みんなへの提案
「ああ、あの魔力の発動、魔力量はすごい。あの娘はどんな魔法を使っている?」
「カリーナの魔法?」
「見たことないよね、テオ」
子どもたちとの訓練で、魔法を使っているのは見たことないな。みんなと同じで槍を使っているけど。ベッラの側を離れたのも見たことない。
「あの娘はいくつだ?」
「知りません」
「ふーむ。一緒にいた娘はどうだ?」
「僕より年上だと思いますが」
「ベッラはいい子だよ。みんなの面倒見てるし」
「……そうだな。あの時も助けようとしたな。……それも一考か。私は出てくる。テオ、話しで中断させてしまったが残さず食べろよ」
「は、はい」
「ときどき、カリーナたちの様子を見てやってくれ。私が戻ったら話がある。あーそうか、着替えか。宿に言って用意させておくから、宿から出ないように伝えてくれ」
「わかりました」
「この食堂なら何を頼んでもいいからな。モルン、おまえも好きに食べていいぞ」
「やったぁー! クレリアありがとー! トリさん! ボクはトリさん食べるっー!」
クレリアが食堂を出ていくと、モルンは料理人と美味しいトリさんについて話し始めた。
思い出した。
アントン村のベッティはお母さんのダーリアのクッキーが大好きで、食べればいつもゴキゲンだった。なにか甘いものが用意できないか相談してみよう。
調理場でハチミツと干した果物の入った温かい粥を作ってもらった。
ベッラの部屋に運んでいくと、カリーナは目覚めていたがまだ顔色が良くない。
モルンがベッラのベッドに飛び乗り、優しく二の腕をほとほとと叩いた。
「甘いものを作ってもらったよ」
「あら、いいわね」
「ベッラ、痛みはないの?」
「もう大丈夫だよ」
カリーナの枕元とベッラの膝の上にトレイを置いて、僕はふたりに笑いかけた。
「カリーナ、甘くて温かいから、すこしどう?」
「……ありがと」
「後でまた様子を見に来るから、お腹に入れてもう一度寝るといいよ」
クレリアが戻ってきたので、またカリーナたちを訪ねる。
「カリーナ、まだ少し顔色がさえないな。眠くはないか?」
「……だ、だいじょうぶ……です」
「長い話になるんだ。ふたりとも気分が悪くなったらすぐに言ってくれ」
ベッドに身を起こしたふたりに枕で背もたれをつくり、僕らはイスに腰かけた。モルンはカリーナの膝の上。
「君たちについて調べさせてもらった。ベッラ、十五歳。鉄証の冒険者。両親もクローパニの街の冒険者。二年前に隊商の護衛で、夫婦で王都リエーティに向かった。ベッラに留守番をさせてひと月もかからず戻ってくるはずが、行方不明になった。今は両親の持ち家で孤児たちと暮らしている」
ベッラがキョトンとしている。
「カリーナ、十歳。母親は隊商ノ頭だったが、二年前にこの近くで盗賊に襲われ死亡。父親とこのクローパニの街に逃げ込んだが、その時の傷で父親もなくなった。それ以来ベッラの家で暮らしている」
ギュッと握られたカリーナの手を、モルンが優しく舐める。
「ベッラ、両親をさがしたいかい?」
「はい。……でも子どもたちを置いては、さがしにいけません」
「ふむ。カリーナは魔法を使えるの?」
カリーナとベッラが顔を見合わせる。
「いいえ。カリーナは使えません」
「使ったところを見たことがないんだね?」
「はい」
「カリーナは昨日、君が顔を切られた時に、ゲスギツネを弾き飛ばしたんだ。魔力でね。これは魔術師でもできる者はすくない。魔術師としての才能がある」
「スゴイ魔力だったよ」
モルンがカリーナを見上げて、勢いよく尻尾をふった。
「カリーナ。君は魔術師をどう思う?」
「……よく……わかりません」
「父親はチェルソ・ベルネーリだね?」
「……はい」
「やはりか。チェルソ・ベルネーリは銀ノ魔術師だったね」
「……お父さんが……魔術師……しらない……」
ベッラがあっけにとられてる。魔術師の子だったのか。
「カリーナ、君は魔術師としての訓練を受けていない。このままでは君のまわりの人、ベッラや子どもたちを傷つけてしまうかも知れない。君自身も」
「いやです」
「だが今のままではいずれそうなってしまうだろう。防ぐには魔術師ノ工舎で訓練を受けなくてはならない。たぶんご両親もそのつもりだったはずだ」
「……カリーナが魔術師ノ工舎に?」
「そうだ。テオとモルンは魔術師なんだよ。ふたりのように正しい訓練を受ける必要がある」
「……」
「ふたりは、王都リエーティの魔術師ノ工舎に行く途中なんだ。カリーナ、君も一緒に工舎に行きなさい。魔術師になりなさい」
「……」
「私が連れていければ良かったんだが。テオとモルンの階級は魔術師ノ弟子だから十分なんだが、まだ少年だからなぁ」
「テオってえらい魔術師なんですか?」
「そうだよ、ベッラ。一般的に知られている魔術師の階級は上から、金、銀、魔術師ノ補、ここまでが魔術師。その下には魔術修学士、徒弟、彼らは魔術師とは呼ばれない。まあ見習いもいるが。テオとモルンは、魔術師ノ工舎に入舎すればすぐに銀ノ魔術師になるだろう」
「え?」
「ボクらってえらいの?」
「なんだ知らないのか? ガエタノとキアーラの訓練成果が確認できれば銀だぞ」
「魔術師ノ補と同等っていわれた」
「いや同等以上だよ。で、資格は十分にある。魔力も戻ったんだろう?」
「はい。でも確かめてはいません」
「うん、この話しが終わったら魔法が元通りか確かめなさい。でだ、テオとモルンにカリーナを送ってもらう。けどね、テオとモルンは少年、男の子だ。気が利かない代表だからなぁ。そこでベッラだ」
「あ、あたし?」
「彼らに女の子の世話は任せられないからね」
「うん」
「鉄証冒険者ベッラ、君に護衛の指名依頼を出す。四人で王都リエーティまで行ってほしい。道中で両親をさがすことも可能だろう」
「……さがしていいの?」
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