黄龍クラーケン
話をしよう。あれは、つい一分前。
朝のホームルームの時間前に、朱佐黄龍はやって来た。
朱佐黄龍。策士兼イケメン担当。
ストレートで艶のある黒髪に整った顔立ち。
スラリと高い背丈。加えて頭脳明晰。
これだけの説明で事足りてしまう朱佐黄龍は、俺の親友である。
付き合いは中学生の時にまで遡るが、簡単に言えば彼は俺にとって恩人である。
そして同じ高校、私立盟凰高校に入学。
俺と同じクラスメイトとなった。
白崎咲桜と朱佐は同じ中学出身で、(ちなみに俺は八雲と同じ中学出身)彼女から朱佐の中学生時代の武勇伝を聞いたことがあり、常に成績は学年トップだった。
にも関わらず授業には全く参加しない。教室にいて席についたとしても、授業中は寝ているだけだった。
それが上級生の目に止まり、放課後朱佐は悪目立ちしている(いわゆる不良)上級生にボッコボコにされたらしい。
しかも学校のグラウンドの真ん中で。
しかし次の日、次は朱佐が上級生をボッコボコにしていた。
しかも全校集会の真っ只中で。
中学生時代は実にやんちゃだった朱佐黄龍。
今となってはそんなやんちゃも落ち着いてすっかり丸くなったようだ。
俺自身、この如月閃にも中学生時代はあり、その線では俺もやんちゃをしていたと言えば、していたのだろう。
誰しも自分の中学生時代は黒歴史である。
思春期反抗期真っ盛りであり、情緒不安定でもある。
難しい年頃なのだ。
色々と生意気を言ったり、俗に言う中二病というその手の人間には不治の病になってしまう心の病に陥ってしまう。
どうせ誰も自分の事なんてわかってはくれない。
きっと自分は何でもできる。
俺最強(笑)
多々人それぞれ中二病に発症して、いつの間にか大人になって行くのだろう。
そんな事も忘れて、社会の荒波に飲まれて、揉まれる。
縦社会の歯車の一部として機能し、同化してしまう。
そんな大人にはなりたくない!
と思うことも中二病なのだろうか。
隣にいる親友に話かけてみる。
「八雲よお」
八雲の肩をトントンと叩き、八雲は携帯電話から目を外してこちらを向いてくれた。
「八雲が見た限りでいいんだけど、俺って中学時代どうだった?」
「最悪最低中二病末期患者。症候群と言ってもいいね。知ってる?症候群って治る見込みのない病名のことを言うんだよ」
末期患者だったのか、如月閃は。
しかも治る見込みはないとのこと。不治の病なのも頷ける。
「じゃあ中二症候群って言えばいいじゃねえか」
「まず中二病は医学的な病名じゃないし、誰かそういって広まっただけだよ。その点じゃ中二症候群って言うより、中二シンドロームって言った方が年頃の子達には受けがいいかもね。」
「カッコイイからってわざわざ横文字に言い換えるな」
中二症候群も中二シンドロームも変に長いし言いにくい。
その点で中二病という名称になったのだろうか。
言いやすいしな。
「如月エターナル中二病シンドローム閃」
「長ったらしいミドルネームをつけるな。鳶町中二雲」
「おやおや中に雲を六つばかり忘れていますよ?」
両者含み笑い。
実につまらなくて、しかし二人だけの間で通じるコントである。
「よっ」
朱佐が話に加わった。元々俺達三人共座席が近いので、久しぶりに八雲と二人で昔と変わらぬ漫才紛いの漫談をした。
いつもは俺達男臭い野郎共三人の中に、
「おっはよーう!」
弾けるような笑顔と挨拶で、先本小羽がやって来た。
その隣には彼女の友達の白崎咲桜の姿もある。
「また閃君が面白い話してたの?」
「なんで俺限定なんだよ」
「いやぁ、てへへ。だって閃君面白いし」
如月閃=面白い。
実に失礼である。
先本小羽は俺と出身中学は一緒だが、同じクラスメイトになったことはない。
よってこの高校一年生のクラスで初めて顔を合わせることになった。
いや、実は彼女の方は俺の事を少なからず知っていたそうだ。
「まぁ歩くネタ人間である閃が面白くなかったら生きてる意味がないよね。もう生きてること事態がネタ、それかギャグみたいな。」辛辣な八雲の毒舌。これは俺だから通用するような話だぞ。
「はいはい生まれてきてすいませんでしたね。」
しかしそんなことには慣れっこなので、流す流す。
「そう言えば文化祭。あれって結局僕達のクラスの出し物は何するの?」
八雲が俺と白崎に質問する。
まだクラスメイトには、メイド喫茶について話してはいない。先本は別だが。(先本は料理も上手いし裁縫もできる奴なので、早めに協力を依頼したからなのだ)
「あぁ。メイド喫茶だぜ」
先本以外の全員が驚いた。
ちなみに白崎は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに顔を両手で隠した。
「ついでに言うと、八雲は女子に混ざってメイドコスプレで接客。朱佐はウケが良いから執事服で接客。女子生徒は大体がメイド。男子は紅茶作りや軽食作り。裏方って奴よ」
「何で僕がメイドなんだよ!拒否権を行使する!」
「んじゃ黙秘権を行使。お前の顔なら大丈夫だろ。上手く化粧したら化けるんじゃね?化粧だけに」
「上手くもないし化けないし面白くない!」
「なんで俺が執事なんだ…メイド喫茶の意味が…」
「いやぁ、そこは男女平等に。ほら、文化祭なんて楽しんで楽しませてナンボだから」
攻め寄る二人の男共を一蹴して優越感に浸る俺。
いつもの仕返し。と言う訳で、実に気分が良い。
「私も咲ちゃんのメイド姿を見るのが楽しみだなぁ。きっと可愛いし。頑張って良い衣装作るからね!咲ちゃん!」
うっとりとしながら、時に熱を込め情熱的に語りながら先本は白崎に詰め寄る。(とっても迷惑そうでありながら恥ずかしそうに赤面している白崎)
いつも通りの変わらない日常。
俺はそれが何より嬉しかった。
白崎も無事に学校に復帰しているし、先本との関係も前と同じように良好だ。
さて、朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り始めた。
とりあえず、この漫談は放課の時間まで持ち越しとしよう。