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猫師ノ工舎物語 テオとモルン 子猫の魔術師は火弾の大爆発が大好きです!  作者: ヘアズイヤー
辺境伯領

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訓練のやりなおし


 頬を舐められるザラザラした感触に目を覚ました。部屋の中は夕闇で薄暗かった。


「モルン?」

「とっても苦しそうな声をだしてたよ。大丈夫?」


 体を起こして、腕と手を確かめる。うっすらと光る十条の傷が、長くついていた。


「これ、覚えてる?」

「……うん。なんとなくね。ボクがつけた。痛い?」

「少しチクチクするかな」

「ボクの爪もじんじんするんだ。何がおきたのかな」

「あれ? モルン、いつもより大きいね。変化した?」

「え? 子猫の……ままじゃない!」


 モルンは、三歳の成猫の大きさではないが、子猫ではない若猫だった。


「変えてないんだけど」

「成長したの? あっ!」


 思わず声を上げ、赤珠を取りだしてモルンに渡した。


「吸収と充填してみて」

「うん」


 前足を当てていたが、色の変化はおきない。


「できない。できないよ……」


 モルンの肩に手を当て、魔力譲渡を使うが、気落ちした声がもれる。


「ちょっとしか、こない」

「……魔力の量は感じられる?」

「いまので少しきた。でも、ぜんぜんいっぱいにならない」

「飛んでみて」


 モルンはゆっくりと浮かんだが、すぐにストンッと寝台に落ちた。


「ダメ!」

「僕のときと同じ? 成長した? そのせい?」

「うーん」



 いろいろとやってみることで、モルンも魔法の力が弱まったことがわかった。魔力も回復しない。ヒゲをしょぼんと垂れ下げて、黙り込んでしまった。



「今日ね、冒険者ノ工舎の訓練場で魔法を試したんだ」


 心を落ち着かせるため体を舐めていたモルンが、顔をあげる。


「魔法の威力が全然ない。魔法が使えない……このままじゃ魔術師とはいえない。体もよく動かなかった。なんとかしないと、魔術師ノ工舎には入れない」

「魔法の使えない魔術師じゃねぇー。ふぅー」

「モルン、結界の魔力はわかるかい?」

「結界の? ……感じない。いままでいろいろ感じてたのに。周りに何もないよ」

「そうなんだ。モルンほどじゃないけど、僕にも感じとれてた魔力がわからないんだ」

「……テオのもわからない! どうして。どうしたらいい?」


 僕は、大きく首を横にふった。


「僕にもわからない。魔法もうまく使えない。それでね、オルテッサの街に戻ることも考えたけど、カロリーネで解決できるかは、わからないと思う」

「だめかなぁ」

「アントン村まで帰って師にたずねるか、悩ましいんだよ。領都フィエルには支部があって、銀ノ魔術師がいるって。そこで相談しほうがいいかも」

「ここからどれくらい? 領都まで」

「歩いて六日くらい。そっちが近い。そのほうがいいと思うんだ。そうだ、師には手紙を

出しておこう。僕らが魔法を前のようには使えなくなったって」

「そうだね」

「それでね、もう一つ心配事があるんだ」

「なあに?」

「お金。この宿に、もう六日も泊まっている。王都までの旅費が足りなくなるかもしれないんだ」

「あれ? もらってたんじゃないの?」

「工舎に納めるお金は使えないだろ? 旅費にもらった分は、もうずいぶん使ってしまったんだ」

「そうかぁ。うーん、テオは、ネズミ食べて、路地で寝るってわけにはいかないかぁ」

「それはいやかなぁ。狂猪のお金はまだあるけど。魔法が使えないんじゃ、赤珠充填で旅ができないよ」


 モルンが、立ちあがって前足を腰にあてて天井を見あげる。尻尾が、ゆっくり振られた。


「魔物を狩るにも、魔法で攻撃できない」

「そうなんだ。剣の練習もしてみたけど、体が前のようには動かなかった。急に成長したからかな。上手く釣り合いが取れないんだよ。訓練しなおさないと」

「ボクもかな。確かめないといけないね。明日、ボクも訓練するよ。ね、テオ。水とお肉のお代わりくれないかな。ものすごくお腹がすいてるんだ」




 翌朝は、宿にオルテッサの街にいく商人がいないか聞いてみた。

 うまい具合に向かう商人がいたので、魔術師ノ工舎オルテッサ支部宛の手紙を託すことができた。巡回魔術師が定宿にしている高級宿にも伝言を残した。



 ふたりで冒険者ノ工舎に出かけた。


「猫の冒険者? そういえばオルテッサの街から来たやつが、しゃべる魔法の猫がいるとかなんとか。おまえか?」

「うん、たぶんボクのことだよ」

「ほんとにしゃべるとはなぁ。精霊猫にあうのは初めてだぜ」

「精霊猫? あれ? だれだっけ? イルマ? そんなこといってたね」

「師もいってたんじゃないかな? 精霊猫ってなんですか?」

「おとぎ話にでてくるだろ? 森なんかで出会う、魔法を使う猫。魔物のように襲ってはこないが、人の言葉を話して、いたずらしてくるって。おまえは違うのか?」

「違うよ。ボクは、いたずらなんてしないし」

「そうだっけ?」


 モルンも再登録をして、訓練場にでる。

 的に向かって短杖を構え、火魔法を使ってみた。


 ポヒョン。


 火弾は的までは届いたが、昨日と同じく魔法の威力は芳しくなかった。モルンは、何度か短杖を取り落としてもいた。


「ボク、もう魔力がないよ」

「僕もだ。剣の訓練をしよう」


「おい、見たか? あの猫」

「ああ、短杖を持って魔法を使う。威力はないがな」

「あいつらの短杖。ありゃかなりの物だぜ。猫にはもったいない」

「そうだな……ほんと、もったいない」




 広い場所に移動した僕とモルンは、いつもの訓練通りに離れて向かい合った。十字鍔を革紐で結わえ鞘に収めたままの剣と手甲鉤をかまえる。

 僕が低く飛びだし、地を這うように横になぐ。モルンがサッと防ごうとするが、手甲鉤を体の前で止められずに、伸びあがってしまう。剣はモルンの横腹をしたたかに打ちすえてしまった。


「あっ!」


 二人が同時に声をだす。


「モルン!」

「あいたたたっ。勢いがつきすぎた!」


 心配になり、うずくまったモルンをのぞきこんだ。


「手甲鉤、いつもより軽いなぁって思ったんだ。受け流すはずが……」

「……武器は使わずに、追いかけっこからやりなおそうか?」

「そうだね」



 僕らはお互いを追い回した。けれども、ふたりとも動きがもたつき、何度もころんだ。


 訓練場を取り巻いている猫たちが、僕らをじっと見ている。

 猫たちだけではなく、汚れた服の子どもたちが険しい表情で見ているのに気がついた。


お読みいただき、ありがとうございます。


次回は、「魔法を工夫してみる」


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

ブックマーク、よろしくお願いいたします。

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