みんなで楽しく
僕は鞘のままの剣を向けて、子どもたちをみつめる。
「かかってこないなら、こっちから攻撃するぞ!」
子どもたちに向かって突進した。あわてて棒を構えるが、棒を打ち落とす。
「そんなんじゃダメだね! 僕を囲むようにして一斉に突きかかって!」
子どもたちが棒を拾い攻撃してくるが、払われ、打たれ、また取り落とす。
僕が横に踏みこんで、固まっている子たちに体をぶつけると、数人が一緒に転がっていく。
「あっ!」
「もっと間隔をとって、僕が動く方向を予測して突くんだ!」
ひらりひらりと避けられ、何度も何度も棒を叩き落とされた。
「ゆるく握って、攻撃の瞬間に、ぎゅっとにぎる! もっと自由に棒を動かす!」
「くっそぉー!」
「ほらほら、もっと速くだよ!」
僕ひとりが素早く動き回り、突っ立った子どもたちが次々と棒を落とされている。
加わらずにみているベッラたちにも、なんとなく僕とモルンの追いかけっこの意図がつかめてきたのか、しきりにうなずいている。
「そのため?」
「うん、カリーナ。いつも動くことが大切かな」
「だねぇー。ぼーっと立ってるんじゃなくて、相手より動いて守って、攻撃して、かなぁ?」
一撃もできず、子どもたちは疲れて座り込んでしまう。
モルンを追いかけている子たちも、触ることも出来ずに、何度も背に乗られている。ふうふう荒い息をしてへたり込んだ。
「休憩ー!」
「僕らの訓練にもなるけど、ちょっと問題だな。キアーラが教えてくれたことを伝えようかな」
「うん、みんな真っ直ぐに向かってくるだけだからね。スキが多すぎるよね」
僕は魔法の袋から、先端に布のたんぽがついた長杖を取りだした。腰を落として息を整えている子どもたちのところに行くと、ベッラに話しかけた。
「ねえ、ベッラたちもやってみるかい?」
「あたしたちも? やるわ! お願い! ほら、カリーナも!」
三人の少女が棒を構えて僕と向きあった。
子どもたちと同じように一気についてくるのを、払い、跳ねあげる。少女たちの体が流れたところをパンッ、パンッ、パンッとお腹を軽く打つ。
「ふーん。直線的に攻撃するのは、角ウザギが飛びかかってくるからなのかな?」
僕がルアナにたずねた。
「直線的ってなに?」
「そうだな。角ウザギはこっちを食べようとして、真っ直ぐに襲ってくるんでしょ? それをこちらも、正面から攻撃するのかなってことだよ」
「そぉーね。まっすぐね」
「いつも一撃で狩れるの?」
「運が良ければね。……ほんとは、刺さらずにはじき返されて失敗、怪我することも多いのよねぇ」
僕は長杖を構えて、シュッシュッと鋭く二度突きを放った。
「強く一回攻撃するより、こんな風に何度も打つほうがいいよ。正面からじゃなくて横に回ってね」
少女たち三人と実際に打ち合ってやってみせる。動き回る僕に翻弄され、何度も打ちこまれた。
「突くだけじゃなくて、柄や石突、棒の反対側で払うのもいいよ」
石突を使って棒を払い、腕を打ち、足をすくう。
「くぅー! どうしてそんなふうに動けるのよっ! 三人がかりなのにっ!」
「はははっ。これがモルンとの追いかけっこの成果なんだよ」
「そうそ。自在に体を使えるように訓練するってことなんだ」
少女たちも子どもたちも、恨みがましい目でモルンをにらんだ。
「あたしたちも、追いかけっこに参加した方がいいみたいね」
「うーん、モルンひとりじゃなぁ。ちょっと待ってて。もう一度お願いしてみるよ」
そういって、周りにいる猫たちに近づいていった。
身構えるように力が入る猫たち。背を屈め、一歩一歩ゆっくりと近づくと、猫たちが集まってきた。
しきりに僕の匂いを嗅いでいるが、中にはお腹を見せるものもいた。
モルンが猫たちに身を擦り寄せ、尻尾を交差させ、低く、高く、鳴き交わした。
しばらくして、僕らは猫たちを後ろに引き連れてベッラたちのところにもどった。
「この猫たちが、訓練を手伝ってくれることになったよ」
「猫たちには爪を立てないようお願いしているけど、とっさに立てちゃうかもしれないんだ。この革鎧や僕の古着を背中に巻いておいてね」
テオが革や服を魔法の袋から取りだし、子どもたちに配って背中を保護させた。
「……その袋に……こんなに……入ってるの?」
カリーナの質問に、指を唇に当てて小声で返事をする。
「ないしょね。魔法なんだよ」
カリーナがキラキラした目で僕を見つめて、つぶやいた。
「……魔法」
「じゃあ、人間ひとりに、猫たちが二人か三人で一組かな。広がって追いかけっこを始めよう。人間は背に乗られたら負け、猫は捕まえられたら負けね。みんなあまり乱暴に捕まえたりしないようにね」
「ニャ! ニャニャ! ニャ! ニャニャ!」
モルンが通訳をする。
「よーい、始め!」
訓練場はかなり広いが、他の冒険者たちの邪魔にならないようにと注意を忘れなかった。
特に弓の的には近づかないよう重ねて注意した。
少女や子どもたちと猫の追いかけっこは、とてもにぎやかなものになった。モルンと僕も走り回って、猫たちや子どもたちに助言と指導をしていった。
夕闇がせまるころ、にぎやかな訓練は終了した。猫たちは、僕からのおやつをもらって解散となった。
翌日、昼までは僕とモルンは魔法の訓練。昼食後に子どもたちがくると、ふたたび追いかけっこの訓練を始める。
おやつがでたことで、参加する猫が昨日より増えた。
「昨日テオが猫たちにおやつあげてたでしょう? 今日はみんなもお礼のおやつを持ってきてるの。でもね、あんまり多くはないの」
ベッラが小声で僕とモルンに告げた。
「それはありがとう。食べられるものなら何でも歓迎だよ……それって、本当は自分たちが食べる分?」
「うん。みんななんとか食べていけてるけど、いつもお腹をすかしてる。でも、どうしても猫たちにお礼がしたいって」
「うれしいなぁ。ボクらにはその気持がうれしいよ。足りない分は持ってきてるから大丈夫。テオにまかせて!」
モルンが前足をニギニギしてお礼をいった。
「じゃあ、今日も追いかけっこ、始めようか」
休憩を挟んで何度目かの追いかけっこ中に、野太い大声がかけられた。
「このガキども! 邪魔だ、邪魔! ここで遊ぶんじゃないっ!」
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次回は、「狩りに行く」
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