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第一章 レストラン創業! 5-襲撃


ダルクに調子をすっかり崩されたスヴァンは盛大な溜息をついた。



「わーったよ、しょうがねーな。じゃあ倒すのは俺が一人で行くわ。お前ら守りながらだと面倒。シューレ、敵は殺し屋二人とザコのステレッド兄弟であってるか?」



シューレはうなずく。



「あぁ、そうだよー。大丈夫? 僕も何か手伝おうかー?」


「いや、いいわ。ダルクとトレインにロープで軽く縛ってもらって捕まってるフリでもしておけよ。もし敵が来たら『脅されてる』とか言っとけ」


「わかったよー」



いつも通りの口調で話を進めるスヴァンをダルクは不安そうな目で見た。



「スヴァン……、お前の腕が確かなのはわかるが心配だ。相手は殺し屋なんだぞ?」



その言葉を聞いてスヴァンは軽くフッと笑う。



「怖くねーよ。俺は一回死んだようなもんだ、これくらいでビビるかってんだ。そこで無駄な心配しとけ。それに」


「それに?」


「いざとなればお前が相棒の引き金を引いてくれんだろ」



そう言って背を向け、部屋を出ようとするスヴァンを今度はトレインが引き留めた。



「ちょっとまってよ、『死んだようなもの』って何の話だい?」



そこにすかさずダルクが口を挟みながらスヴァンに相手を眠らせるための薬を手渡す。



「過去の話なんだ、トレイン」


「……。スヴァン、今度話を聞かせてもらうから生きて帰って。絶対だよ」



念を押すトレインはじっとスヴァンの背中を見つめていた。スヴァンはその視線と言葉の重みをしっかり背で受け止めていたのだろう。



「おう。じゃーな」



あえて、軽く手を振り扉の向こうへ姿を消した。


ダルクから敵に嗅がせる薬を受け取ったスヴァンはシューレの部屋を出てあたりを見渡し、壁に立てかけてあった廃材の木の棒を手に取った。自分の片腕ほどのその棒はささくれ立っているが、指紋を残さぬようにつけていたタクティカルグローブのおかげで手が痛むことはない。


スヴァンは敵がいる奥の部屋の扉の前で深呼吸した。そのまま勢いで、適当に軽快なリズムをつけて扉をノックする。


二秒ほどおいて、「おい、変なノックすんな」と言いながら男が扉を開けてきたタイミングで、スヴァンは扉が閉まらないように木の棒を滑り込ませた。 そのまま起き上がりざまに肘で男の腹を突いて流れるように背後に回り、薬を嗅がせて眠らせる。



「だ、誰だてめぇ!」



もう一人の男が銃を構えようとするのを見たスヴァンは、銃ではなくその手の甲を蹴って銃を落とさせた。床を滑る銃の先で二人の男が慌てて隠し通路から逃げていくが、ちらりとそれを見たスヴァンは放っておく。そして蹴りを入れた流れでそのまま目の前の男の脇腹に回し蹴りをお見舞いした。 事前に確認した写真から、逃げて行ったあの二人がおそらくステレッド兄弟だろう。 トレインに教えてもらった地図によるとその隠し通路の先にはステレッド兄弟の邸宅につながっているだけだ。表立ったことはできないから増援は来ないはず。


