あまりにも残酷な病
その子供の母親は手術室の前で両手で顔を覆いながら結果を待っていた。
もうあらゆる手は尽くした。
もしこれでもダメなら……。
そんな風にして浮かんだ考えを母親は首を振ってどうにか打ち払う。
物事は都合の良い方向へと考えた方がいい。
そうしなければ、生きているのが辛くなってしまうから。
不意に手術室の扉が開き、血塗れになった衣を着た男が出て来た。
「どうなりました!?」
反射的にそう問いながら母親がその男に近づくと男は項垂れて答える。
「すまない。できなかった」
その言葉を聞いた母親は少しの間呆然とし、心を取り戻すと同時に力一杯男の頬を叩いた。
「何よ! この役立たず! 人殺し!!」
男は叩かれた頬を軽く苦々しい調子で言った。
「悪かったな。力になれなくて」
母親はさらに頬を打つ。
「この人殺し!! 役立たず!!!」
「好きなだけ言えよ。俺だってプライドはズタズタだ」
そんなやり取りをしていると手術室の中から血塗れの子供がおずおずと歩いてきた。
「お母さん」
母親はびくりと震えて我が子を見た。
「どうしてそんなに怒っているの?」
その言葉に母親は息を飲んだ。
我が子は全裸で血塗れだったが、それでも元気だった。
「気にするな」
人殺しがぽつりと言った。
「お母さんは今、疲れているだけなんだから」
その言葉を聞いて子供は母親に駆け寄ってきてしがみつくように彼女に抱き着いた。
「お母さん、大丈夫? 私はちゃんと居るよ。安心して」
我が子の声を聞いて、今ようやく母親は気を取り戻したようだ。
「うん。大丈夫。ごめんなさいね」
そう言って母が子を抱擁する姿を見つめながら人殺しは無力感を覚えていた。
彼には信じられなかった。
自分に殺すことが出来ない人間が居るなどと。
「ちくしょう」
認めることなど出来なかった。
「何が死ななくなる病気……不死の病だ」
しかし、自分が死力を尽くしてもあの子供を殺すことは出来なかった。
「ちくしょう」
人殺しはそう呟いて母親から逃げるようにその場を離れた。
彼女が何を思って自分に『殺人』を依頼してきたかを考えないように必死になりながら。