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黄龍クラーケン 三本目







如月閃が携帯電話の着信に気付いた時は、それはもう着信履歴という部類に入り、深夜にそれに気付いた俺はもう彼等は就寝していると勝手な自己解釈を済ませたので、何の心配もせずに自分もベッドに向かって行ってしまったのだ。





現在は学校の教室。

朝のホームルーム前なので教室は騒がしい。

勿論この俺も教室の中では騒がしい人間の部類に入る。



賑やかなのが好きな点もあるし、何より友達と合法的に会える事や話ができる事が俺の学校へ行く理由ともいえる。


学校は人間のコミュニケーション能力を形成するための場所だと思う。


後は人間が集団で行動するにおいての協調性や団結力やその他もろもろを育てる場所。



「おっはよー閃君!」


頬杖を突きながらぼけーっとしている俺の背後から、いつもの二人組が現れた。


先本小羽と白崎咲桜。



先程の声の主は先本で、満面の笑みで朝の挨拶をしてくれた。

一方、その隣にいる白崎は軽く首で会釈するだけだった。



「今日朱佐君お休みだってね」



「え、そうなの?」


「うん。さっき先生が言ってたの。わたし今日日直だから、クラス日誌に欠席した人とか記入しなくちゃいけなくて」


大変そうだな、日直。俺はそう言い残して、「何か手伝う事あるか?」と提案してみる。



「えへへ。気持ちはありがとうだけど今日はもう助太刀の先客がいるのだ」


ぎゅっ、と隣の白崎に抱き付く先本。まんざら嫌そうでもなく顔を赤らめて照れる白崎。




あぁ、なるほど。



仲の良いカップルだ。

カップルというよりは、百合ップル?



朱佐が欠席か。


珍しいな。




夏場に風邪。その点は珍しくもない時々遭遇する日常だ。

昼休みに電話でもいれとくか。昨日電話取れなかった詫びもしたいし。



そう思って俺は朝から隣の机に突っ伏せている八雲を一目見て、同様に俺も朝から一時間目の授業を睡眠学習に切り替えたのだった。


















「お掛けになった電話は、電波が届かない場所にいるか、電源が入っておりません。お掛けになっt」



午後昼休み。


授業終了の鐘が鳴り終わると同時に朱佐に電話をした俺。


しかし携帯電話の受話器からは機械的な留守番電話サービスの声を迎えて俺は電源ボタンを押して通話を切る。


「朱佐、出なかった?」



心配そうな表情の八雲。話を聞けば、八雲も朱佐から電話が掛かってきていたようで、俺にも何か連絡が行っていないか。という理由で俺に電話をしたのだ。


「通じねえわ、電話」


パタン、と携帯電話を折り畳んでポケットにしまう俺。最新機種の折り畳み式の携帯電話は、側面にあるボタンを押すと自動で開いてくれるが、折り畳む時は手動というよく理解できない便利性があった。(それならどっちも手動か自動にしておけよ、というのが俺の本音)