蹴られて体勢を崩し膝をついた男は、その隙に薬をスヴァンに嗅がされた。



「おっしゃ、終わり。念には念を入れとくか」



倒れた男二人をそれぞれ後ろ手にして、二人の親指どうしを結束バンドで縛り上げる。そして男が先ほど落とした銃をちゃっかり(ふところ)にしまうスヴァン。



「戦利品もよし」



そのまま口笛を吹きながらシューレの部屋へ向かい、扉を開けると。



「おかえり、スヴァン」



ダルクが銃を縛り上げられたシューレに向けながらトレインとお茶を飲むところだった。



「おう、誰だよ心配するとか言ったやつ」



そう笑いながらスヴァンは腰元のナイフでシューレの縄を切ってやる。

トレインはダルクの分と自分の分のお茶のグラスに残る痕跡をふき取りながら弁解した。



「いや、心配はしてたよ。無事でよかった」



トレインの横でシューレもうんうんとうなずいている。



「そんじゃ、とっとと金をもらってこーぜ。金目のもんや使えるもんももらってな」



そう言って懐にしまっていた銃をちらりと見せたスヴァンは、トレインに苦笑された。



「まったく、抜け目がないね」



ダルクはスヴァンに肝心なことを聞いた。



「それで、全員眠らせたのか?」



スヴァンは首を横に振る。



「いや、あのザコ貴族たちは隠し通路から逃げてった。俺が眠らせたのは殺し屋の二人だけ」



ダルクは腕を組んで「ふむ……」と言い、少し考え込んでから。



「君はどうしたい? シューレ。雇い主は君を置いて逃げたわけだが」



シューレは人差し指で頭を掻きながら困ったように宙を見上げる。



「うーん。困ったなぁ」


「俺にひとつ考えがあるんだ。スヴァンとトレインも聞いてくれ。……シューレを俺たちの仲間にしてはどうだろう」



ダルクの言葉にシューレはパァっと光が差し込んだように目を見開いた。



「マジかよ。ま、俺はべつにいいけどー?」


「うん、ここで野放しにしてステレッド兄弟に僕らの身分を明かされても困るしね。きっとシューレさんは心配しなくても口を割らないだろうけど……」



スヴァンとトレインの反応を承諾と受け取ったダルクはシューレの様子を見る。



「どうだ。俺たちについてくるか、ついてこないか。君の意見を聞かせてくれ」


「僕は……」



シューレは人差し指と人差し指の指先をくっつけたり離したりしながらゆっくりと自分の気持ちを吐露していく。



「自分が少し変わり者だって知ってるんだ。人に気持ち悪がられることも多かったし、一人でいることの方が嫌われずに済むから気楽で。君たちについていったところでレストランの中じゃ僕に役目なんてないのかもしれない。でも……それでも、僕に『仲間』って呼べるものがいてくれるなら、僕はできることを頑張りたいと思うし、今日が……きっと人生で一番すばらしい日になるのかもしれない」



そう言いながら最終的にはもじもじしていた手をおろし、ダルクたちの目をしっかり見回したシューレは初めて決意のこもった声音で言い切った。


ダルクたちは目を見合わせ、微笑む。



「よし、ついてこい。シューレ!」


「うん!」


「よっしゃ、人手も増えたことだしあいつら起きる前にさっさと貰えるもん貰ってくぞ」


「じゃあシューレさんも含めた君たちは金目の物を入口まで持ってきてくれ。僕は退路を確保しながらリヤカーを持ってきておくよ」



即座に役割を分担した彼らはそれぞれ動き出す。





ありあまるほどの金や物をリヤカーにたんまりと乗せたダルクたち一行は夜道を歩く。もうじき空は明るくなるだろう。


トレインは出会ってすぐシューレの一連の行動を疑ってしまったことを詫びた。



「あの、シューレさん。さっきは色々と疑ってしまって悪かったよ。悪気はなかったんだ」



するとシューレはいつもの口調でさらっと、



「別にいいよー。イケメンとは本当は喋りたくなかったからー」



拒絶の言葉。あまりに違和感なく言うものだからトレインはシューレを三度見した。



「え」



スヴァンはなんでもないことのように平然と話す。



「よかったな、イケメン認定されて。こいつ顔立ちの良いやつ嫌いなんだわ」



それを聞いて固まるトレイン。そしてダルクは「ほう」と目を丸くするがすぐに疑問が浮かんだ。



「あれ、ってことは俺やスヴァンは……」


「言うな、殴んぞ。でもまー、シューレほどブサメンじゃねーだろ、俺たちは普通」


「そうだねー」



あっけらかんと失礼なことを言うスヴァンの言葉を何事もなく流すシューレ。



「ちょっと君、今思いっきり悪口言ったスヴァンには何も言わないのかい!? 理不尽だ!」



トレインの嘆きが夜明けの空に消えた。





レストランの建物の前にダルクたちが戻ってくると、シューレは眩しいものでも見るように目を細めて外観を見上げた。



「ここが、君たちのレストランなの……?」


「そうだ。今日から君の帰る場所だぞ」



そう言いながらダルクはポンっとシューレの背を叩いて、スヴァンたちと建物に入っていく。



「そうか、ここが……。みんな、待ってよー」



シューレは笑顔を見せながら遅れて建物に入っていった。



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