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猫師ノ工舎物語 テオとモルン 子猫の魔術師は火弾の大爆発が大好きです!  作者: ヘアズイヤー
出会ったふたり

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漁師の手伝い


 墓参りがすむと、ガエタノは家に戻っていった。

 僕とモルンは、結界魔道具の点検をしがてら、キアーラとパエーゼに村を案内した。途中で会う村人に二人を紹介したが、「魔術師」と聞いて煙たそうな顔をされる。



「テオ、どうしてみんな嫌そうな顔をするのかな」


 パエーゼが、すれ違った村人を振り返って聞いてきた。


「うん? ああ、『魔術師』だからかな。ガエタノもあんまり好かれてないから」

「俺は『魔術師』じゃなくて『魔術修学士』なんだけどなぁ」

「普通の人にとってはどっちも同じ。厳しくて、恐ろしくて、小うるさい存在よ」


 そう答えたキアーラに、モルンが、小首をかしげてきれいな金と青の目で聞く。


「キアーラも厳しくて、恐ろしくて、小うるさい存在?」

「うっ! なんて、かわいい!」


 キアーラが、手を伸ばしてモルンをなでる。



 村の広場に設置している魔道具を点検し、浜に下りた。漁師たちは漁を終えて戻ってきていて、水揚げされた魚を運ぶのに大忙しだった。


「おっ! テオ! ちょうどいいところに! 今日は大漁だ! 手伝ってくれ! モルンの手は、あんまり役に立たんがな!」


 若い漁師から大声がかけられる。


「ルーベン! こっちは魔術師キアーラと魔術修学士パエーゼだよ。キアーラ、大変そうだからちょっと手伝っていい?」

「いいわよ。魚運びが終わらなければ、魔道具の確認はできそうにないわね」

「ま、魔術師? このキレイなあねさんが?」


 ルーベンはちょっと驚いた顔をした。


「あら、お上手ね。私もお手伝いするわ」


 そう言うとキアーラはシャツを腕まくりして、僕と魚運びに手を貸す。


「おお、あねさん力があるな!」


 パエーゼは、最初はためらっていたが、着ていたローブを脱いで参加した。

 魚の入った籠をひとりで持ち上げて、ウンウンと唸ってヨロヨロ運び始めた。その様子を見たルーベンが、明るく笑いだす。


「ははは、若いにーさんはちょっと頼りねえな。だれか! にーさんといっしょに運んでやりな!」


 モルンは猫たちと一緒に、おこぼれ目当てで警戒任務にあたっている。

 こうして他の猫たちと比べると、やっぱりモルンはちっちゃいな。話すことは赤ちゃんじゃないから、育ってはいるんだろうけどなぁ。



 浜の上にある作業場への魚運びが終わる。おかみさんたちは小魚の処理と塩漬け作業、漁師たちは明日に備えて、漁具の整備をする。

 僕たちは、漁師ノ長に断って、漁師たちが使う小舟の船尾に固定されている結界魔道具を確認していく。

 漁師たちが個人で持つ魔道具。浮きになる木片をいっしょに革袋に入れて、腰の革帯から吊るされている。


「この大きさだと携帯用の効果は、持って三日ね。三日で漁には足りてるのかしら。赤珠の確認は誰がするの?」

「漁は毎日夜明けに出て昼には漁を終えるから、三日分で足りるよ。確認は毎朝出漁のときに漁師ノ長たちがしてる。僕らも手伝ってる」


 僕の答えに、キアーラがしばらく考え込んだ。


「漁はあの小魚? 大きい魚はとらないの?」

「とるけど、小魚が多いかなぁ。あの小魚の塩漬けとオレア油漬けが人気なんだって。調味料も小魚から作るんだ。おいしいよ。大きな魚をたくさんとるには、小舟じゃなくて、もっと大きな、船がいるんだって」

「そうね、あの小舟ではそんなに沖に出れないわね。潮に流されても、二日もあれば戻れるってことかしらね」



 手伝いを終えた僕たちの帰り道、いつものように猫たちが後をついてくる。

 パエーゼが、猫たちに目をやりながら、自分の服を盛んに嗅ぐ。首をひねり不思議そうな顔をして僕に聞いてきた。


「なあ、猫たちがついてくるのは魚の臭いのせいかな? それほど臭うのかな?」

「ああ、この子たちね。モルンと僕が外に出ると、みんな必ずついてくるんだよ」


 肩のモルンをなでながら、パエーゼを振り返って答える。



 家の前で、ガエタノが体格のいい中年の男性と大声で話していた。


「ダリオ、聞き分けてくれ。それはできないんだ」

「だが、だが、テオは子猫を生き返らせた。たのむ、このとおりだから」


 ガエタノは頭を下げる男越しに、近づくキアーラたちを見つけて、スッと顔を横にふった。


「テオは生き返らせたわけじゃない。子猫は死んでいたんじゃない、死にかけてたんだ。未熟なテオが自分の命を削って治したんだ。もし、また同じことをしたら、試しただけでテオの命はない。死ぬだろう」

「そんな」

「ダリオ、お前の母親が死んだのは悲しい。だが死んだ者を生き返らせるのは不可能なんだよ」


 キアーラは僕の手をつかんで、そっと手前の路地に入った。



 家の裏口からなかに入った四人を、ブリ婆さんがむかえてくれる。


「鍛冶屋のダリオが、表でガエタノと話しているね。なにかあったの?」

「ノーヴェが、ダリオの母親が昨夜なくなったんだよ。ずっと心ノ臓が悪くて寝たきりだっただろ」


 ガエタノが家に入ってきた。


「テオ、鍛冶屋のダリオが、死んだ母親を生き返らせろと言ってきた。ダリオが最初ではない。もう何人も死んだ者を生き返らせてほしいと訪ねてきている。キアーラ、パエーゼ。申し訳ないが、同じ要求をする者から、テオを守ってやってくれ」

「ええ、わかったわ。治癒魔法が、死んだ者も生き返らせると信じたいのよね。工舎でも時々来るわね。教会のエセ聖者のせいでもあるけどね」


 エセ聖者ってなんだろう?

 モルンと僕は顔を見合わせて、首をひねった。


 ケプッ!


 モルンがしゃっくりのような可愛らしいゲップをして、そっぽを向いた。

 小魚の食べ過ぎは、ブリ婆さんに怒られるよ、モルン。


お読みいただき、ありがとうございます。


次回は、「追いかけっこ」

テオとモルンの武術訓練が本格的に始まりますってお話です。


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

ブックマーク、よろしくお願いいたします。

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