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咲桜マーメイド 中編

翌日、白崎咲桜は予定の待ち合わせ場所にやって来た。


夏も近付く暑い日の駅前に――――彼女は来た。


今日は休日なのに、なぜか学校の制服で。

俺自身彼女の私服を見たかった訳ではないのだが、授業がない休日に制服というのは。何かあるのだろうかと不信感を抱かせる。



そうそう。いきさつを説明すると、これから俺達二人は滋賀県へ旅立つ。休日2日をフルに使って、白崎咲桜を救う。







実のところ、彼女が呪われるのではなく本来は彼女の妹が呪われていたらしい。

偶然。




「お姉ちゃん。アレ取って!」



偶然に、ただ妹のためだけに御堂の人魚の石に触れてしまったから。


妹の願いを引き受けた結果。


手に持っただけで。触れただけで。彼女は人魚に呪われた。


「そういえば。一泊泊まりになるらしいんだけど。宿泊施設ってどこに泊まるか知ってるか?」


改札口を過ぎ、スラスラと新幹線へ乗って指定の席についた後の俺の発言。


前日の夜に詳しく話を聞こうと竹宮亭へ電話した時、「全て白崎に話してある。二度説明するのは御免じゃ。」の言葉で通話を切られたため、俺は先程白崎咲桜から貰ったこの新幹線の切符以外、この旅の詳細を詳しく知らない。



滋賀県の海の御堂へ行って、彼女を人間に戻してもらうとしか―――大まかにしかわからなかった。「なぁ。」


「なにか?」



………なぜか空気が重い。




隣の席に座っているのに、目に見えない壁で包囲されているような、圧迫感のあるこの空気はなんだろうか。


俺って、ただの後見人だけなのか?


親の買い物に付いていく子供のような。(その癖自分のお目当てのものは何も買ってもらえずにただただ見てるだけの)


ただ隣にいる彼女、白崎咲桜を鍾乳洞の御堂まで連れて行くだけの存在だったのだろうか。


「竹宮さんから何か聞いてるか?」


とりあえず話題を作ってみる。


「守ってもらえ。と聞いた」



表情を崩さず、淡々と、静かに言葉を並べる白崎。

守るって、ちょっと待て。




まさか俺って誰かと、いや「なにか」と闘わなきゃいけない運命だったりするのか?


「俺がその場でお前を置いて逃げたらどうするんだよ」


まぁ少なくとも、そんなことをする予定はないんだが。


「お前は私のことが好きだからそんなことはしない。と竹宮さんは言っていた」

え。なにそれ怖い。

いや別に嫌いではないよ?クラスメイトだし。


縁あって助ける。と言ったらいいのだろうか。



うん。俺は白崎がいい奴って知ってる。





でもこれって間接的な告白じゃないか。


困る困る。

「先本が心配してたぜ。」


急遽話題変更。自分から振ったくせに。

先本というのは、俺と白崎咲桜

と同じクラスの同級生の先本小羽。

主観だが白崎とは彼女が一番仲が良かったはず。

先本の名を出した瞬間、俯いたまま喋らない白崎。



ずっと前から思っていたが。




白崎咲桜。なにかおかしいぞ。



「入学式の時と印象変わったよ。お前」


依然として俯いたままの白崎。そのまま喋り続ける俺。入学式の時、俺は初めて彼女と出会った。

その当時と今では、別人のように人が違う。


「人間」なのか、はたまた「妖怪」なのか。




「まぁあんな体験しちまえば人間一つや二つは変わっちまうとは思うけど…。なんか引っ掛かるんだよな。」


俺も変わったと言えば、変わってしまったのだろう。


精神的にも。肉体的にも。



入学式の時に初めて出会った彼女と、ここ最近の今の彼女。





俺個人の直感だが、なにかが違う。

「人魚の件の他に、なにがあった?」



暫くの間沈黙が続いた。

乗客の声や新幹線の走る音。


「治し方を…調べた」




治し方。人魚という。体の下半身が魚のヒレになるという。




それを治す方法。と彼女は答えた。


「調べるって言ったって、どこでさ」




「……ネットで」


は?


一度俺は呆気にとられた。


あまりのあっさりした回答に。


ネットって、パソコンの?

こういう話ってネットとかでもあるの?

俺は携帯電話しか使わないのでパソコン関係には疎い。そもそも自宅にパソコンがない。パソコンやネット関係には疎い俺には専門外なので、ここは関係なさそうだ。



「疎い」


その単語で感じた。昨日との違い。昨日と今日の彼女。



今は儚げな表情で、悪く言えば生気のない顔で車窓に映る景色の方を見ている。

眠たそうな目。血の気の無さそうな唇。どこを見ているのかわからない視線。細くて綺麗で長い黒髪。俺自身も黒髪だが、彼女の方が色も艶も良かった。よく手入れされているのだろう。(俺はごわごわした真っ黒な墨汁をかけたような黒髪)




日に日に彼女は表情が、感情が薄れていっている。



そんな気がした今日この頃。



これは俺個人の記憶を辿って行った先に行き着いた結論である。

しかしこんなことを一人で考えても無駄だ。

彼女が人間に戻りさえすればそれでいい。

ふと窓越しからの景色を見ると、田舎町を越えた先に海が見える。海なんてここ最近見てないな。



俺は海が好きではない。どっちかっていったら川の方が好き。


潮風とかしょっぱいのが苦手な如月閃です。

あとクラゲも苦手。川とかにいる蚊やハエなんかは虫除けスプレーでなんとかなるためさほど問題ではないがクラゲは別物。




「海…」



ぼそぼそ、と。隣で呟く声。白崎咲桜が自主的に何かを呟いている。


「海がどうかしたか?」


「……綺麗」



日差しに当たって海面が光っているように見える景色を、俺達二人は眺めた。

「海。」





衝撃的な光景を目の当たりにした。

彼女が、白崎咲桜が、笑顔を向けた。しかも俺の方に向けて。


…………………………。




幼い子供のような。ひょっとしたら俺の妹の彩の笑顔よりも幼い。屈託のない純真な笑顔。

長い睫毛や閉じた瞼。笑った口元と表情が、全て一つの物になったようだった。(まぁ相変わらず唇の血の気はなさそうなんだけれども)





正直可愛いです。

泣き顔や鉄面皮のような無表情な顔しか見たことがなかったため、この笑顔はとても貴重だった。







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