病院は少し苦手です。
炊き出し担当の奥さまたちに案内されたとおり、食事を終えた私は救護テントに向かっていた。
実は元の私は大の病院嫌いであった。本当に病院に行かざるを得ない状態にならない限りは市販薬で乗り切るタイプである。しかし今の私は足は傷やしもやけだらけだし、爪も栄養が足りていないのか薄くなっているし、ともかく人から哀れまれるような姿となっていた。奥さまたちからも勧められたことだし、いくら嫌いでも今もまた行かざるを得ない状態だな、なんて思う。
「こんにちは」
入口からこっそり覗き込むように中のスタッフに声をかける。すぐに看護師が気づいて笑顔で迎えてくれた。
傷なども全て適切に処置してもらい、靴まで履かせてもらった私が勧められたのは施設へ入ることで。
「本当は入院してもいいくらいの栄養状態なんだけど、ちょっと今は空きがなくて。まずは安心できる環境でゆっくり過ごしなさい」
なんともトントン拍子に話が進む。なるほど、これが異世界転生のシステムなのだな、と素直に感心した。深く考える時間もなく、主人公たる人物は状況が変わっていく。
ちゃんと1日の終わりに傷を綺麗にしてから薬を塗ってガーゼを変えるんだよと、医者は治療に必要なものと施設への紹介状を用意するように看護師に伝え、彼女は迅速に準備して「お大事に」と私に手渡してくれた。深く一礼して救護テントをあとにする。
「えっと次はラディのいる物品支給ブースか…」
公園の入口付近にラディはいたからおそらくブースもその近くにあるのだろうと踏んで、私は来た道を戻っていった。やはり入口付近に物品支給のブースはあり、ラディが嬉しそうに私を迎えてくれた。
「マリを待っていたわ!その靴は救護テントでもらったのかしら?あなたの翡翠色の髪によく似合う白の靴ね。素敵よ」
もこもこした白いロングブーツは私本人もとても気に入っていた。可愛い上に軽く、おまけに丈夫そうである。
「施設を紹介してもらいました。入所できるみたいです」
「それはよかったわ!着替えは向こうに用意されてるから安心してね。ここでは今着る服を選びましょ」
男性には悪いけれど若い女の子の服を一緒に選ぶのって楽しいのよね〜とご機嫌なラディはたくさんの服から私の好きなものを選ばせてくれた。まるで着せ替え人形のように試着させられ続けたけれど、その御蔭でボロボロだった私はそれなりに人間らしい格好となった。
施設に入所を勧められた者は奥にあるバスに向かうことになっている。
(やっぱり宙に浮いてる…)
大通りを歩いていたときに何度となくこの世界は車が浮いて移動するところを見たにも関わらず、未だに慣れないようで不思議な気分になる。ちゃんと走れるのか、運転はどうなっているのか等。それも深く突っ込まない方が上手くいきそうな世界なので、知らないことでも慣れるしかないのだろう。