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咲桜マーメイド 後日談

俺は近くの小さな診療所に彼女達を預け、事の経緯を千代美子に電話で説明した。


彼女は自分の予想通り。「そうであろう」としか言わなかった。


それを予測して俺を同行させたらしい。


彼女を、白崎咲桜を守るというのは呪いから守るのではなく、外敵から、彼女を守るという意味合いだった。




それでも俺は守ることができなかった。


守るべきだったのか、そんな疑問が洞穴の中で浮かんでいたのだった。



家族のいざこざに他人が関わっていいのだろうか。


過度な姉妹喧嘩。では済まなかったので最終的には手を出した俺だが。

あれは行き過ぎだ。

家族が家族を殺すことなんて、あってはならない。



白崎才華は言っていた。







あんたがお父さんとお母さんを奪った。








今俺の隣のベッドには白崎咲桜が床に伏せている。

その隣のベッドでは妹の白崎才華が、同じ様に意識を失っている。



診療所なのに病室が一部屋あったのは意外だった。


医者や看護婦には適当に理由を作って医療を受けさせてもらい、俺は二人の容態を適当にでっち上げることに思慮を尽くした。



「結局呪い…解けたのかな」


思考を辿る度に思う事だった。


白崎咲桜の呪いの行方はどうなったのか。



外傷の治療を受け、絆創膏やガーゼが貼り付けてある咲桜の顔を見つめる。

すぐに意識は戻る。医者の言葉を思い出した時、彼女は目を覚ました。


「ここは…」


「近くの診療所。二人共倒れたから俺がここまで運んだ。んで、今お前が目を覚ました」


「…………」


外傷が痛むらしく、咲桜はやっとの事で起き上がる事ができた。




「妹さんはそっちで寝てるよ」


「………」

妹のベッドを見つめる咲桜。


儚げな瞳。




虚ろな表情。




「どうしてこうなったのか。説明できるか?」


頷きこちらを見る咲桜。

表情は変わらない。虚ろで精気が感じられない。


「昔、お父さんに乱暴をされた。私がお父さんの言うことを聞かないから、お父さんは私を自分の思い通りにいく様にしていた。最初は我慢していた。無理矢理させられて、嫌なこともされた。」


話すに連れて彼女の目には涙が落ちた。

過去の辛い経験など、進んで話したくないに決まっている。

「ある日私はお父さんに「やめて」と言った。それからお父さんは私に暴力を振るようになった。お母さんはそれを見て、私達姉妹を自分の母の元に預けた。多分、それがエスカレートしてしまえば才華の身も危なかったと思う」





