俺の幸せ
朝食はとっても美味しく、腹の虫が満たされた。
「とても美味しかったです」
「それはよかった」
ルクシナード様は微笑むと、私の頬を撫でた。
「ルクシナード様?」
「いえ、愛らしいなと思いまして」
……ルクシナード様は最初から私に対する好意を隠そうとしない。そして、私が全く身に覚えがなくても、それでもいいと言っていた。
でも、本当にそれでいいのだろうか。
「ミレシア、難しい顔をしていますね」
「それは……」
素直に、あなたのことが思い出せないからです! というのは、傷つくだろうし。
なんと言ったものか。
「大丈夫ですよ」
大丈夫ーー。まるで、おまじないをかけるように、ルクシナード様は繰り返した。
「あなたが生きていて、俺のそばにいてくれる。それが、俺の幸せです」
その言葉に嘘偽りがないことは、容易に信じられた。だって、これ以上ないほど、幸せそうな表情だったから。
「……ルクシナード様」
「あなたが後ろめたさを感じる必要はありません。思い出して欲しいなら、俺から話せばいいだけですし」
ルクシナード様は、初夜で、私がルクシナード様との過去を忘れていた時、それでいいと言っていた。
「それに、俺は……今の俺の方が好きです。あなたを幸せにできる力があるから」
思い出すよりも、今のルクシナード様と向き合う方がいいのかしら。
「……ありがとうございます」
そこまで想ってもらえるのは、誰かに幸運なことだ。
「いいえ。願わくば、あなたにもいつかは俺を愛してほしいものですが……それは俺の努力次第ですね」
およそ冷酷皇帝という二つ名には相応しくない笑みで、ルクシナード様は、続けた。
「愛しています、ミレシア。俺のことを忘れていても、どうかそれだけは覚えていて」
「……はい」
しっかりと頷く。
私に今できることは、それだけだ。
「ありがとうございます。……それでは、ミレシア」
なんだろう?
「お互い、朝の支度を整えましょうか」
「ーー!!! ……はい」
私たちは、特に何もしていないけれど、昨夜は初夜だ。
つまり、何が言いたいかと言うと、私はそれなりに男性を誘うような格好をしていた。
ガウンを羽織っているとはいえ、そのような格好で今までいたことを思い出し、恥ずかしくて、死んでしまいそう。
「それでは、またあとで」
気を遣ってくれたルクシナード様により、一人寝室に残される。
「ミレシア様」
「!?」
突然名前を呼ばれ、驚いて振り向くと、アキが立っていた。
気配を消すのが、上手すぎる!
「お召し替えをお手伝いいたします」
「……お願いします」
……それにしても。
着替えさせられながら、私は、これまでの怒涛の日々を思い返していた。
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