参加希望
次の日も、魔法の練習に向かう。一晩で回復した魔力の量はわずかだった。
氷槍ではなく、食事に使う小さなナイフくらいの刃を放った。
焦らずゆっくりとふたりの魔力を合わせることに集中し、いくつも氷刃を撃つ訓練をした。
交替で氷刃をだして魔力を注いで放つ。放つまでの時間が速くなるが、実際に使えるかどうかは不安だった。
魔力の回復を待つ間は、追いかけっこをする。
昼食の後、ふたたび追いかけっこをしていると、訓練場にベッラと子どもたちがやってきた。
「ああー、また猫をいじめてる!」
「こらビスコ、いじめてるんじゃないって聞いたでしょ」
「……少し……速くなってる」
「そうだねぇ、カリーナ。昨日より速くなってるぅ」
「でもあれで、本当に剣の訓練になるのかしら?」
ベッラたちの話し声が聞こえたので、僕とモルンは近寄っていった。
「こんにちは、みなさん」
「ハーイ、みんな。カリーナ、今日もかわいいね」
「えっ?」
カリーナの顔がほんのり赤くなる。
「あら、モルン。あたしはかわいくないのぉ?」
「いつでもかわいいよ、ルアナ。ベッラは今日はきれいなリボン使ってるんだね。とってもすてき」
子どもたちもモルンとお話したくて、ワッと集まった。その様子を見ながら、僕はベッラに話しかける。
「あ、あの、ベッラ、コホン、そ、そのリボンよく似合ってるね」
ベッラが目を丸くして、ほほ笑んだ。
「あら、ありがとう。ふーん、モルンのほうがほめるのは上手なのね」
そう言われて、ちょっとうつむく。顔は赤くなっていると思う。
「ううっ。はぁー、そうなんだよ、村でもモルンを見習えっていわれてた」
「ふふふ、がんばってね。ねぇ、あの追いかけっこ、本当に効果がありそうね」
「うん。僕とモルンは、ちょっと体調が悪かったんだ。それで体が思うように動かなくてね。取り戻すために剣の師から教わったことを、初めからやり直してるんだよ」
「剣の師かぁ。うらやましいな。あたしたちも教わりたい、子どもたちを守るためにも」
「冒険者って、そういう訓練はどうしてるの? 誰かに教わらないの?」
「みんな自己流ね。この子たちは私たちが面倒みてるわ。もっと大きくなればパーティーに入れてもらえるの。運が良ければ、親切な人たちに教えてもらえるわね」
「運なの?」
「そう。……ほとんどのパーティーでは、子どもたちは戦わせてもらえない。荷物運びが中心で、殴られたり、もっと酷いことも……。怪我したら捨てられるから、なんとか怪我しないで、生き延びられるようにしてるのよ」
「……」
「テオはいい服着て、武器も立派ね。モルンの武器も。だけど、私たちにはそんなお金ないから、尖らせた棒で角ウザギを狩って稼ぐのよ」
「テオー! ビスコたちが追いかけっこをやってみたいって!」
モルンが子どもたちと駆けてくる。
「へぇー、やってみようか。みんな一度にかい? ええと、革鎧が僕のとパエーゼが使ってたのとふたり分しかないから、モルン、爪はたてないようにね」
「うん、わかってる。じゃあみんな、テオの合図でボクを追いかけて。ボクに背中に乗られた子は負けね」
「負けたら一回お休みね」
子どもたちは七人。ベッラとルアナ、年長の子は参加しないようだ。
「カリーナ、あんたも参加しておいで」
追いかけっ子に加わりたそうにしていたカリーナは、首を振ってベッラのそばを離れない。他の子たちは訓練場に広がった。
「かまえて! 始め!」
「さあっ、ボクを捕まえてっ!」
僕が声をかけて、追いかけっこが始まる。
子どもたちはしばらくモルンの様子をうかがっていた。一番小さな女の子が笑い声をあげて走りだすと、みんな一斉に飛びかかっていった。
モルンは待ち構え、スッと身をそらして、掴もうとする手から逃れる。何人もの手が伸ばされるが、クルリクルリとかわして足元を抜けた。
「ああっ!」
「はやーいっ!」
「もうちょっとだったのにっ!」
「ハハハッ! 甘い甘い! もっと速くないとボクは捕まえられないよ!」
モルンに翻弄されて、幼い子がぶつかって派手にころんだ。怪我はなく、すぐに起きあがって追いかけるが、またもつれて転がった。
「それじゃあ捕まえられないよ! もっと他の人の動きにも注意して!」
僕の忠告でぶつからないようにするが、お見合いして動きが止まってしまう。そのあいだをモルンが駆け抜ける。
「へへーん!」
モルンが、みんなをあおった。
「あー!」
「あん、もうー!」
また夢中になって、ぶつかり、からみあう。
「ベッラ、人数が多いね。周りにいる猫たちが参加してくれるといいんだけど……。年長の子は、僕が槍の相手をしようか?」
「テオが相手してくれるの? ありがとう。みんなそこまで! 人数が多すぎるから分けるわね! 呼ばれた子はテオと槍の練習よ」
「俺は猫がいい! 絶対、捕まえる!」
「あたしはモルンと遊びたい!」
「年上の子たちがテオとね! ティラ、ラミス、コッティ、バーチ!」
「ええっー!」
呼ばれた子たちは、のろのろとモルンのそばを離れて、僕と向き合った。
カリーナはちらちらと再び始まった追いかけっこを見ている。
人数が減って、モルンはギリギリまで近寄らせて、かわしている。子どもたちからはにぎやかな笑い声と悲鳴が響いてきた。
「年長の子たちね。どうしようかな? モルンを追いかけるほうが楽しそうだよな。構え方と素振り? うーん、よし」
「さあてと、こっちも始めようね。みんなのは槍に見立てた棒だよね。みんな一緒に僕にかかってきて」
年長の子たちは互いをみかわして、ためらっている。
「前に見たからね。君たちの攻撃じゃ、僕にはまともに当たらないよ」
「え?」
まだためらっているのを見て、手を上に向けて指をクイックイッと動かし、僕は不敵に宣言する。
「僕のほうが強い。だから思いっきり攻撃していい。さぁ、かかっておいで」
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次回は、「みんなで楽しく」
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