大丈夫じゃない
私が天を仰いで、数時間後。
ーー気づけば結婚式が行われようとしていた。
「って、いやいやいや」
さすがに、展開が早すぎない?
私がこの国……アムリファに来てからまだ数時間しか経っていない。
私の結婚相手が平民ならばまだしも、相手はなんとびっくり皇帝陛下である。
そんな尊い身分の方の結婚式がこんな簡単に行われていいのか。
ほらもっとこう……準備とか、来賓の招待とか。
アキに尋ねると結婚式の準備は、かなり前から進んでいたようで、知らぬは私ばかりだった、らしい。
「へぇー」
花嫁に知らせず強行で式を準備するとかある!?
これは本格的に、役割が済んだら断頭台直行コースじゃないの!
本来なら一番感情が盛り上がるはずの、ウェディングドレスを着させられる。
当然のことながら、相手の顔も知らぬ結婚に何の感慨も……って、死にたくないわ!
やばい、これは早く逃げねば。
あ、でも私が逃亡したら父も弟も処刑かしら。
父……愛情を注いでくれたことは感謝しているとしても、こんな仕打ちをしてくれたのは、怒りしかわかないが。
なんの非もない弟も巻き込むのは気が引ける。
では、逃亡はなしか。
どうする? 腹を括るか。仕方ない。
哀れな羊として、生贄になってみせるわ。
「完成いたしました」
アキが嬉しそうに鏡越しに微笑んだ。
「ふふ、大変お綺麗です」
アキの手によって、美しく着飾られた私は客観的にみて美しく見えると思う。
母譲りの藍色の髪は結い上げられ、父譲りの紫色の瞳に合わせた耳元の宝石は、揺れていた。
「……ありがとう」
でも!
でも!でも!!
どうせなら、幸せな顔でこのウェディングドレスを着たかったわ。
……なんて。
そもそも縁談が散々破談になったことを考えると、縁談が成立しそうなだけで奇跡だ。
ええ、そう。
前向きに捉えるのよ。
たとえ、死ぬかも知れなくとも、夢だったウェディングドレスを着られた。
それで十分じゃない。
本当なら納得したくない。
運命に抗いたい。
……でも。
私に運命を変えられるとは思えない。
だって、私に力があったなら、あんなことには。
「ミレシア様?」
様々な考えを巡らせ、黙り込んだ私に、アキが不思議そうな顔をした。
「……いえ、なんでもないわ。ところで私式の流れを全くと言っていいほど知らないのだけれど」
そのことを理由に、式が延期になったり、中止になったりしないかしらー。
なんていうのは希望的観測としても、せめて、心の準備が欲しい!
「大丈夫です、ミレシア様」
アキは安心させるように胸をたたいた。
「式の流れはとっても簡単なので」
ぜんぜん大丈夫じゃないーー!!!!
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