1 永遠の魔女エリザベート
退屈。退屈。とてつもなく退屈。永遠かと思うほどの日々を過ごしてきたけど、人の身でしかなかった私が3千年も生きてるのが可笑しいのだけど、退屈過ぎる。
「お師匠様、お客様です」
私を師匠と呼んでいる明るい栗毛の青い目をした娘はいつだったか。道端で置き去りにされていた赤子を拾って、気晴らしに育ててみたけど、10年前だったかしら?20年前だったかしら?
「リリー、いくつになったかしら?」
「16です。お師匠様。お客様が来ておられます」
客?私に用がある客なんて、わざわざ表の扉から来ないわ。
「断っていいわ。私は惰眠を貪るのに忙しいの」
「それは忙しいとは言いません。お客様です」
「この地に知り合いなんて、いないからいいのよ」
弟子のリリーはため息を吐きながら私の部屋を出ていき、表の方に向かって行ったようね。グローリア国に来て3日しか経っていないのに私に客だなんておかし過ぎるわ。
それまでどうしていたかって?リリーがまだ小さい頃は気候がいいもっと南の方で過ごしていたわ。まぁ。千年ほど前に北側で色々したので北側には居られなかったのよ。もう、千年も経てば人の記憶から薄れているだろうと思って、北側でも過ごしやすい国を選んだつもりだったけれど、まだ、早かったかしら?
でも北側でしか取れない薬草が欲しかったから仕方がないわね。かわいい弟子の為なのだから。
リリーが道端に捨てられていた理由、それは顔に爛れた痕がある為たと思われた。
それはある病気にかかると高熱と身体中に痛みが起こる病で、治ると身体のどこかに火傷のような引きつったような赤い痕が出来てしまうの。
それを治すには、人が立ち入れない場所しか生えない薬草を必要とするから、南の方にいたリリーには治すすべがなかったの。今は赤い痕が見えないように顔の半分を髪で隠しているわ。見た目を気にする年頃なのね。
まぁ、ソロソロ独り立ちをしてもいい時期だから、餞別にでも薬を作ってあげようと思ったのよ。
そうね。天気も良いことだから薬草集めでも行きましょうか。
「リリー」
拡声魔術の応用でリリーにだけ声が届くようにする。
「何ですか。お師匠様」
遠くからの声とバタバタと廊下を走る音が響いてくる。
「少し出てくるわ。2日か3日は戻らないから」
「何ですか。魔女の集会ですか?」
「そんなものがあると本気で思ってないわよね」
「え!無いのですか。いつか私も連れてって欲しいと思っていたのですけど」
きっと、私の元を訪れる誰かから嘘を教えられたのでしょうね。
「いつも通り素材採取よ」
お気に入りの革の赤く四角い旅行鞄を空間から取り出す。その鞄の上に座り、そのまま浮遊し窓から空へ飛び出した。
高く高く空を上りつめる。先程までいた街が雲の下に隠れたころ、目的のところが見えてきたわ。空に浮遊する島。この大陸の南側にはなく何故か北側のみ存在するのよ。私が知るだけでも30の空島が存在しているわ。
西に移動している島に追い付くべく、魔力を上げ、移動速度を上げていけば、島にたどり着くのだけど、千年前まで居た住人はまだ居るのかしらね。居ると面倒ね。
ここの住人は傲慢なエルフより面倒くさいのよ。鳥人と言えば良いのだろうけど、地上にいる鳥人の翼は退化して飛ぶことは出来なくなっているの。でも、自分たちを『アーク族』と名乗る白き翼を持つ一族は己の翼で自由に空島を行き来ができるの。そして、神の代行者と勘違いしている愚か者達。
神ってヤツは彼らが思っている程、良心的な存在じゃないわよ。
空島に到着し、そのまま浮遊し進んで行く。本当にいつも思うけどここに来るのは面倒くさいわ。転移魔術が使えれば良いのだけど、移動しているから無理なのよね。転移した先が島と重なってしまったら生き埋めってことになると大変だからね。
ここの環境が特殊なので、自生する植物も地上とは全く異なるの。相変わらずこの景色は不可解に思えてしまう。光を放つ花はまだいいわ。木になっている白い実から生まれてくる白い鳥。空中を浮遊する丸い玉……未だにあれが何かわからないわ。
そんな空島を鞄に乗ったまま進んで行っているのだけど、欲しい薬草は何処に生えているかわからないので下を見ながら移動していたので、気付くのが遅れてしまったの。
私はアーク族に囲まれていた。
「下民が!この神聖なる地に何の用だ!」
一人のアーク族が声を上げているけど、私の目には誰も彼も同じに見えてしまうわ。白い髪、白い目、白い肌。全員が気味が悪いぐらいに白いので、全く持って個性が分からない。
「薬草採取」
私がそう答えると
「下民が!神聖なる地から奪い取ろうという愚か者が、痛い目にあいたくなくば去れ!」
はぁ。千年前も同じ台詞を聞いたわ。進歩というものはこの種族にはないのかしら?
「別にいいでしょ。あなた達にとってはその辺の草と認識しているものなのよ」
「貴様の様な赤の神の守護を受けた者にくれてやるものなど無い」
赤の神……私のステータスを視た者がいるの。そう。
「ねぇ。また、千年前と同じ様に島と一緒に落ちてみる?」