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10 俺が悪いのか。神が悪いのか。

アレクオールディア side2

 一ヶ月後、側近に魔眼を管理している魔道具を見てほしいと言われた。突然どうしたのかと尋ねれば、父である大公の死が魔道具に示されたという。慌てて、魔道具を管理している部屋に行けば、魔眼を持つ一族の者が揃っていた。


「兄上!お父様が」


 弟であるオルフェディアが駆け寄ってきた。


「いつから父の存在を魔道具は認めなくなったのだ」


 そう尋ねるとそれには父の弟である叔父上が答えてくれた。


「昼過ぎくらいだ。確か今日が挙式の予定日のはずだ。多分そこで何かがあったのだろう」


「やはりカウサ神教国の罠だったと考えていいのですか?」


「そこまでは分からん。エリザベートかフランが戻ってくればわかるのだろうが」


 二人とも転移が使える者だ。早くエリザベートが戻ってくればいい。そう願っていた。しかし、戻って来たのはフランだけだった。


 フランが夕方に戻って来たと聞き、フランのいる部屋に向かった。そこには叔父上と母が俺を待っていた。


「アレク。心してフランの言葉を聞きなさい」


 母がそう俺に言葉を掛ける。母はもうフランから聞いたのだろうか。


「フラン。話してくれ」


「はい。私は教会の外に居たため、詳しい事の起こりはわかりかねますが、何か問題があったようで式の始まりが遅れていたようです。

 そして、聖女が教会に入って直ぐに悲鳴が聞こえました。それを聞いた私は教会の中に向かおうとしましたが、中から次々と人が出てきており、中に入ることが出来ませんでした。

 4半刻(30分)経った頃でしょうか。教会の中は静まり返り、中から人が出てくることはありませんでした。急いで教会の中に入りますと、そこは人の死体で埋め尽くされていました。

 その死体の中から血まみれのエリザベート様がはいでてきたので、私はエリザベート様を呼びながら駆け寄りましたが、私の声など耳に入って居なかったのか、祭壇前にいた黒い女に向かっていき、突然その黒い女と共に消えたのです。まるで転移をしたかの様に」


 どういうことだ?


「大公様はエリザベート様が這い出てきたところに胸から血を流して倒れていらっしゃいました。今は、保護の魔術を掛けて、他の者達とラースに向かっていらっしゃいます」


 父を置いて逃げたということか?


「そうですか。大公閣下とエリザベートはカウサ神教国の罠に掛かって亡くなった。と民には報告しましょう。」


 母がそう決断を下した。エリザベートは生きているのに、死んだことにするのか。


「その方がいいだろう。大公を置いて自分だけ逃げたというのは、あまりにも心象が悪すぎる」


 叔父上も母の意見に賛成のようだ。


「アレク、一年喪に服したあと、エリザベートの妹のコーネリアと婚姻し、大公を継ぎなさい」


 母がそう言うが、エリザベートが生きているのに、なぜ、コーネリアと婚姻をしなければならないのだ。


「俺はエリザベートと共に生きる事を決めている。コーネリアと婚姻をするつもりはない」


「あなたがエリザベートを愛しているのは知っていますが、そのエリザベートがいなくなってしまったではありませんか。ラースの血を絶やすわけにはいきません」


 わかっている。わかっているが、納得はできない。


「それじゃ、1年エリザベートを待とうか」


 叔父上が俺に提案する。


「喪に服す間、エリザベートが帰って来るのを待ってみようか、あの子もパニックになって思わずそういう行動をとってしまったのかもしれないからね」


 叔父上の言葉に俺はうなずいた。エリザ早く帰って来い。

 しかし、エリザが帰って来ることはなかった。母の言葉の通りコーネリアと婚姻式を挙げることになってしまった。


「アレクお兄様」


 赤いドレスを身にまとったコーネリアが俺に話し掛けてきた。それは元々エリザの為に用意をしたドレスだった。エリザの赤い髪と同じ赤を出すために職人に何年もかけて作ってもらったものだった。それはお前の物じゃないと叫びそうになったが我慢をする。


「なんだ」


「私ではお姉様の代わりにはならないかもしれませんが、精一杯アレクお兄様をお支えします」


 コーネリアではエリザの足元にも及ばない。知識も魔力も何もかもが俺の側に立つには足りない。


「こう言ってはお姉様に申し訳ないのですが、お慕いしているアレクお兄様と結婚できて嬉しいです」


「そうか」


 そして、女神ナディアを祀った神殿に向かう。公都は多くの民たちで溢れかえっており、誰も彼もがめでたいと騒ぎ立てている。

 空は高く透き通るように青い。丁度、公都の上を島が通り過ぎていった。結局、約束を果たすことはなかった。無理にでも連れて行けばよかったのだろうか。


 祭壇の前に立ち、女神への報告の儀を始めようかとしたとき、周りがざわめきだした。誰しもエリザの名前を呼んでいる。振り返れば、そこには、赤黒いドレスを纏ったエリザが立っていた。


