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独り歩き  作者: 殿邑誠
負の遺産
2/50

良いこと

2月15日、もう日が昇っているというのに寒い。しかしそんな寒い日も、昨日のあれを思い返せば吹き飛ぶというものである。

いやバレンタインは関係ない。ヴァレンティヌスとか、チョコレート会社の陰謀とか、そういったこととはなんの関係もない。

そもそもバレンタインなんて何の意味のない日だ。

祝日にでもなれば僕だってテンションが上がるというものだが普通に学校はある。6時間授業だ。5教科+副教科。金曜日だからギリギリ許されるぐらいの地獄の6時間。そんな日にバレンタインだからって何の違いもない。因みにチョコの数は0だった。

もうやめよう

意味のない思考だった。バレンタインと同じく。

チョコレートは自分で買えば良いのだ。

近所の洋菓子屋『ボナペティ』のチョコレートを買えば良いのだ。あそこのチョコは美味しい。最高だ。

さて、バレンタインじゃなければ、その日は何があったかというと、まぁ簡単な話、合格発表である。

中学三年生である僕は、1週間ほど前に入試を乗り越え、先日、合格発表で無効坂高校(むこうざかこうこう)への合格を勝ち取ったのだ。

これで僕の受験が終わった。もはや残りの中学校生活の一ヶ月、寝ているだけで良い。

そんな思いで今、午前11時までベッドの上から動いていないわけだが、無性に腹が減った。いつもならそろそろ使用人さんからご飯の時間を知らされるはずだが今日はそれがなかった。家もやけに静かだ。

「腹がぺこちゃんだ」

そんなどこぞの輸入雑貨商を営む男性みたいなことを呟くと僕はベッドから足を下ろした。

床は冷たい。

スリッパを探してみたが見つからない。

どうやら一階に置いてきてしまったようだ。

どうやら僕は冷たい床を素足で進まなくてはいけないらしい。

僕は大きめのため息を吐き、ベッドに預けている重い腰を上げて冷たい床に直立している2本の足で体を支える。

寒い。

僕は急いで自分の部屋の扉を開け廊下に出て階段を降り、リビングに入った。

暖房が効いていて暖かい。

さっきは残り一ヶ月寝てるだけで良いとは言ったがそういうわけにいかない。

朝食(ただし現在9時半)を食べたら散歩にでも行ってみるとしよう。

「さてさて冷蔵庫の中には何があるかなぁ」

冷蔵庫を開ける。

冷気が肌に触れ少し寒い。

冷蔵庫の中身を凝視する。

右から左、左から右、上から下、下から上へと視線を動かし、隅々まで見る。

そこにあったものは、卵、スライスチーズ、たらこ、鮭の切り身、マヨネーズ、ケチャップ、中濃ソース、焼肉のタレ。

ふむ、かなりいい食材がある。

しかし問題が2つあることに気づいた。

1つ、マヨネーズやケチャップなどの調味料以外の全ての食材には日付と夜やら昼やら朝やらが書かれている付箋が貼り付けられていること。

2つ、冷蔵庫の中にはどの食材にも貼られずただ冷蔵庫の奥に貼り付けられている付箋があり。そこには

『朝ごはん、昼ごはんは各自で食べに行ってください』

と書かれていること。

……

………

さて、推理の時間だ。

まず問題1つに着目してみよう。

食材には日付が書かれた付箋。

おそらくこの日付はその食材を使う日を表しているのだろう。だから夜、昼、朝のいずれかが書かれているのだ。マメなことである。

次に問題2つめ、これはそのままだろう。

つまり、このクッソ寒い中どっかに買いに行けというメッセージである。

……

………

そんな馬鹿な。さっきからやけに静かだが、もしや家族全員この指示に従いどこかに行ったのか?

