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9 愛しい婚約者

アレクオールディア side1


 俺には可愛い婚約者がいる。エリザベート・ラース。女神の寵愛を受けた赤い髪に美しい金色の瞳をもつ、とてもとても可愛い婚約者だ。

 小さい頃は俺の後をよく付いてきていたし、本を読んで欲しいとお願いされることもあった。その恥ずかしそうに頼んでくる顔もとても可愛いのだ。


 しかし、弟のオルフェディアにエリザベートを見る目が気持ち悪いと言われてしまった。エリザには嫌われたくないな。


 10歳になると一国を治めるための勉強が本格的に始まってしまったので、あまりエリザと会う時間がなくなってしまった。

少しだけ時間が出来たの時にエリザに会うために部屋を訪れれば、エリザも勉強をしているところだった。


 エリザを見ると顔がにやけてしまう、ダメだダメだ。勉強内容を見てみると俺が3歳にやっていた内容だったので聞いてみた。


「エリザ。まだ、こんな文字の練習をしているのか?」


「ここは、昨日から始めたばかりなの。先生もゆっくり書けばいいって言ってくれたわ」


 と、答えが返ってきた。


「ふーん。ゆっくりね」


 やっぱり、大公になる俺とは勉強内容が違うらしい。まあ、エリザのペースでしていけばいいと思う。もう、こんなに時間がたってしまった。早く戻らないと魔術の先生を待たしてしまう。急いで部屋に戻るが、休憩の時間がもう少し欲しい。


 あるとき書庫で先生に出された課題を調べる為に向かえば、そこには書庫にある机に本を広げているエリザがいた。


「アレク。わからないところがあって、教えて欲しいの」


 上目遣いで聞いてくるエリザは可愛いな。あ、顔がにやけてしまう。

 内容を見てみると、女神と先祖である初代の物語だった。子供の頃から何度も何度も聞かされ、諳んじて言えるほど聞かされた物語だった。


「こんなことも読めないのか」


 いや、俺とエリザの教えられていることは違うのだったな。エリザに物語を読んでやると、エリザはその本を抱えて書庫を出ていった。

 エリザの後ろ姿を見ながら思う。あの物語は嫌いだ。女神のエゴを押し付けられた男が哀れで仕方がない。こんな魔眼など必要などなかったはずだ。なのに女神は己の神力を男の眼に植え付けた。

 身に余る力は敵に対して脅威となるが、身内に対しても脅威となるものだった。だから、俺たち魔眼を持つ者達は女神のディアの名を名乗ることで管理されている。何処にいるか、生きているのか死んでるのか管理されているのだ。



 俺が15歳になった頃には大公である父に付いて国中を回ることが多くなった。この世界には魔物という人を襲い村や町を襲う存在がいるのだ。その被害は減ることはなく増える一方なので、何処かの村が襲われたとなれば転移で向かい、討伐し被害を調べる。その繰り返しだった。

 大公になる者は16歳になるとドルロール遺跡の試練を受けなければならないため、父の指導は厳しく辛いものだった。怪我をすることも頻繁になり、その度に指導の激しさは増した。


 そんな時、エリザが俺のところに来て6つの属性に適正があったと言ってきた。


「何だ、まだ属性を調べただけか」


 俺は8歳の時に属性調査を終えていたのだが、ヤバいな3日前に魔物にやたれた傷が開いてきた。こんな姿を見せるわけにはいかないと、エリザから離れ去る。

 6属性か。流石、女神から寵愛を受けたことだけはあるな。エリザとこの国を支えていくには、俺はもっと頑張らないといけないのだろうな。



 その一週間後だった。エリザが倒れたと聞いたのは。出先の町でその事を側近から報告され、慌てて戻ってくれば、魔術の練習のし過ぎで倒れたらしい。エリザも頑張っているみたいだが、頑張り過ぎたようだ。


 エリザの様子を見に部屋を訪ねると目が覚めていたようだった。調子はどうかと尋ねると全く違う答えが返ってくる。


「あの島に行ってみたいの」


 ん?寝ぼけているのか?それとも熱で朦朧としているのか?


「飛んでいる島か?普通は行けないだろ?」


「お祖母様がね。行ってみたのですって、とても、不思議な島だったとおっしゃっていたわ」


「お祖母様が?」


 そんな話は聞いたことがないな。


「光る花があるのですって、木の実から生まれる鳥もいるのですって、行ってみたいなぁ」


「そうか、元気になったら連れて行ってやるよ」


 8歳の時に魔術も魔導術も両方を一斉に教えられたから、エリザもすぐに浮遊の術が出来るようになるだろう。


「本当に?」


「ああ」


「約束ね」


「ああ」


 可愛いエリザのお願いごとは叶えてあげるよ。


 そして、半年後エリザが俺のところにやってきて魔術の先生に褒められたと言ってきた。エリザも俺と同じく半年で魔術と魔導術を使える様になったのかと思えば、基本の4属性が使えるようになったとの報告だった。


「なんだ、やっと4属性を覚えただけなのか、いつになったら浮遊が出来るのだろうな」


 まぁ。それがエリザのペースなんだろう。エリザとの約束は叶えてあげるけど、できたら早めに覚えてほしいな。


 16歳を過ぎれば本格的に大公の仕事の一部を任せられ、今よりも自由になる時間が減ってしまう。父に頼んだら空の島に行く時間は作れるだろうか。



 20歳になり、大公の仕事の半分を受け持つまでになった。だが、未だにエリザとの約束を叶えられないでいる。

 それはエリザが媒介なしで浮遊の術を使えこなせないでいるからだ。


 聞いたところによると、空の島にいる住人はアーク族という白き大きな翼を持ち、自由に空の島々を行き来出来る種族らしい。自分達を白い神の眷族だと言っているらしく、地上にいる者たちを地面を這いずるしかない下等な生き物だと思われている。

 傲慢なアーク族の前で媒介を使って空の島に向かえば、エリザが貶されるのは目に見えている。だから、エリザに頑張るように言葉を掛ける。


「いつまで、自立して飛べないんだ?そんな、鞄に縋り付かないと飛べないなんて、いい笑いものだ。そんなふうに魔力を使えこなせないから、いつまで経っても魔術が下手なんだ」




 そんな時、父から呼び出され、聖女とカウサ神教国の王太子の挙式に出席するため、エリザを連れて向かうと言われた。

白の神の聖女を向こうが連れてきたので、ラース公国としてはエリザを連れて行きたいのはわかるが、本当にそれは必要なことなのだろうか。しかし、大公である父が決めたことに反対することはできない。

 俺に出来ることは、離れていてもエリザを守れるようにするだけだった。


 出発当日、本当は敵国であるカウサ神教国になど行って欲しくないが、仕方がなく送り出す。なるべく父の側に居てほしい。そうすれば、女神の寵愛を受けたエリザを父は必ず守ってくれるからだ。魔術も魔導術も不安定なエリザは無理をしないように念を押す。


「エリザは本当に何もできないから、父上の側で立っているだけでいい。わかったな。それと、これはお守りだ」


 そう言って、エリザの為に作った守りまじないを掛けた赤いペンダントを渡す。これは、父が側に居られなかったときのための保険だ。

 父とエリザ、そして数人の付き人を乗せた馬車が走り出した。無事に帰って来てほしい。ただそれだけが、俺の願いだった。



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