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第一章 レストラン創業! 7-開店準備2

リビングにみんなが集まったのを見てダルクは口を開く。



「……よし、みんな集まったな。今夜、近くのレストランに行って今の俺たちに必要なものをリサーチしてこようと思う。シューレはすまないんだが……」


「留守番だね。わかったよー」



言葉で言わずとも察してくれたシューレにダルクは少し微笑んで返した。





そうしてダルクとスヴァン、トレインの三人は夕方に近所にある『ホテル・リベルタ』のレストランに足を運んだ。そのレストランの光は暖色で統一され、あたたかな雰囲気が醸し出されている。シャンデリアもゴージャスで、上品なイメージだろう。

これを見てダルクは「ロゼさんはこういう雰囲気は好みだろうか」と思案している。


そうしてこちらも上品に飾られた丸テーブルを囲み、顔を寄せた三人はコソコソと話しあった。



「やっぱり大事なのはコスチュームじゃないかい? ここはベージュの布地にワインレッドのラインだね」


「そうだな。俺たちはどうしようか……」


「俺らのレストランの名前に(ノワール)が入ってんだったら、黒は絶対入れたほうがいんじゃねーの?」



スヴァンの案にダルクとトレインは「おお!」と言ってうなずきあう。



「じゃあ黒は入れよう。あとは……そうだな、割とシンプルな服がいいんじゃないか?」



ダルクがそう言うと、トレインが「よし」と何か決めたように口にした。



「僕の知り合いにデザイナーではないんだけど、デザインが得意な子がいるんだ。その子に後はおまかせでデザインしてもらうなんてどうかな?」


「なんだよ、そういう便利なのがいるなら早めに言えよなー」


「まぁまぁスヴァン。じゃあトレイン、よろしく頼む」


「わかったよ」





しばらくして、料理が運ばれてきた。

ダルクが頼んだのは肉料理の「サルティンボッカ」、スヴァンが頼んだのは「ストラコット・アッラ・フィオレンティーナ」というおそらく肉を煮込んだもの、トレインは「ボスカイオーラ」というパスタ料理。メニュー表に写真がなかったため、彼らは料理が運ばれてくるまで自分がどんなものを頼んだのかもわからなかった。それほどに、無知。



「おいしそうだね。もう待ちきれないよ」


「さっさと食おうぜ」



そう言ってためらいもなく一番に食事を口に入れたスヴァンだが、肉を頬張ってもぐもぐと噛んでるうちにその表情は渋くなった。



「……どうしたんだい?」



怪訝な表情をするトレインを一度見たスヴァンはフォークを置いた。



「もういらねぇ」


「ええええええ!?」



トレインの小さな絶叫。ダルクは心配そうな顔で聞いた。



「そんなにおいしくないのか?」


「わかんねーけど、苦ぇし変な味がする」


「苦い? ダルク、僕らも食べてみよう」



そうしてダルクとトレインはスヴァンが残した肉を一切れずつ食べてみる。そして、



「「ああ……」」



納得した。その様子を見てスヴァンは二人に食いつく。



「何が『あぁ……』だよ、納得してねぇで教えろ」


「ズバリ、赤ワインさ」


「おそらく赤ワインの酸味や苦みが残ってるんだろう。あえて残してるのかはわからないが」


「そーかよ。こっちは金払うんだからそれなりに美味いもんだせよな」


「スヴァンには大人の味過ぎたということでもあるよ」


「うるせー」



ダルクは残念そうにスヴァンの料理を見て、自分が頼んだ料理を見た。



「しかし、残すなんてもったいないな。俺たちは自分の分があるし……」


「別によくねぇ? 金は払うんだ。どうしようが勝手だろ」


「シビアだねぇ……」



その時。



――ピピッ!



遠くで聞きなれない音がする。その音にすぐさま反応した彼らがその方を見ると……



「お会計は千二百ビターになります」



カウンターに見慣れない機械があり、客が口にしたであろう料理名と金額が電光掲示板みたいなものに表示されていた。それを見た三人は一瞬にして目が輝く。そして再び丸テーブルの中央へと顔を寄せて声を合わせて言った。



「「「あれ欲しい!」」」





ホテル・リベルタのレストランを出てノワール・ローブに帰ってきた後、トレインは情報屋に会うため馴染みのバーにやってきた。暖色のランプが少なめに配置されている店内のさらに暗いところ、奥の席に向かうと目的の人物が先に飲み物を飲んでいる。ここはバーだというのに、その男が頼むのはいつもミルクだった。