「嘘だろ」

そんな声を漏らしたが、現実は変わらない。

今この家には、腹を空かせた高校への進学を確定させた中学生しかいないのだ。

しかしそんなことを言っていてもしょうがない。

僕は自分の部屋に急いで戻り、上着を掴み羽織る。

机の上にある財布を取り中身を確認する。

3000円と700円、それと少し。

これならば腹も満たせるだろうと安心した。

先ほど駆け上がった階段を降り、リビングを通り、玄関でスマホを確認する。

特に誰からかの連絡はない。

予定を確認する。

特に何の予定もない。

このことを確認して僕は扉を開け、外に出る。

寒い、はちゃめちゃに。

呼吸をすると、肺が凍るようだ。

雪は降っていない。

ここら辺は雪は滅多に降らないのだ。

扉を閉め、鍵をかける。

「どこで何を食べようか」

今の空腹状態だったら何を食べても美味しく感じるだろうが、食には妥協したくない。

悩む。こういう時は自分の腹に聞くのが1番いい。

僕の腹は何を食べたいんだ?

そうだ。

「ラーメンにしよう」

うん、ラーメンがいい。

ここから歩いて10分ぐらいのところに醤油ラーメンが美味い店がある。

今日の朝食は醤油ラーメンで決まりだ。

僕はその店へと歩き出す。


歩き始めて5分、スマホが鳴った。

スマホを確認する。

電話だった。

僕は電話に出る。

「はい、もしもし」

「『私、メリーさん、今、貴方の後ろに!』」

スマホと背後から同時に声が聞こえる。

両肩に何か重いものが乗るのが感じられた。

「どうどう?驚いた!?」

今度はスマホからは声はせず、背後からのみ声が聞こえる。

どうやらこの声の主が僕の肩乗っているものの正体だろう。

そして、それが誰かはもうわかっている。

「鬱陶しいぞ、土岡(つちおか)

僕はそういいながら振り返る。

そこには僕の同級生にして、僕と同じく無効坂高校へと進学する、土岡正志(まさし)の姿があった。

身長は僕と同じぐらいで髪は短く切られている。

赤い右目がしっかり見える程度に前髪も切られていた。

「なんだよつれねぇなぁ」

そんなことを言って土岡は悪戯な笑みを浮かべていた。

「なんの用だよ」

「見かけたから話しかけたんだよ馬鹿」

「暇人かよ」

全く、僕はただ美味いラーメンを食べたいだけなんだが、なぜこんな面倒なやつと出会ってしまったんだ。

「そういやお前なにやってんだ?」

「僕は美味いラーメンを食べに行くんだ」

「ふぅん」

「なんだよ」

「いや、おじさんの休日みてぇな過ごし方してんなぁと思ってさ」

余計なお世話である。

僕の休日の過ごし方をそんなふうに言われる筋合いはない。

「あ、そろそろ時間だ」

「用事でもあるのか?」

「まぁな、俺の『力』が必要なんだってよ」

「ふん、『超常力者』も大変だな」

「『兵装使い』も同じ様なもんだろ。あ、まじで時間やばい、じゃあ俺行くわ。ラーメン楽しめよ!」

そういい土岡は僕とは逆方向に走りさって行った。

台風のようなやつだ。

土岡タイフーン

「さて、ラーメン食いに行くか」

そう言い僕は歩き出した。

5分後、ラーメン屋に到着した。

古臭い外観だが外までラーメンの美味しそうな匂いが外まで香ってくる。

看板には『らっしゃい亭』と書かれている。

さてさて、何を食おうか。

醤油ラーメンは確定として、炒飯、餃子も良いだろう。

そんなことを考えながら、僕は『らっしゃい亭』の扉を開ける。

その 瞬間、店内から炎が噴き出てくる。

これは、ラーメンやらにんにくやらの匂いが炎の様に強烈に噴き出てくるとか、そんな比喩表現ではなく。

本物の炎、赤い、紅い炎が店に入ろうとした僕に襲いかかったのだ。

咄嗟に後ろへと飛ぶ。

炎は僕を捕まえようとしているかのように動きうねっている。

炎は僕を掠めようとしたギリギリのところで勢いを失った。

炎の大蛇から距離を取る。

「仕留めぞこなったか」

炎の大蛇が喋っているように感じたが、声は店内から聞こえる。

「よぉ千頭絵(せんずえ)投了(とうりょう)

大蛇が縦に2つに割れ、店内の様子が見える様になる。

そこには1人の男がいた。

「お前を殺しにきた」

良いことなんて一つもない

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