賭け
父から縁談の話をされたと思ったら、いきなり馬車に押し込められて。
気づけば、隣国アムリファに転移して。
そして、結婚相手は、冷酷と噂の皇帝だと言われて。
てっきり、真実の愛のためのお飾り妃になるかと思いきや、皇帝……ルクシナード様に愛してると告げられて。
うん、この短期間に色々と起こりすぎね。
……と、ちょうど着替えが終わった。
「どうでしょうか?」
アキがどこからともなく姿見を持ってきて、見せてくれる。
「素敵に仕上げてくれてありがとう」
結い上げられた髪も、銀色の刺繍が施された青のドレスも自画自賛ではなく、似合っている……と思う。
「いいえ、それでは失礼いたします」
アキは微笑むと、音も立てずにいなくなった。
一体どのような訓練を受けているのかしら。
アムリファの侍女教育事情が気になりつつ、ルクシナード様が帰ってくるのを待つ。
すぐに、控えめなノックが聞こえた。
「はい」
返事をすると、ルクシナード様が扉を開けて入ってくる。
「!!!」
ルクシナード様は、目を見開きのけぞった。
「……あの、どうされましたか?」
「いえ、ミレシアがあまりにも綺麗で。想定を超えすぎて、驚いてしまいました」
……甘い。甘すぎる。
でも、それが嘘だと思わないのは、その瞳がどこまでも真摯だからだ。
「それは、……その、ありがとうございます」
せっかく褒めてくれたのに、気恥ずかしくて小さな声になってしまう。
けれど、それを咎めることなくルクシナード様は微笑んだ。
「今から全世界に自慢したいくらいです! お披露目をかねた夜会は、数日後ですが……」
前半はともかくとして。
そうか、夜会があるのね。
皇帝妃として、気合を入れなければ。
でも、私に皇帝妃なんて務まるのかしら。
「ミレシア」
「……? はい」
ルクシナード様は近寄ると、私を抱き上げくるりと回った。
「!?!?!?」
「……ふふ。名前を呼んだら、応えてくれる距離にあなたがいる」
噛み締めるように言われた言葉は、どこまでも嬉しさが滲んでいた。
……きゅっと胸が切なくなる。
一瞬、その衝動のままルクシナード様の袖に手を伸ばしかけ、やめる。
その想いに応えられるほど、私はルクシナード様のことを知らない。
だから、私から触れるべきではないだろう。
「ところで、ミレシア。これから、城内を案内しようと思うのですが……」
ルクシナード様は私を下ろすと微笑んだ。
「ただ案内されるのでは、退屈でしょうし。一つ、賭けをしませんか」
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