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2 神は我々を嘲笑っている

 私の言葉を聞いたアーク族がざわめき始めた。赤い髪、金の目、まさか、などの声が聞き取れる。


「まさか、大魔女エリザベート!」


「そう、言われた時期もあったわね。今は普通のエリザベートよ」


「さ、先程言っていた薬草だけを採取すれば去る……っていただけますか?」


 先程と打って変わって態度が丁寧になった。


「ええ。薬草を採取出来れば直ぐに出ていくわよ」


 その言葉を聞いたアーク族の者達はホッとした様子だった。

 それはそうね。以前落とした島はここの南に落ちて行ったけど、地上に落ちた者達は空に戻れなかったと聞いたの。それはきっと彼らからすれば、屈辱的なことだったのでしょうね。


 彼らとの交渉の末、薬草採取の間はいていいと許可をもらったわ。交渉相手はなぜかガクガクと震えていたけれど。


 欲しい薬草は3種類。赤い花をつける木に生える白いふわふわした草。青い石だけに生える細長く青い草。最後は白い木の実から生まれた鳥の頭に生える赤い草?


 最後の鳥を探すのが一番大変なの。飛んでいる白い鳥の中から頭に赤い草が生えているものを探しだし、捕まえる。前回は鳥を捕まえるだけに6日も掛かってしまったの。


 でも、今回は大丈夫。ちゃんと秘策を用意してきたわ。

 白いふわふわした草と細長く青い草は直ぐに見つけられたわ。アーク族がここにあるって親切に教えてくれたの。千年も経てばやはり彼らも変わるのね。


 後は、鳥を捕まえるだけ。白い鳥の集団のところに電撃の魔導術を放つのよ。


『サンダーストーム!』


 電撃を帯びた竜巻が白い鳥たちに直撃し、竜巻の中心部へ集まってくる。外側に放り出される前に術を止めれば、上からボトボトと白い鳥たちが一箇所に落ちてくるの。完璧だわ。


 その中から3匹の赤い草が生えた鳥がいたので、むしり取る。それから、『癒やしの光』を使えば、鳥たちは何事もなかったように羽を撒き散らせながら、空へ飛び立っていった。


「全部終わったから帰るわ」


 私は後ろにいる人物に声を掛ける。先程、親切にも薬草の場所を教えてくれたアーク族の人がいたけれど、顔色が悪いわね。


 そして、素材が揃った私は空へ飛び立つ。2つの月が照らす夜の世界は白と黒の世界が存在していた。唯一、私のみが赤い点として空に存在する。息が白く吐き出され、風が肌に突き刺さるように痛い。


 ここに来る度に思うの。この世界は神々の箱庭だと。普通の人はここには来れない。アーク族のみが空に存在し、人々を見下ろしている。唯一、地上から空島に行けるものが居るとすれば、神の加護を得た者のみ。そう、私の様に神の目に(かな)った者だけが神に近づける権利でもあるかの様に。


 空から地上へ向かう半ば、ふと声が聞こえた気がしたの。


『また、楽しませて』


 楽しませる。ああ、嫌な言葉。






 朝日がまぶたに差し込み眩しさに目を覚ます。思ったよりも早く終わり、夜中の内に今住んでいる家に戻って来ることが出来たの。部屋から庭に出て伸びをする。


 以前は老夫婦が小さな店をしながら暮らしていたらしく、平屋の小さな家に間口の狭い店舗が道に面して小さく構えている。裏には狭い庭があり、裏道に通じる小さな扉が存在している。こじんまりしてひと目見て気に入ってしまったわ。


「お師匠様、いつ戻られたのですか」


 振り返ると、洗濯物を抱えたリリーが立っていた。


「夜中よ。思ったより早く終わったのよ。これから、少し引きこもるからよっぽどの事が無い限り声をかけないでほしいわ」


「何か作られるのなら、側で拝見したいです」


 私が作業をすると聞いたリリーは洗濯物を抱えてまま詰め寄ってきた。


「リリー、頼んでいた傷薬は出来たのかしら?」


 リリーの表情が固まってしまった。どうやら、まだ出来ていないらしい。傷薬の50個ぐらいは1日で作れるようになってほしいわ。


「まだなら、今日はそれを作りなさい。少しはここで暮らすのよ。生活するためにはお金は必要よ」


「くっ。き、傷薬を作れなくても、お金持ちと結婚すれば、働かなくてもいいではないですか」


 基本の傷薬を作れなくては他の薬なんて到底無理なのに、逃げ腰ね。お金持ちと結婚ね……。


「リリー、その結婚は幸せかしら?」


「幸せです。お師匠様が結婚出来ないからと言って、私も出来ないって思わないでください」


 リリーはそう言って洗濯物を抱え走って行った。リリーは結婚というものに憧れを抱く年頃になったのね。幸せになれる結婚は祝福してあげるけれど、金持ちねぇ。私は幸せになれるとは思わないわ。


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