7 聖女の狂乱
カウサ神教国の神都アリシャはとても遠いの。ラース公国は大陸の東の端にあり、カウサ神教国に囲まれてはいるものの神都アリシャは大陸の西側にあるの。途中山脈を越えなけらばならなくなるので、大陸の東の端まで行き山脈を避けるように大回りして、神都アリシャに向かわなければならなかったの。
本当は転移で行ければ一番いいのだけど、転移は一度行ったところを記憶しないと、転移できないから、便利なようで便利じゃないのよね。
馬車に揺られながら、約1ヶ月。本当にギリギリで神都アリシャにたどり着いたわ。
もう、明日には挙式が挙げられるという日に到着し、式を挙げる教会に付随された建物に泊まる様に指示をされ、金色に染まった部屋に通されたの。自分たちの威厳を見せつけるのはいいけど、目が痛すぎるわね。
伯父様と少し言葉を交わし、明日の予定を確認して休む事になったのだけど、その時伯父様に言われたの。
『何か起こり、私に何かがあった場合は直ぐに転移で戻るように』と。そして、『アレクが渡した守りまじないのペンダントは付けておくように』と。
伯父様に何かがあるなんて、ありえないわ。女神の魔眼を持っている伯父様が白の神を崇めている奴らに負けるはずないもの。
そして、アレクから渡された赤いペンダントはアレクが守護の魔術を掛けたペンダントなの。一度だけ、私の身代わりになってくれたり、力を与えてくれたりするお守りなの。
式の当日私達は来客として、祭壇前の王族と反対側の席を用意された。なにやら、問題があったらしく予定の時間を過ぎて始まった挙式は異様な雰囲気になっていた。
身廊を歩いて来る白いドレスを纏った聖女はお付きの人に手を引かれながら歩いているのだけど、新緑を思わせる緑色の瞳は何も映していないかのように焦点が合っていない目をして、横を通り過ぎていったの。そして、祭壇前に着いたと思ったら、いきなり叫びだした。
「ロビンに会わせて!」
ロビン?誰のことなのでしょう?聖女のその言葉に答えてか、騎士の格好をした男性が銀の大皿を持ってやってきたのだけど、その上には人の首が乗せられていた。
それを見た周りの人たちはざわめきだし、聖女は慟哭の叫びを上げていた。騎士の男が聖女に向かって言葉を投げかける。
「手足は腐ってしまって持ってこれなかったから、首だけ持ってきたぞ」
その言葉を聞いた聖女は地を這うような声を周りの人たちに向かって放つ。
「オマエタチは絶対にユルサナイ。このラフテリアとロビンを切り離したモノを。ワタシとツガイを壊したモノを」
番ですって!あの首だけになった人物と聖女が番……。これはどういうことなのでしょう。王太子と王太子妃も番、彼と聖女も番、最悪です。
聖女が黒いモノに包まれていきます。どうしたのでしょう?
黒いモノが晴れるとそこにいたのは、春の日差しのような色の髪が黒く染まり、新緑の瞳が眼球ごと黒く濁った聖女が立っていました。
聖女は叫び声共に銀の皿を持っていた騎士の方に飛びかかり、大柄の騎士を両手で胴体をねじり切りました。そして、大事そうに皿の上に乗っていた首を抱きかかえています。
聖女は首をグルンと回し、逃げ出そうとしていた王太子の逃げ道を塞ぐかのように瞬間的に王太子の前に現れ、手刀で王太子の首を斬り落としました。その首を掴み祭壇へ捧げています。
伯父様が私の手を引っ張りこの場所から逃げ出そうと促しますが、足が震えて立つことが出来ません。伯父様は私を抱え、出口へ向かいますが、一つしかない出入り口の扉は多くの人たちで埋め尽くされており、進むことができなくなっていました。
背後から次々と悲鳴が聞こえ、その声が消えていきます。もう、恐怖しかありません。
すぐそこに禍々しい気配が
「伯父様、転移をしましょう」
「その乱れきった心で転移が出来ると思っているのか?」
私は唇を噛みしめます。こんなに動揺していれば、まともに転移の陣は魔力で描けません。
「それと、この場所は我々と相性が悪いらしい。魔眼が上手く効力を発揮しない」
「そ、そんなことって」
「白き神の力が我々の女神の力を阻害しているのだr……」
「おじさ……」
伯父様の胸から生える白い腕。そして、私の意識も途絶えた。
気がつくと死体の絨毯の中に私は埋もれていた。どうやら、アレクがくれた守りまじないが効力を発揮したみたい。私の横には伯父様が……。
よくもラース公国の大公である伯父様を!
私は黒い聖女を探す。意識を失ってそこまで時間が経っていなかったのか、祭壇近くに黒い聖女がいた。
聖女を殺す!絶対に殺す!
「地獄の炎に焼きつくされろ!『ゲヘナの黒炎』!」
私は確実に殺る為に聖女に近づき過ぎた。この感覚は転移!周りを見ると教皇と思われる人物が聖女に転移を掛けていた。そして、私は聖女と共に転移をし、転移をした場所で再び私は聖女に殺された。