狩りに行く
声をかけてきたのは、革鎧に身を包んだ冒険者たち。あまり清潔ではなく、汗のすえた匂いをさせている数人の男たちだった。
「ここはガキの遊び場じゃねぇ! 散れ散れ!」
「おっ! こっちのネーちゃんたちはいいんじゃねえか?」
「そんな青いのがか? あ、おめーはそういうのが良かったんだっけ。俺は、もちっと色気のある方がいい。こうむっちりとした腰つきの方がいいんだがなぁ」
子どもたちは突然の闖入者に立ち止まり、猫たちは背中と尻尾を膨らませて低く身構える。
男たちはニヤニヤ笑いながら、剣を抜いて子どもたちに向けて振りまわした。僕たちは訓練場の隅に追いはらわれた。
「ずいぶん乱暴だな。訓練するのに決まりがあったのかな。あの人たちって、この街の冒険者だよね?」
ベッラたちが首をふる。
「最近クローパニにきた奴らなんだ。荒っぽくてイヤな奴らなのよ」
「みんなから嫌われてるけどぉ、危なくって文句言えないんだよねぇ。あんなんでも銅証だしぃ、銀証もいる」
「……臭いから……近づきたくない」
「そうなんだね。ボクらの追いかけっこはなにか問題になってるの? 決まりを破ってる?」
「いいえ、モルン。そんなことないよ。微笑ましいし、子どもが身を守れるようになるかもって、工舎も許してくれてる」
男たちは剣を抜いて打ち合いを始めたが、だらしなく動き、真剣には訓練をしていない。時折、下卑た大笑いをしている。
「うーん、あんまりお近づきになりたくないね。師からも危ないことは避けて通れって言われてるし。みんな、訓練は終了。向こうでおやつをあげようね」
冒険者ノ工舎の建物近くに戻り、猫たちにご褒美をあげる。
子どもたちも猫たちもおたがいに慣れて、膝の上でおやつをもらっている子や撫でさせてくれる子もいる。
「ねえ、モルン。ふたりは狩りに行かないの?」
「行こうと思ってるよ。でも、体調をもとに戻すのが先だからね。テオ、そろそろなにかしないと、お金が不安なんだっけ?」
「ああ、お金はねぇ。狩りで稼ぐ事も考えてるよ。確認したいこともあるし、結界の外、街から出てみようとは思ってるんだ」
「あたしたちは、街門が開く夜明けから狩りにでてるよ。小さい子たちは街の雑用してるけどね」
「そうなんだ。いろいろ確認が済んだら、僕らも夜明けから狩りしようかな」
「一緒にやれるといいね」
猫たちのおやつが済むと解散になった。
まだ夕食には早かったので、街の外に出てみることにした。
門番に木証を見せて門を通り抜ける。
魔法がうまく使えない今は、魔術師証を見せるのはなんとなく間違っている気がふたりともしていた。木証でも街の出入りに通行税がかからない。
門から少し歩いたところで、僕らは辺りを見回す。
「どう? 僕はこの先にある結界が、少ししか感じられないけど」
「うん、ボクも。魔物もかすかにわかるけど、アントン村やオルテッサの街ほどじゃない。本当にぼんやりとしかわからないなぁ」
「同じか。明日はもう少し街から離れてみようか?」
「そうだねぇ。なんか魔力がわからないって、世界がぼやけ、はっきりしなくてイライラするよ」
「うん、魔法も使えず、魔力も感じられない。いったい、いったい、どうしてっ! どうすればいいんだ!」
いら立つ僕の大声に、街に入ろうとした人たちが驚いている。結局、魔力を感じる能力が大幅に落ちていることが、確認できただけだった。
翌朝、夜明けに街門を抜けて、結界を感じ取れるギリギリのところまででた。結界まではいっしょに猫たちが数人ついてくる。
クローパニの街は森と草原が折り重なる、ゆるやかな丘陵に囲まれている。僕とモルンは、草原を歩きまわり獲物となる魔物や小動物を探してみた。
「うーん、あの森が始まる辺りになにかいるけどなぁ」
「モルン、あの子たちも外で狩りをするのかな?」
「ついてきた子たち? いつもは街の中でネズミや鳥を狩っているって。街の外ではあんまりやらないみたいだよ」
「そうかぁ。キアーラとの野外訓練の時は魔物がはっきりわかったんだけど、ここでは見つけられないな。あれ? あそこにいるのベッラたち?」
「そうだね。狩りかな」
三つの人影が、草原が切れるあたりで身を低くしていた。じりじりと森の方に進んでいる。
ベッラたちの狩りを邪魔しないよう気をつけて近づいていった。
草むらから小さな影が飛び出し、三人は木槍で攻撃する。向かって来る影をベッラが牽制して、他のふたりが素早く木槍を刺した。
動かなくなった獲物を背に辺りを警戒し、僕とモルンを見つけて小さく手を振ってきた。
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