「僕が電話を掛け直した時にも…留守番だった」


「ただの風邪だろ?それに昨日から充電切れててそのまま放置しちまってるだけだよ、あいつは」





いや、朱佐黄龍はそんなずぼらな性格ではない。

朱佐黄龍は慎重な男だ。


慎重で、冷静で、それでいて頭脳明晰。


一度俺達二人に電話を入れてきたのなら、俺達が必ず折り返し電話を入れるぐらい彼なら考えずともわかることだ。



何故彼の携帯電話に通じないのか。


彼の欠席の理由。



風邪で欠席。風邪であることさえ本当のことなのかわからなくなってきてしまった。



「風邪…ね」


いや、俺は聞いたじゃないか。




朱佐くんは風邪だ、って。



先本小羽から、その先本小羽は…


先生から聞いた。


「先生に、学校に欠席の連絡をしたって言うのなら」


「え?」



八雲はきょとんとした表情で俺が何を言っているのか理解できていなかった。


「朱佐はお前が心配するほどじゃねえよ」


八雲にそう言い聞かせて俺はカバンの中から弁当を取り出す。



「放課後は朱佐の家にでも行くか」


今日の弁当箱はかなり大きく、形は正方形で、紫色の風呂敷に包まれていた。





那巫女さんが作ったのだろうか。

箱を包む風呂敷を解いていくと、そこには二段の黒い箱に白い燕の絵が彫られた、言わばお重箱が現れた。



「なんだか今日はすごいね」


「まぁな」



那巫女さんが作ってくれたんだよ。と付け加えて、重箱の蓋を開けるとそこには重箱の外装には似合わない料理が数々とところ狭しに揃えられていた。



二段目の重箱には昨日御馳走になったイタリア料理の残り物と、一段目には色鮮やかな中華料理が顔を見せる。


エビチリや麻婆茄子やシュウマイ、春巻等がまるで一つの芸術品のような飾り付けで俺を圧倒させる。



豪華過ぎる昼食だ。




「閃君のお弁当すっごいね〜」



そこに先本小羽と白崎咲桜がやって来る。


二人共自分の弁当を持ちながら、おまけに利き手には箸を持っている。






お前ら行儀悪すぎ。




「知り合いが作ってくれたんだよ。よかったらいくつか食べてってもいいぞ」



いただきます。と箸を取り出して、俺は手始めに一段目の中華料理から攻略していくことにした。





当然俺一人の手では(この場合では胃袋だが)重箱弁当の攻略は不可能だったので、先本・白崎・八雲の三人に重箱の中身を半分以上食べてもらった。



ボリュームありすぎですよ那巫女さん。


いくら高校生が食べ盛り真っ盛りの年頃とは言えども、これは多すぎる。






食欲と満腹感が満たされたところで、俺は昼からの授業を二時間ぶっ通しで睡眠学習を行う形で、机に突っ伏せて寝たのだ。





昨日の那巫女さんの無駄話と、えいこさんの雑談が再び夢に出てきた。


人の態度や表情などお構い無しに自分の話を独特な口調で話す真姫那巫女さん。



かたや人の態度や表情を汲み取り、理解しようとしながら穏やかな口調で話す末永えいこさん。




対極的な二人だが、二人特別仲がよかった。

以前俺が二人に対して仲が良いんですね。と言ったところ、あったり前なのよん。ただの一言の仲が良いんですね、なぁ〜んて言葉一つじゃ語り尽くせないような表現出来ない仲なのさ。んな?えーこ?

那巫女さんはえいこさんの背中にもたれ掛かるように、えいこさんの肢体に自分の手足を絡める。

それは言葉の通り彼女は長い手足を、植物のツタが他の木々に絡むと同様に二の腕から指先までがツタの如くえいこさんに絡み付いている。




まぁ、長い付き合いだから。言葉通り仲が良いのではないのかな?それにしても那巫女。私と那巫女は大学院からの付き合いではないか?時間で計れば二年という付き合いになるが、そんな時間ごときに私は囚われない、と言うんだろうな。お前は。



那巫女さんの絡みに抵抗することなく言葉を続ける。



うんうん。なっかみの濃いぃ二年間を共に学舎で学び、共に苦境を乗り越えて英知を分かち合って友情を交わしあったわよね〜。

軽々しく語る那巫女さん。

なんであんたはえいこさんの耳元で囁くように言うんだ。










仲が良いのは良いことだ。



しかしこの二人は何かしら危ない、危険な大人の香りが漂うのは何故なんだろう。




そもそもなんで俺は昨日の出来事が夢に出てきているのだろう。





程よく熟睡して(座ったまま寝ていたので体の節々が少し痛い)俺はホームルームを寝惚けながら迎えた。




「やっと起きたんだね、閃。疲れが溜まってるのか僕は知らないけど、珍しいね、二時間も閃が授業を寝て過ごすなんて。っていうか、完全に熟睡の域だったよ。数学の葛西先生なんて「ほっとけ」だって。さ」



「んあ、数学も寝ちまったか。今もうホームルーム?」



八雲は首を縦に振る。



もう授業は終わって、ざわつく教室ではホームルームの真っ只中である。


「寝過ごしたな。こりゃ」



頭をぼりぼりと掻き、くあぁ、と欠伸をかいて教室の辺りを見回して、自分に注目が集まっていないことを確認する。





起立。



礼。さようなら。




ホームルームという学業の一日の締めくくりを一通りの作業と称して、俺は鞄を持って教室を後にする。



「行こっか、朱佐の家」


八雲が後についてきて、その後ろには先本小羽と白崎咲桜の姿がある。



「あっ!閃君見ーっけ!」


帰り時だというのにも関わらず、朝といい昼といい、依然としてテンションがハイな先本。


笑顔が太陽の様に眩しい。


サンシャインな感じだ。決して砂になれる悪行超人ではないが。


「これからどっか行くの?私は咲ちゃんとふらふらするんだけど、一緒にしない?閃君が一緒なら八雲君も一緒だよね!」


「ん。わりぃな。今日は朱佐ん家行くんだ。」


俺は申し訳なさそうに謝る仕草を見せるが、ふらふらってなんだ、ふらふらって。



脳裏に先本と白崎で途方もなく体をふらつかせているビジョンが頭を過ったが、実に滑稽である。


「朱佐君の家に行くの?私一回も行ったことないから、一緒に付いて行ってもいい?あぁ、でも朱佐君に連絡してないからだめかなぁ…。今日一度も朱佐君の顔見てないから、私心配だなあ」



一瞬、ほんの一瞬だが、先本の後ろにいる白崎咲桜の顔が、先本の「朱佐」というフレーズを聞いて、ほんの僅かに歪んだのを俺は見逃さなかった。



彼女は朱佐と同じ中学校出身で、クラスも同じだそうだ。


その当時、言うなれば若気の至り真っ盛りの朱佐黄龍を見た白崎咲桜はそれに幻滅し、それ以降彼を快く思っていない。

現在はかなり、何処かで頭をぶつけて正常に脳が機能しているような優等生に変わったらしい。(白崎談)






「まぁ俺達もアポ無しだから、行こうぜ。人数が増えても減っても、大差ないからな」





そう言った矢先に刺さって来た鋭い視線。眉間に皺を寄せた白崎がこちらを見つめる。

見つめると言っても、刺すような鋭い視線を見せたのは一瞬であって、その後はいつも通りの鉄面皮のような表情の無い顔でこちらを見ていた。





こうして俺達四人は下校途中で朱佐黄龍の家に行くことになった。




下駄箱で八雲が、ふと思い出した様に「あ、閃」と。



「ん?」一言だけ返事をして、靴を履くことに躍起になる俺。






「睡眠学習に興じた如月は夏休みの宿題を二倍にするって葛西先生が言ってたよ。」

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