震える声で彼女は、





「そして両親は離婚した」




身勝手な父親の、父親の暴力。



事の発端はそれ。


原因は、幼くして離れた両親への飢えた愛情。


しかし白崎才華は知っていた。


自分の姉が父親から受けた事を。


それを知っていて尚、彼女は両親を求めて。



行き着いた先は、









姉を殺す事だった。






「話してくれて、ありがとう」


俯く咲桜はもう喋ってはくれなかった。




それから2日間診療所で療養し、咲桜の怪我や傷は完治した。



俺もそれに付き合い、今回の件を逐一千代美子に報告した。


千代美子によると、多少呪いの効果は残るが命にも身体にも悪影響は無いらしい。

石が壊れたことによって、その石=人魚の魂の破片を壊した人物が、




次に呪われてしまう。




つまり次の犠牲者は、白崎才華となった。

石を壊してしまったため、もう半永久的に呪いは解けないと千代美子は言っていた。



白崎咲桜よりも酷い、呪いになる。


それについては姉の咲桜も「仕方のないこと」と認識している。



一つ疑問が浮かぶのは、何故才華が石を砕いたのか。

確かに千代美子は石を御堂に返せば咲桜の呪いは解けると言った。


伝承通り。才華は言っていた。



その伝承とは何だったのだろう。

才華は咲桜を殺そうとした。



呪い殺す形で。彼女は石を砕けば姉が死ぬと思い込んでいた。




しかしそれは思い通りには行かず、自分に跳ね返ってきた。




石を砕く。


魂を砕く行為は、生命を奪う行為。


千代美子はそう言っていた。


故に、その魂を自分の物にする。

その魂の「感情」「心情」「力」を取り込んでしまう。




彼女は自らの手で石を砕いた。



自らの手に触れて、石を壊した。




その行為によって白崎才華は人魚に取り込まれてしまう。

白崎咲桜の呪いが怪我と例えるならば、白崎才華は病にかかってしまった。


人魚に呪われる程度ではなく。



どっぷりと、人魚に飲み込まれた。



しかし、退院間際で奇っ怪な出来事が起きた。







白崎才華が目を覚ました。



俺が彼女を見た時、彼女は表情を失っていた。




目と、鼻と、口と、全てが機能していないような、死んだような素顔をしていた。



「才………華?」



咲桜は窓辺を見ている妹に呼び掛け、才華はこちらに首を傾ける。


死んだような人間。

瞳はくすんだ黒色で、唇には色が無い。



微かに唇が動きを見せ、「あなたは、誰?」そう質問をした。



記憶が無くなっている。


それが呪いなのだろうか。


それでも咲桜は笑って見せて、「私は白崎咲桜。あなたの、お姉さんです」と、自己紹介をした。




お姉さん。


才華は表情を変える事無く「お姉さん」とオウム返しに呟く。



「わたしは、だあれ?」




彼女は自分自身を失っていた。


自分が誰なのか。


何をしているのか。



自分に関する記憶を全て失っていた。



ここから先は咲桜から聞いた話だが、洞穴の件から一週間経った現在、白崎才華は地元の市民病院で入院をしている。


精密検査の結果、やはり自分自身の記憶を失っているようだ。

それに知能も少しばかり落ちているとか。




俺は咲桜と一緒に才華のいる病室へ見舞いにやって来た。





診療所で見たときと同じ、感情の無い表情。




「才華、今日は友達を連れて来たぞ」


花瓶の花を変える咲桜。

「あなたはだあれ?」



首を傾げる才華。

どうやら診療所で会った事は忘れられているようだ。


「如月閃。よろしくな、才華ちゃん」

「きさらぎ…せん…」



診療所の時と同じようにオウム返しに何度も呟く才華。


それから咲桜はリンゴを剥いて、三人で食べて、あまり会話をする事も無く病室を後にした。


「また来るよ、才華」


帰り間際に彼女は才華に手を振る。

「うん、バイバイおねえちゃん」


微かだが。ほんの一瞬だったが、彼女は笑った。



白崎才華は微かに微笑んで、弱々しく手を振った。





「日常生活を出来るほど回復はしていないが、時々…笑うようになった」


帰り道で、咲桜が口を開いた。

「呪い…ね」


人魚の呪い。ではなく、人魚の意思が才華を呪った。




才華は人魚の意思である石を砕き、人魚の意思に自分を奪われてしまった。



「色々…迷惑をかけた。すまない」


立ち止まって、咲桜は俺に頭を下げる。

いつも一本のポニーテールに纏めている髪が揺れ、深々と頭を下げているので地にポニーテールがつきそうだった。

「俺は何もしてないよ。付き添っただけ」



そう。見ていただけ。



呪い呪われた哀れな姉妹を、ただ見ていただけ。



オーディエンスである。



そうでやんす。俺は何もすることはなかった。



これは俺が手を出しても、意見をしても無駄。


何をして、何を選ぶのか、決めるのは白崎咲桜なのだ。





白崎咲桜の事情。



白崎咲桜の問題。




「あ、そうそう。文化祭の出し物。俺達のはメイド喫茶にしたから♪」




「はあぁぁぁ!?」


「ちなみに白崎の仕事はメイド兼メイド長だから。女子群達の指揮よろしくな♪先本喜んでたぜ?」



「勝手に決めるな!!!!」


怒号の白崎咲桜を相手に、俺はいつもと変わらぬひょうひょうとした態度で彼女と帰路に付いた。




俺が才華から奪取した偽の人魚の石は、小さなペンダントで、そのペンダントの中には白崎家四人が、幼い咲桜と才華が笑顔で写っていた写真が入っていた。




このペンダントを咲桜に、もしくは病室にいる才華に見せたらどうなるだろうか。





しかし俺はそんな野暮なことはしない。





如月閃は傍観者である。

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