すると無関心に見える態度の中に、幸は不思議な既視感を覚えていたのだ。

 それは、彼女が幼かった頃、孤児院で優しくしてくれた、たった一人の**「お兄さん」**と似た雰囲気だった。


 幸がまだ幼かった頃、孤児院にはいつも絵本を読んでくれる優しいお兄さんがいた。

 彼は口数は少なかったけれど、いつも幸の傍にいて、困っているとさりげなく助けてくれた。

 誰にも理解されなかった幸の些細な悩みにも、彼はいつも真剣に耳を傾けてくれたのだ。

 そのお兄さんは、ある日突然、孤児院を去ってしまった。

 幸は、ずっと彼を探していた。

 そして、大人になって社会に出て、初めての職場で出会った嶺に、そのお兄さんの面影を見たのだ。


 嶺がデモの準備をする手際の良さ、顧客のどんな質問にも的確に答える知性、そして、一見冷徹に見えて、実は相手の気持ちを汲み取ろうと努力しているような、そんな不器用な優しさ。幸は、それら全てに、かつてのお兄さんの面影を感じていた。


 特に、EVバンでのデモンストレーションの際、嶺が電子顕微鏡の仕組みや画像認識AIの原理を熱心に解説する姿は、幸が幼い頃に絵本を読んでくれた優しいお兄さんの、真剣な眼差しと重なった。


 彼女は、嶺が放つ「魔法使い」のようなオーラに、無意識のうちに惹かれていた。

 それは、彼の口から繰り出される営業トークでもなければ、Excelの複雑な関数でもない。

 彼が持つ、知識と技術を駆使して「世のためになること」を成し遂げようとする、秘めたる情熱。幸は、その情熱こそが、かつて自分を優しく包み込んでくれた「お兄さん」の温かさと同じものだと感じていた。


 嶺はまだ、幸の彼に対する特別な感情には気づいていない。

 しかし、幸の心の中では、既に嶺の存在が、かつての幼い日の思い出と、未来への希望を繋ぐ架け橋となり始めていた。

 彼女の笑顔が嶺の日常に彩りを与え、彼の秘めたる正義感を刺激する。

 そして、嶺の無意識の優しさが、幸の幼い日の傷を癒し、新たな未来へと導いていく。二人の間に芽生え始めた微かな異変の兆しは、やがて、予測不能なドラマを紡ぎ出す予感に満ちていた。



後書き

 本作品は、数年前から考えていた者でしたが、毎年やってくる新作書きたい病でも優先順位が上がらずにほとんどお蔵入りになるところを、前作のAIとの共著で、味をしめ書いてみたものです。

 ですので、抗争から考えますと、前作よりも先輩の作品になりますが、構想段階で最後までストーリー展開ができずに半ばあきらめていたのですが、前作を書いていくうちに、最後までの展開が浮かび、創作することになりました。

 

 本作は、共著も二作目(本当は、前作終了後に、もう一度構想を練り直して別作品にまで書いたのですが、未発表)になり、ある程度AI君たちとの付き合いに慣れて、割といい感じに仕上がっていると自負しております。


 もし何かお気づきなことがありましたら是非感想までお送りください。

 お待ちしております。


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