「相変わらず飲み物だけはサマにならないねぇ、時雨(シグレ)は」



トレインがそう言いながら隣に腰かけると、時雨と呼ばれた見目麗しい小柄なアジア人は不服そうな顔をした。二十歳と聞いてるが童顔なため十代のように見える。



「無駄な失敗をしないためだよ、アンタの二の舞にならないようにね」 



そうしてミルクとウイスキーがそれぞれの口に流し込まれた。



「そういやアンタっていくつだっけ?」


「僕かい? 三十一だよ」


「オレは二十歳だからもう少しで一回り違ったのか。『兄さん』とでも呼ぼうか?」



時雨の冗談にトレインはフッと笑って首を横に振る。



「やめてくれよ、友人」


「冗談だ。……それで? 今日は何を聞きに来たの」


「聞きたいことはあるけど、その前に頼み事をひとつ。レストランの話は前にしたと思うんだけど、そのコスチュームをデザインしてくれないかな? 黒を使用して、シンプルなものがいい。お金も用意したよ、デザイン代と洋服屋への発注代だね」



時雨はトレインが手渡して見せた紙袋の中を確認して「了解、いいよ」と二つ返事で引き受けた。



「それで、何が聞きたい?」


「さっきホテル・リベルタに行ったんだ。そこのレストランにあった会計の機械が欲しくて。作った人を知ってるといいんだけど」


「なるほど。この前そのレストランのオーナーが嬉しそうに語ってたから知ってる。作ったのは隣街のウェストンに住む発明家のハミエル・ガートナーだ。息子のロンと二人暮らしで、常識はある男だけど変な特性のせいで変人扱いされてる」



時雨の発したワンフレーズに引っかかるところがあり、トレインは聞く。



「変な特性って?」


「日の光が苦手で、行き過ぎた完璧主義。息子のロンは引きこもりらしい。会計機を依頼したいのなら夜に行かないと取り合ってもらえないらしいよ」


「へぇ……、まるでヴァンパイアだね! でも居場所がわかるなら依頼しに行きたいよ」


「それならオレが地図を用意しよう。数時間後にアンタのレストランのポストに入れておく」


「助かるよ、ありがとう」



そして二人は少し沈黙して飲み物を楽しんだ。



「そうだ時雨、ここからは友人として話をしてくれないかい?」


「もちろん」


「昨日シューレという名前の特殊メイクのマスク職人が仲間になったんだ。その人、顔立ちがいい人が苦手らしくて……僕は目の敵にされてるんだよ」



とほほ、と肩を落とすトレインを見て時雨は大人びたように苦笑した。



「あぁ、シューレ・パルキムか。なかなか面白い話だな。その人、レストランで何するの?」


「盛り付けの才能があったから、盛り付け担当になったよ」


「へぇ。じゃあ誰がシェフ?」


「あ。……しまった、決めてない!!」


「アホかよ。アンタらってどっか抜けてるな」



時雨の呆れた声がするが、トレインは少し穏やかな顔になる。



「でも、案外楽しいよ。そうだ、時雨も仲間にならないか?」


「やめとく。オレは作る側じゃなくて食べる専門だから」



時雨は面白い動物を見るような眼差しでトレインを見ていた。





一時間後、ノワール・ローブにて。



「ということで、仲間になるのを断られたうえに料理担当が誰かを決めてないってことがわかったよ」



ダルクは深刻そうな表情で「……盲点だった」と顔の前で手を組み呟いた。



「っつーことはシェフ決めか」



スヴァンの言葉を最後に重い沈黙が落ちる。その様子にシューレがおどおどとし始めたタイミングで、ダルクが言った。



「……スヴァンだな。ナイフの扱い上手いだろうし」


「あぁ!?」



急に出てきた自分の名前に飛び上がるスヴァン。



「理由が雑だねぇ……」


「スヴァンは料理したことあるのー?」


「あるわけねーだろ!」


「スヴァン、人は誰しも未熟なところから始まるんだ。お前ならできる!」


「うっせぇよ!」



だが、次のトレインの一言でスヴァンもうなずくほかない。



「でもシェフってレストランではかなり権力のある役職だよ。そういうの、憧れない?」


「う……。くそ、どうなっても知らねーからな」





同刻、ガートナー家にて。



「頼むから、私たちを自由にしてくれ。金が欲しいなら渡す」



拘束された男の願いがむなしく響く。




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