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3 神の狂ったような愛

 出来た。3日掛かって、やっと出来上がったわ。


『ブノワの秘薬』


 全ての病を治してしまう神からの祝福の薬と言われている。もう、作れるのは私ぐらいしかいないでしょう。


 3千年前までは神々の加護を受けている人たちが多くいた。だから、空島に行ける者達もそれなりにいた。

 きっと、あの時からでしょうね。神の加護を受ける者達が少なくなってしまったのは……しかし、先程から人の部屋の前をウロウロして一体何かしら、鬱陶しいわ。


「リリー。何の用かしら?」


 部屋のドアが開き、リリーが顔を覗かせる。


「お師匠様、お客様がいらしています」


「前も言ったけれど、ここには知り合いはいないから帰ってもらいなさい」


「あ、いえ。薬の作成を依頼されたのです」


 ん?リリーがおかしな事を言い出した。客が薬の作成を依頼してきたと


「まだ、店は始めていないし、看板も掲げていないわ。帰ってもらいなさい」


「毎日、お師匠様を訪ねていらしているのです。それで、今は薬を作っているので会うことが出来ないと言ってしまいまして、それで薬の依頼を……」


 何?その怪しい人物。


「因みに何の薬を依頼されたのかしら?」


「ほ」


 ほ?

 リリーは顔を真っ赤にしながら


「惚れ薬です」


 は?惚れ薬?そんな物を頼むなんて最悪ね。


「リリー。そんな物を頼む人物を客として扱うのはやめなさい。自分の魅力を相手に伝えられないようなら、諦めなさいとアドバイスしておきなさい」


「お師匠様、それはアドバイスではないと思います」


「人は諦めることも必要よ。一方的な愛も、愛されない恋も、愛の無い結婚も辛いだけよ」


「それでも諦めきれないときはどうすればいいのですか?」


 おや?


「あら、リリー。好きな人でも出来たの?今日はいつもと違って紅を引いていると思ったらそういうことなの」


「どうすればいいのですか!」


 そんなに大声で言わなくても聞こえているわよ。


「そうね。告白してサクッとふられるか、新しい恋を見つけるかすればいいんじゃない?」


「恋をしたことのないお師匠様にはわからないですよ。そんなに簡単に出来ることじゃないです」


 恋ね。二度と御免だわ。その蓋は二度と開けない。


「さっきも言ったけれど、相手に自分が魅力的に映らなければならないわね。相手が想う女性よりも魅力的になればいいのだと思うわ。まぁ、人はそれぞれ個性があるものだから、自分にあった魅力を相手に伝えればいいのよ」


「そんなの無理ですよ」


 そう言って、リリーは部屋を出ていった。あのリリーが紅を引いているなんて、恋を知ればリリーも変わるのね。顔の痕が無くなればきっと自信に繋がるでしょう。今日の夕食にコッソリと薬を混ぜておけば、リリーはわからずに薬を食べてくれるわね。





 翌朝、日が昇る前にリリーが私の部屋に駆け込んできた。


「何かしら、朝早くから」


「お、お師匠様。顔が私の顔が」


「綺麗になって良かったじゃない」


 リリーの左側にあった赤い爛れたような痕は一晩で跡かたもなく、無くなっていた。


「独り立ちするお祝いよ」


「え?ひとりだち」


「もう16歳になったのでしょ?成人祝よ。この小さなお店で今まで教えた薬を売っていけばいいわ。いい人がいるなら、この店を売ってその人の所へ行くのもいいわ。後はリリーの好きなように生きなさい」


 リリーは焦った様に私に詰め寄ってきて


「お師匠様。私を置いていくのですか?私を捨てるのですか?」


 何を言っているのかしらこの子は


「リリーはおかしな事を言うのね。おいて逝かれるのは私の方なのに。それにいつまでも私と一緒にはいられないわよ。だから、ここでお別れよ」


「まだ、教えてもらっていない事がたくさんあります。ほら、私の痕を治した薬も」


 リリーは泣きながら必死に訴えて来る。もう、教えられる事なんて何もないのに……。


「お師匠様はケチです。私が作れない薬が沢山あるのに教えてくれないなんて、置いて行かないでください」


「はぁ。本当に教えられることはないのよ。貴女は只人。私は魔女。その差は埋める事が出来ないわ。それに私は老いない。時が進んでいる貴女は時が止まった私の側に居続けられるの?」


 何時までも若いままの私の側に、老いていくリリーは側に居続けられるのかと問う。


「私も魔女になればいいのですよね。どうすれば、なれますか?私、絶対になります」


 自ら望んで魔女に成りたいだなんて、愚かな子ね。


「聞きたい?」


「はい!」


「後悔しない?」


「しません!」


「そう、じゃ教えてあげるわ」


 リリーは真剣な目をして私の言葉を待つ。


「神の加護を得なさい。それも普通の加護ではなく。神からの狂った様な愛を得なさい」


「何ですか。神からの狂った愛って」


「何って。そうとしか言えないわ。神々は我々を観ていると言うことよ」


「ぐ、具体的にはどうすればいいのですか?」


「さぁ。私の一族には多く加護を得ている者達がいたから気にしたことはなかったわ」


「それが魔女の一族ですか?」


「だからそんな一族は存在しないわ。一国を治める一族に過ぎないわ」


「一国……まさか王族ですか。はははっ、そんなの━━━」


 敵うわけがない。そう聞こえたけど、何に対してなのかしら?リリーはリリーで、私は私なのに、なぜ比べようとしたのかしら?



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