「お、お姉様!生きていらしたのですか!」


 コーネリアが驚きの声を上げるが、叔父上はコーネリアにもエリザが死んだと伝えたのか。

 どうして、今なんだ。どうして、もっと早くに戻って来なかった。今更戻ってきても遅すぎる。


「なんだ?今更戻ってきて、式の当日に赤いドレスを着て戻って来るなんて嫌がらせか?」


 エリザの口から何があったか聞きたい。なぜ、父を置いて逃げたのか。


「父上を見殺しにして逃げていたくせに、一年経った今頃戻って来るなんて、どういうことだ」


 俺の言葉にエリザは怒りの形相を見せた。


「あの惨劇を見ていないクセに、見殺しにしたですって!逃げていたですって!あの場に生き残っている人など殆ど居なかったのに、何を知っているというの!私は2度殺された。けれど、女神様の慈悲でこの場で生きて立っているというのに、アレクにそこまで言われるなんて!」


 2度殺された!誰に!女神の慈悲で生きている?どういうことだ。


「私はもう、この国には戻らない。あなた達の好きにすればいい!」


「エリザ待て!」


 エリザは俺の声が聞こえなかったのか、そのまま浮遊し空へ飛んでいった。俺もエリザの後を追おうとしたが、コーネリアが邪魔をした。


「アレクお兄様待ってください。何処へ行くつもりですか!」


「エリザのところだ!」


『もう遅いわよ』


 そんな言葉が背後から聞こえた。しかし、俺の背後には祭壇があるのみ。

振り返れば、その祭壇に腰掛けた赤い髪の金色の目をした女が居た。その存在感は凄まじく、膝を付き(こうべ)を垂れる存在だと本能が告げている。この御方はまさか。


『はぁ。妾がどれだけ愛し子の心をそなたに惹きつけてやったと思っているの?そなたは一度でも愛し子に愛していると伝えた?』


 いや、確かにエリザには言ってはいない。


『心はね思っているだけじゃ通じないのよ。きちんと言葉にして伝えたいとだめなのよ』


 俺の気持ちはエリザに伝わっていなかったということなのか。


『伝わっていない。全く伝わっていないの。最初はちょっとしたすれ違い。それが段々大きくなっていって、今回がとどめね』


 とどめ?エリザのところに向かえば、まだやり直せるはず。


『愛し子が言っていたでしょ?2度死んだと。一度死んでしまうとね。世界の楔から解き放たれてしまうのよ。今は妾の加護でかろうじて世界と繋がっているにすぎないわ。今回がこの国に留めておく最後のチャンスだったのよ。そなたがもう少し素直になっておけば……。はぁ、才人というものにも問題があるとわかったわ。凡人の努力が理解出来ないなんて』


 俺が悪いのか。


『妾が愛したラースの国を良き方向に導こうとしていたのに、そなたと愛し子がいればもっとこの国を豊かにできたのに、何もかもダメになってしまったわ。あの可哀想な愛し子がいる限り、この国に愛し子は贈らないことにするわ。加護も一人一つまでにするわ』


 そう言って、女神ナディア様は消えてしまった。空の彼方から、慟哭のような叫び声が響き渡っている。

 俺が間違っていたというのか?しかし、何が間違っていたのかがわからない。

 ただ、俺ができるのは、いつでもエリザが帰ってきてもいいように国を豊かにすることだけだ。





 だけだった。俺は大公として国を守って行けばいい……だが、エリザは戻ってくることはなかった。


 女神ナディア様も……女神ナディアも喚び出しても応えてくれることがなくなった。俺が悪いのか。俺が……。そうか、全て俺が悪い。


 いや、そもそも加護を与えすぎた女神ナディアが悪いのではないのか?

 俺が普通の考えを持てないのは女神が悪い。


 だから、俺は大公の座を弟に譲り、北の辺境の地に向かった。そこで俺は女神ナディアに頼らない生き方をするために、両目の魔眼を完全に封じ、女神ナディアではなく他の神々を崇め奉る国を作ろう。


 俺はきっと世界の理から外れたというエリザと再び相見(あいまみ)えることはないだろう。しかし、これが俺が唯一エリザに示すことができる“俺の心”だ。


 そう“心”だ。


 何一つ伝わっていなかった“俺の心”。エリザ、君にとって優しい国を作ろう。そうだな、三千年ぐらい経てばこの国は地上の神界になれるかな?


 その時は君にこの国を気に入ってもらえるだろう。


 そして、もし……もし再びエリザと相見(あいまみ)えることができたのならば、今度こそは俺の心を言葉にしよう。




 エリザ、好きだ、と。

 エリザ、愛している、と。



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